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第9回 文藝マガジン文戯杯「お薬」
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無邪気な遊び
(
金銅鉄夫
)
投稿時刻 : 2019.10.01 20:53
字数 : 1410
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無邪気な遊び
金銅鉄夫
いつものように、私はカロリち
ゃ
んと二人、アオイち
ゃ
んの家に遊びに来ていた。
アオイち
ゃ
んの家はお金持ちで、タワー
マンシ
ョ
ンの上の方に住んでいる。カロリち
ゃ
んは高所恐怖症で、何度遊びに来ても窓辺には近づかなか
っ
た。広いリビングの傍らには犬用のサー
クルがある。だけど、いつものように私たちを迎えてくれる愛犬はいなか
っ
た。
「今日はパパたちがいないから特別ね」
アオイち
ゃ
んはそう言うと、両親の部屋を私たちに見せてくれた。そこに大きなドレ
ッ
サー
があ
っ
た。どうやらこれを見せびらかしたか
っ
たらしい。色とりどりに並んだ化粧品を見たカロリち
ゃ
んが。
「高価そうなのがい
っ
ぱいある。ウチのお母さんと違
っ
て、アオイち
ゃ
んのお母さんは美人だもんね」
と、はし
ゃ
ぎながら言うと。
「じ
ゃ
あ、二人にも
っ
と良い物見せてあげるよ」
満更でもない表情のアオイち
ゃ
んは、ドレ
ッ
サー
の引き出しの奥から、オレンジ色で半透明のピルケー
スを取り出した。
「この前、アオイがひとりで遊んでいるときに見つけたの。外国から買
っ
た高い薬だと思う。だから奥に隠してるんだよ、き
っ
と」
白い蓋を開けると、中に白くて丸い錠剤が入
っ
ていた。
「ねえ、これ、飲んでみない?」
その言葉に、カロリち
ゃ
んと二人「えー
」と驚いた声を上げる。
「カロリち
ゃ
んも、アオイのママみたいに綺麗になれるかもしれないよ」
「
……
だけど、アオイち
ゃ
んのお母さんに怒られたりしない?」
「大丈夫だよ。こんなにあるから、ち
ょ
っ
とくらい減
っ
ても気づかない
っ
て」
アオイち
ゃ
んがキ
ッ
チンに行
っ
ているあいだ、カロリち
ゃ
んは、「いいのかな? ホントに平気かな?」と、つぶやいていたが、その目は大きな鏡に映る自分の顔を、何度も見返していた。
「はい、お水」
ペ
ッ
トボトルを受け取
っ
たカロリち
ゃ
んは、それほどためらうことなく薬を飲んだ。
「ウ
ェ
ー
ッ
、にがー
い! なんだか飲み込む前に溶けち
ゃ
っ
たみたいだし」
そして、再び鏡のほうを見る。
「そんなにすぐ綺麗にならないよ」
そうアオイち
ゃ
んに言われ、バツの悪そうな顔をした。
最初から決ま
っ
ていたように、アオイち
ゃ
んはごく自然に私にも一錠手渡した。手のひらにの
っ
た小さな錠剤をまじまじと見つめる。興味がないわけではない。これで人生を変えられるなら──。
突然、大きな音とともにカロリち
ゃ
んが倒れた。口から泡をふいている。私は、すぐにアオイち
ゃ
んのほうに顔を向けた。その表情に動転した様子もなく、口元はう
っ
すらと笑
っ
ているように見えた。私はこわくな
っ
た。
視線に気づいたアオイち
ゃ
んは、ピルケー
スを引き出しに戻しながら、淡々と喋
っ
た。
「心配ないよ。カロリち
ゃ
んが勝手に飲んだことにすれば。私たちが止めたけど言うことを聞いてくれなか
っ
た
っ
て、そういうことにしよう。そもそも危ない薬だなんて、三人とも知らなか
っ
たんだから」
私は鏡の中のアオイち
ゃ
んを黙
っ
て見ていた。
こんな事を考えていた人間が
……
いたなんて。
それからしばらく、いろんな大人たちがアレコレ質問してきたが、私は「わかりません」と「よく覚えてません」を繰り返した。あのアオイち
ゃ
んの顔が、忘れられなか
っ
た。
少し落ち着いてきた頃、今度はアオイち
ゃ
んが死んだ。カロリち
ゃ
んと同じ毒を飲んで亡くな
っ
た。「本当は、アオイち
ゃ
んが無理矢理カロリち
ゃ
んに毒を飲ませたらしい。そしてその罪悪感に耐えられなくな
っ
て
……
」そんな噂も耳に入
っ
た。
私は、遊ぶ相手がいなくな
っ
てしま
っ
た。
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