第50回 てきすとぽい杯
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渡り鳥
投稿時刻 : 2019.04.13 23:45
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渡り鳥
小伏史央


 

 地中をおよぐ鳥の群れ。羽をぴたりと体につけて、滑ているかのように足元を流れていく。風力計は高い数値を出していて、その中を飛んでいける鳥の強さに、なんだか感心する。
 全面ガラス張りの渡り廊下。ぼくはその中間点で休憩していた。床に座り込んで足を伸ばす。
 頭上には空、俯くと奈落。かつてここは地上だたという。けれどもうどちらを向いても、人間が立てる場所なんてない。土星の環のように、ばらばらに分解した土の気流を、びんびんと鳥が掻き分けていく。砂粒のような空気はその嘴で舞い上がり、沈殿する暇もなく空を漂ていた。
 頭上を仰ぐと太陽が見える。数日前に昇たばかりだから、これから暑くなることだろう。
 そうやてぼーと座り込んでいると、廊下の奥のゲートが開いた。滅多に開かない、外気出入口がある区画とつながているゲートだ。
 中から人が出てくる。見覚えのない人だた。小脇にヘルメトを抱えているから、外からやて来たのだろう。
 その人はぼくの姿を確認するなり、早歩きで近づいてきた。
「あなたが、ここの管理人さん?」
「はあ」
「私、ふたつ隣の固有シルターから来ましたの。案内してくださらない?」
「はあ」
 起き上がり、その人を改めて見る。ここでは所有していない柄のパイロトスーツを着ていた。それにイントネーンにもどこか異国情緒を感じさせる。
 ついてくるように促し、その人が入てきたのとは別の方向へと、廊下を進む。
「わざわざこんなところまで何の用に?」
「昔、ここに忘れ物をいたしましたの。今この、日が昇て間もないタイミングに来ないと、また機を逃してしまいそうで」
「はあ。まあそういうことなら、すぐに見つかりますよ」
 ゲートを開ける。気圧調節用の予備区画を通り抜けると、住民共同のホール区画に出る。見知た顔が何人か、珍しい客人に視線を注いできた。
「あれはなんですの?」
 ホールの中央に設置された、巨大な時計を指さす。時計は0時5分を示していた。
「ああ、世界終末時計てやつですよ。昔のオブジを飾ているんです」
「へえ」
 ホール区画からはいくつもの通路に分かれていて、そのひとつに管理人用のものがあた。シルターの内容物はこの中ですべて確認できる。管理人用といても権限なんてあてないようなもので、開け放しにしたままのゲートに、入ていく。
「それで、どんな忘れ物ですか?」
「妹を」
「ああ、なるほど」
  シルター内の記録を漁てみると、確かにその人の妹らしい情報が見つかた。
「ありましたよ。再現しましうか」
「お願いいたします」
 使ていない区画を分解させ、それらをこの区画に移動させる。そして妹の情報を与えると、すぐさま目の前でナノマシンが再構築され、幼い少女が再現された。
「お姉ちん?」
 少女が姉の姿を確認する。
「ああ、良かた」
 その人はしがみ込み、自身の妹を抱きしめる。人間の情報はシルターごとに孤立していて、別のシルターで再現はできないから、さぞかし寂しい思いをしていたのだろう。
「帰るならすぐに帰たほうがいいですよ。すぐまた暑くなりますし」
「ありがとう」
「いえ、」
 また渡り廊下の向こうへと行き、その人はジト機に乗り込む。一人乗りのジト機であるため、行くまでは姉妹融合していくようだ。胸と背中を接合した彼らは、またこちらに向かて礼をして、そそくさと出発させる。気流に逆らうと危ないから、来た道を引き返すことはできない。ふたつ隣のシルターから来たということは、帰りはほとんど地球一周の旅になることだろう。
 足元を流れる渡り鳥と一緒に、彼らは再び旅立ていく。
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