アニー・ローリー 恋の真実
若き日の失恋。
心中・自殺等、人生からの敵前逃亡でカタをつけた気になるひ弱なストー
リーとは一線を画す、リアルな人生。
18歳での恋、そしてその後も61年続いてゆく日々。
未練がましく想い出に縋る男。
自分の人生を生きてゆく少女。
「都合の良さ」を打ち砕く、実話に基づくストーリー。
アニーの口から、何が語られるのか……?
【概要】
17世紀末のスコットランド貴族であるマクスウェルトン卿のサー・ロバート・ローリー家の末娘として世に生まれたアニー・ローリー。
長ずるにつれ、美少女として国中に知られることとなる。
アニーはやがて貴族の青年ウイリアム・ダグラスと恋に落ちる。
だが、アニーはまだ若い上に政治的立場を異にするアニーの父によって二人の仲は裂かれてしまう。
アニーを失ったダグラスは傷心のあまり……別の女性エリザベス・クラークと駆け落ち。
詩人でもあったダグラスはアニーへの思いを詩に残したものの、結局それ以外の詩は世に出ないままで終わった。
アニーも傷心のあまり……クレイグダーロック領主アレクサンダー・ファーガソンに嫁ぎ、彼女を愛した夫によって大邸宅や庭園まで造られた。
夫との仲は睦まじく、多くの子供と孫に恵まれ、当時としては長命の79歳まで生を全うした。
一方、ダグラスの残した詩はスコットランドの作曲家・スコット夫人によって曲がつけられ、やがて世界中に知られることとなったが、ダグラスの詩はそのままでは使い物にならず、幾度となく修正が加えられたという。
ダグラスは年老いてもなお、アニーの美しさを讃え、引き裂かれた恋を悔やみ、生まれ変わったならぜひ一緒になりたい、と繰り返し語っていた。
一方、老境のアニーのもとを一人の作家が訪れる。
少女時代の悲恋について聞かせて欲しいと告げた作家に対して、アニーは……。
「どなたですか、その方」
ダグラスについて説明されると、アニーは顔を顰め、吐き捨てるように言った。
「私はなんにも知らない娘でしたからね。調子の良いことを言ってくれるあの人に、あっさりと騙されてしまったのです。父との政治的立場の相違など、予め分かっていたことですからね。それなのに無責任に結婚の約束をして、夢中になった私を利用して押し切るつもりだったんでしょう。ほんとうに狡い人でした」
作家は何とか美しい思い出を話して貰おうとしたものの、アニーは首を振った。
「あの人は若くて美しい娘が好きだっただけですね。汚らわしい」