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゚+.゚ *+:。.。 。.世 紀 末 ゚.+° ゚+.゚ *+:。.。
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最期の審判
(
たかはし@普通種を愛でる会
)
投稿時刻 : 2018.07.22 15:22
最終更新 : 2018.07.27 19:54
字数 : 5301
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更新履歴
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2018/07/27 19:54:09
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2018/07/24 13:48:39
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2018/07/23 15:56:44
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2018/07/23 15:50:09
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2018/07/23 15:49:26
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2018/07/23 15:48:27
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2018/07/23 15:36:19
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2018/07/22 19:30:19
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2018/07/22 15:46:32
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2018/07/22 15:24:08
-
2018/07/22 15:22:12
最期の審判
たかはし@普通種を愛でる会
麦茶と煙草を買
っ
てコンビニから出ると、駐車場に何やらものすごい人だかりができていたので、何事だろうと近づいてみた。
男性が一人、倒れている。頭や胸からひどく出血していて、元の服の色がわからないくらいだ。
救急車が到着した。隊員が素早く状態を確認している。「意識なし、呼吸、心拍停止。頭部に外傷、出血はすでに止ま
っ
ている様子」
特に慌てる様子もなく、淡々と搬送作業をしているところを見ると、すでに死亡しているのだろう。いわゆる「心肺停止状態」
っ
てやつで、病院で医師が死亡診断をすると正式に「死亡」と報道される、あれだ。
後ろのほうでは警察官が、バンパー
の凹んだ車の前に立つ女性から話を聞いている。女性は震えながら「アクセルとブレー
キを踏み間違えた」というような話をしている。
よくテレビニ
ュ
ー
スで見る事故だが、こうや
っ
て目の前で起こるとや
っ
ぱり怖いものだなあ。帰りは気を付けよう。と思
っ
て歩き出そうとしたところで、財布がないのに気が付いた。車のキー
レスエントリー
と免許証も財布と一緒なので、慌てて探すと、すぐに見つか
っ
た。人ごみに中の地面に落ちていた。
よか
っ
た。と思
っ
て拾おうとしたら、若い警察官が先にさ
っ
と拾い上げて中身を見だした。おいおいおい。それ僕のだけど。
「被害者の免許証が見つかりましたよ。財布の中にありました」
と、彼は年長の警察官に報告する。
ん?あれ?どういうこと?それ自分の財布なんですけど?今読み上げてるのも自分の免許証なんですけど?被害者さんのじ
ゃ
ないよ。だ
っ
て被害者さんはあそこに、あの、血でよくわかんないけど、水色のワイシ
ャ
ツに紺のズボンの
……
……
僕だ。
ようやくストレ
ッ
チ
ャ
ー
に乗せられ、毛布を掛けられて搬送される死体は、よく見ると自分の体だ
っ
た。
待
っ
てくれ自分!ち
ょ
っ
と!僕事故で死んだの?とパニ
ッ
クになりかけたのは一瞬で、そのあとは割と落ち着いている自分がいた。
ああそうか、死んだのか。死んじ
ゃ
っ
たのか。こういうのよくドラマであるよなあ。幽体離脱?他人事みたく俯瞰してる
っ
ていうの?や
っ
ぱりこういう感じなんだ。
と思
っ
て自分の死体を眺めていたら、スポ
ッ
トライトのような閃光が天空からパー
ッ
と自分を照らし、その光の中を、背中に白い翼がはえた白い衣の女性が降りてきた。
ああ、これもよく見るやつだ。や
っ
ぱり最期はこうなんだね。天使が迎えに来てくれたのだ。
「あなたが天使ですか?」アスフ
ァ
ルトの上に暑そうに舞い降りたその女性に向か
っ
て、私は訊ねた。
「いいえ、違います」女性は答えた。「私は審判です」
審判?ち
ょ
っ
と意味わかんない。審判てあれのこと?最期の審判?天国行きか地獄行きか決めるあれのことなの?今決めるの?今ここで?あなたが?
よく見る流れから外れたので多少あたふたしている私をしり目に、審判と名乗る彼女は黒いボー
ドを頭の上に掲げた。私が両手のひらを上にあげて首をすくめ、「訳が分からない」というジ
ェ
スチ
ャ
ー
をすると、彼女は顎と目で「ボー
ドを見ろ」と無言で促す。
私はち
ょ
っ
と離れてそれを見上げる。黒いボー
ドは電光板にな
っ
ていて、数字の「7」と表示されている。
彼女はそれを周囲にも見えるように回しながらかざした。しかし誰も彼女の存在にも、私の存在にも気づいていない風であ
っ
たが。
そしておもむろに彼女は宣言した。「アデ
ィ
ッ
シ
ョ
ナルタイムは7分です」
「アデ
ィ
ッ
シ
ョ
ナルタイム?サ
ッ
カー
ですか?あなたはサ
ッ
カー
の審判ですか?」
「いいえ。今言
っ
たのは、あなたの人生のアデ
ィ
ッ
シ
ョ
ナルタイムです。この時間は、あなたが他者の人生のために、あなたの人生を中断した時間から算出されます」ここまで一気に無表情に語
っ
た彼女は、「7分て、結構多いほうですよ」と、ち
ょ
っ
とだけ笑
っ
た。
「今から7分間、あなたは、人生でやり残したことを思う存分、悔いのないように行
っ
てください」
彼女は左の翼の先を自分の胸の前にたたむと、そこから右手の親指と人差し指で一枚の羽毛を取り出し、私に渡した。
「これを持
っ
ていれば、あなたが行きたいところに即座に行けます。あなたを知
っ
ていて、あなたの死を知らない方とは、会話もできます。7分が過ぎたら、強制的にここに戻
っ
てきます」彼女は言
っ
た。
「では今からスター
トします。お気をつけて」彼女は腕時計を見ながら、頬につけたインカムに小声で何かを話した。
僕は純白の小さな羽毛を持
っ
たまま、しばらく呆然と立ち尽くいていた。こういうのはあんまりドラマで見ないから想定外である。
僕は腕時計の秒針を確認しながら考えた。とにかく一旦、会社に戻ろう。仕事中だ
っ
たんだから、まずはそいつを片付けないと、他のことに集中できない。と思
っ
た瞬間に、僕の体は会社に戻
っ
ていた。
「おお、高橋君、早か
っ
たねえ」
「おかえりなさい」
事務所のメンバー
がいつも通りに話しかけてくれる。
「で、先方の反応はどうだ
っ
た?」課長が、私が事故前に得意先にプレゼンをしてきた提案の件を、身を乗り出して聞いてきた。
「反応は上々でしたよ。多分、定期的な受注にまで漕ぎ着けられると思います」僕は偽りなく答えた。事務所全体がほ
っ
こりとした一体感に包まれる。その居心地の良い空気感に少し感傷的に浸
っ
てから、私は小さな嘘をついた。「ただし、仕様や納期の部分で多少の変更を提案されましたので、この先は皆さんにご迷惑をかけることになると思います」
「迷惑だなんて、これはみんなの仕事だよ。みんなでやるのが当たり前じ
ゃ
ないか」
「そうですよ」
「大丈夫です!頑張ります!」
あちこちから声が上がり、ああ、この会社で過ごせてよか
っ
たなあ、と思
っ
た。席に座
っ
て、も
っ
とぐずぐずと、いつものように過ごしていたか
っ
たが、時間はあと5分しかない。
「課長、急なんですが、家人が救急搬送されたらしくて」嘘は言
っ
ていない。「これで有給で帰
っ
てもよろしいでし
ょ
うか?」
「そうなの?大丈夫?熱中症?」「とにかく急いで行
っ
てあげて!」「ていうかそ
っ
ち優先しなよ!」
みんなが言
っ
てくれた。
「では、これで失礼します。ありがとうございました」
僕は深々とお辞儀をしてからドアを出て、白い羽毛を手に取
っ
た。
自宅に着いた。妻は買い物にでも出かけているのか、留守であ
っ
た。しめた。急がねば。
私は大急ぎでノー
トパソコンを開き、電源ボタンを押す。珍しく早く立ち上がる。
パスワー
ドを入れ、ひみつのフ
ォ
ルダー
を開いてから、今まで十数年かけて集めてきたお気に入りの大人画像と大人動画を、一気にゴミ箱にドロ
ッ
プした。「ゴミ箱を空にする」を選択し、実行状況が%で示されている間は、切なくもあるが、やはりもう感謝しかない。大変お世話になりました。ありがとう、そしてさようなら、僕のお気に入りち
ゃ
んたち。
履歴とブ
ッ
クマー
クを消し、念のためク
ッ
キー
も消去していたところで、急に妻が帰
っ
てきた。お互い「うわああ!」と叫ぶ。
「ち
ょ
、ち
ょ
っ
と、なんで今家にいるの?仕事は?」
妻がたじろぐのは好都合であ
っ
た。
「会社で必要なデー
タを、パソコンに残したままだ
っ
たから、慌てて戻
っ
てきたんだよ」
僕はパソコンをいじる振りをしながら、自宅残業用デスクの引き出しを開け、預金通帳や印鑑、保険証券、ロー
ンの残高表、源泉徴収票などをわかりやすく手前に並べた。
「よし!これで大丈夫。じ
ゃ
、もう一回、行
っ
てくるよ」
振り返ると、妻の両手は買い物袋でふさが
っ
ていた。
僕は妻のそばを素通りするふりをしながら、いきなり抱きしめて、キスをした。
「ち
ょ
っ
と!?何してるの?暑い暑い暑い!!」
少し怒
っ
た妻の顔が、付き合
っ
ていたころの頻繁な喧嘩の思い出と重な
っ
て、なんとなく学生時代に戻りたくな
っ
た。が、この白い羽毛にはそんな力はない。今できることをしなければ。
「じ
ゃ
、行くね」
「い
っ
てら
っ
し
ゃ
い。あ、今日の晩御飯、すき焼きだからね」妻は得意げに買い物袋をかざして見せた。
「わか
っ
た」
ああ、そのすき焼き、食べたか
っ
たなあ。今言おうか。ここで時間を使い切ろうか。
でも、二人暮らし、子供なし、の夫婦の別れは、これくらいが丁度いいかもしれない。あいつもまだ再婚を考えられる年齢だし、何よりしんみりしたくない。
あと2分30秒ある。が、その先はノー
プランだ
っ
た。仕事と家庭。それだけが全てにな
っ
てしま
っ
ていたことが、我ながら笑えた。何だ、僕の人生平凡極まりないなあ。じ
ゃ
あ凡人らしく、思い出巡りでもするか。僕は白い羽毛をかざしたまま、あちこちへ飛んだ。
大学のキ
ャ
ンパスを歩いてみた。高校の机に座
っ
てみた。中学の体育館の床に座
っ
てみた。
郷愁旅行。後ろ向きなことばかりや
っ
てるなあ。小学校の廊下を歩いきながら考えた。でももう人生は終わ
っ
たんだ。今から前向きな何かができる訳もない。それでいいじ
ゃ
ないか。静かにこの世を去ろう。
と思いながら、ふと廊下の壁に目を向けると、「僕の夢・私の夢」という絵画と作文が小学校の壁一面を埋めている。
夢
……
? 僕の夢
っ
て、何だ