第51回 てきすとぽい杯
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投稿時刻 : 2019.06.15 23:24
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合鍵
ra-san(ラーさん)


「こんな広かたんだな、この部屋」

 俺が半分になた荷物に広くなた部屋を見て、感慨深く息を漏らすと、

「それなりに長かたからね、付き合い」

 彼女はくすりと笑て、そう答えた。

「これ、返すね」

 彼女に手渡された合鍵を見つめながら、俺は二人でこの部屋に暮らし始めたときのことを思い出す。不動産屋でこの部屋を契約したときに、一緒に手にしたお揃いの鍵。学生だた。先のことなんて知らないで、意味もなく笑ていた。怖いものなんてなくて、手をつないでいれば、それでずとこのままでいられると、なんの根拠もなく思ていられた、あの頃の二人。

「同じ鍵だたのにね」

 いつからだろう。お互いの鍵で、同じ扉が開かなくなたのは。

「もう違う鍵」

 俺は首を振る。

「鍵は同じだよ」

 彼女が不思議な顔でこちらを見る。

「ただ開かなくなただけだよ。俺の扉も君の扉も」

 俺の言葉に彼女は目を丸くして、それから顔を綻ばせると、噴き出すように笑た。

「くさいセリフ」

 自分でもそう思い、俺も笑う。しばらく二人で笑いあた。そして彼女はひとしきり笑て、最後に息を吐くと、

「でも、そうね。嫌いじなかたな、あなたのそういうところ」

 懐かしむような目でそう言て、

「でも、もう開かない」

 悲しむような目でそう言葉を終えた。

「そういうもんだよ」
「オトナになたもんよね、わたしたち」

 彼女が部屋を出ていく。

「さよなら」

 扉が閉じて、彼女の後ろ姿が消えた。

「さよなら」

 俺は二本の鍵を手のひらに並べ、開ける扉を失た一本を持ち上げると、それをそと机の引き出しの奥にしまた。
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