第48回 てきすとぽい杯〈紅白小説合戦・白〉
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リベンジャルズ
投稿時刻 : 2018.12.15 22:36
字数 : 1616
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リベンジャルズ
犬子蓮木


 復讐はなにも生み出さないなんてきれいごとがあるけれど、実際のところ、復讐は復讐を生み出して、繰り返し繰り返し続いていくのだ。だから誰かがどこかで我慢してその流れを断ち切らなければいけないのだけど、私は夫を殺したあの男をどうしても許そうとは思えなかた。
 直接、あの男を殺したりはしない。
 愛するものを失た絶望を、あの男にも味わせてやるのだ。
 奥さんには罪もなければ怨みもない。ただ、運が悪かたとあきらめてもらうしかない。結婚した相手が悪かたのだ。
 そう、謝罪だけはしよう。
 殺すときに、謝ることだけは。

「なんですかあなたは」
「あなたの旦那さんに、夫を殺されたものです」
 眼の前で縛り付けられた女は、わけがわからないという表情で震えている。
「あなたの旦那さんは、これまでに多くの人間を殺してきた犯罪者なんですよ」
「うそ!」
「うそではありません」
 私はタブレトに写真や動画を映し、女に見せた。
 残酷な殺害の描写に女の表情が凍りついていく。ここに映て笑いながら人を殺しているのはお前の旦那だ。ここに映て殺されているのはわたしの夫だ。
「だからわたしは復讐するのです。人の大切なものを奪た人間から、大切なものを奪て」
 ナイフを鞘から抜き出す。
「あなたはこれからこのナイフで何度も刺されて殺されます。その映像をあいつに送りつけたら、どんな顔をするでしうね」
 足を刺した。
 悲鳴があがる。
「助けて! わたしは関係ない! まだ結婚したばかりなの」
「そうですか。わたしもまだ新婚でした。つらい過去を乗り越えて、幸せになろうて誓いあたばかりでした」
 ナイフで刺した。
 何度も刺した。
 悲鳴があがて、泣きわめいて、叫んで、名前を呼んで、助けをこうて、言葉が言葉でなくなたころに、涙にまみれた女の顔は、ついに静かになた。
 わたしは女の長い髪を掴んで、カメラの前に引きずりアプで映してから顔の真ん中に突き刺してやた。手を離し、死体が地面に音を立てて転がる。わたしはカメラに向かて微笑んだ。
「それじあ、またね」

   §

 過去を思い出すととてもつらいことがたくさんあた。
 それでも人間は生きていくことで、それを乗り越えたり、忘れながら新しい幸せを見つけていく。薄情だろうか。それでもわたしを愛してくれた人たちが、今もわたしの幸せを祈てくれていると勝手ながらに考えることしかできない。
 わたしは再婚した。
 わたしの過去は夫には話していない。
 やさしそうな人だから、きと耐えられないだろう。
 だから隠し事をして生きていくことになる。でも、それぐらいのつらさはどうしたて人生には存在するものなのではないだろうか。
 インターホンがなた。
 聞いたこともない宅配便の業者だた。
 重そうなダンボールを玄関に置いていた。
 見に覚えのないわたし宛の荷物。否、ひとつだけ覚えがある。それはどうしても体が震えてしまうもので、想像したくはないけれど、想像をしてしまうもの。
 わたしはダンボールを止めていたガムテープを急いでやぶいた。そうしてふたをあける。
「ああ、あなた……
 中にはバラバラにされたわたしの夫が、綺麗に区分けして詰め込まれていた。一番上に頭が、静かに眠ているかのような表情でのせられていた。
 また、殺されてしまた。
 あいつに、殺されてしまた。
 私が奥さんを殺したあとで、あいつは遠くへ引越したようだた。そうしてそこで再婚し、静かに、平和に暮らしていると調べていた。だからもうあきらめたのだと思ていた。でも、違た。あいつはまだやめる気はなかた。
「これで、10人目だよ……
 わたしはバラバラにされた夫の頭を抱きしめて涙を流す。
 わたしが結婚した相手は、10人殺された。
 あいつが結婚した相手を、10人殺してやた。
 どうして、どうして、終わらせてくれないんだ。
「あはは……
 わたしは笑いながら、あいつの奥さんを殺す計画を練りはじめた。
 あいつがどんな表情を見せるか、想像しながら。
                                                <了>
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