第50回 てきすとぽい杯
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ワールドエンドムーブメント
こなた
投稿時刻 : 2019.04.13 23:50
字数 : 930
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ワールドエンドムーブメント
こなた


平成最後の日、私は忘れ物を集めに横浜に行くことにした。
異国感あふれる横浜は私の最も愛しく最も悲しい地である。
横浜てすごいよね、飛行機にも乗らず英語が分からなくても海外旅行ができるのだもの、生まれてこの方ついぞ海外に行くことがなかた君の決まり文句だ。

まずは横浜駅でみなとみらい線に乗換、本町中華街駅へ。しばらく歩くと山手の西洋館に着く。君は毎度飽きずに庭の美しく咲き誇る花に感激し、西洋館の中をしずしずと歩きながら時折いたずらそうな表情でポーズをとるのだ。私は恋人というよりは専属カメラマンである。

くり探索が終われば、来た道を引き返し横浜中華街へと足を運ぶ。途中、カフの看板を読み上げて食べたげにしている君を諫めながら。そして、激辛の四川料理を冷や汗たらしながら頬張る。
途中でおやつ食べなくてよかたね、と自慢げに言う君の言葉は聞こえない振りをして。

キング、ジク、クイーンの塔を目印に赤レンガ倉庫にたどり着き、おやつを食べる。
その後はカプヌードルミジアムかワールドポーターかコスモワールドかは君の気分次第、私は異国情緒はどうしたのか、という台詞を飲み込む。
今回はカプヌードルミジアムに足を運んだ。ひとつひとつ丁寧に展示を見ていく。

そして、日が暮れ。いつもならばホテルのバーに行き食事と酒を楽しむところだが、今日は象の鼻公園で海を見ている。

平成。
振り返ればそこに私の人生が集約されている。
生まれたのも、君に告白したのも、君と結婚したのも平成のたた30年に凝縮されているのだ。
そして、君を永遠に喪たのも。

病気だた。誰も悪くはない、そのことは私を手ひどく痛めつけた。やり場のない怒りが向かた先は、思い出の地横浜だた。
君を失てから私は初めて横浜の地に降りた。最悪だた、どこもかしこも君との楽しい思い出ばかりだた。
もういいじないか。
平成と共に私の人生も終わろう。

腕時計を見た、あと5分。
ん、と花火が上がた。
慌てて腕時計を見る。0時00分。


今まで遅れたことのない君の贈てくれた腕時計。
この時計の時間を司る部分には君の誕生石と同じルビーがはめ込まれているらしい。
私はひとり涙を流した。
0時05分を示す盤面が涙で歪んで見えた。
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