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第9回 文藝マガジン文戯杯「お薬」
〔 作品1 〕» 2  7 
母のくれた、赤い薬(リンゴ)
 投稿時刻 : 2019.09.29 15:57
 字数 : 4233
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母のくれた、赤い薬(リンゴ)
バルバルサン


 お茶の間で皆が休みを楽しむ時間帯。テレビでは旅をしながら歴史の開設をする番組がやている。
 それを、私は自分の部屋で、ぼんやりと眺めつつ、夜の日課のコーヒーを飲んでいる。
 ふと、懐かしい場所がテレビに映る。



 昔々、この場所にはアトル王国という国がありました。
 アトル王国のお姫様は、髪が真白で、肌も冬に振る白い雪のように美しいことから、白雪姫と呼ばれていました。
 白雪姫は、7人の騎士に守られながら、毎日幸せに過ごしていたといいます。
 でも、そんな白雪姫のことを、快く思わない女性が居ました。それが、彼女の母親です。
 母親と言ても、実の母親ではありません。白雪姫は、第一妃の娘だたのですが、実の母親は産後の肥立ちが悪く、亡くなてしまたのです。
 そして、第二妃の今の母親に育てられたのですが、沢山の意地悪をされました。
 そんな意地悪にも負けず、日々の幸せを感じながら暮らしていたある日のことです。
 ノーガル王国の王子様が、白雪姫に一目ぼれしたのです。白雪姫も、それを知るとふんわりと笑んだと言います。このまま結婚するのかと、誰もが思いました。
 ですが、その邪魔を白雪姫の母親がしたのです。
 なんと、結婚の邪魔をするために、白雪姫に毒リンゴを食べさせたのです。
 白雪姫は、苦しみながら亡くなたと言。
 そして、白雪姫の母親は、処刑され、王国の皆が、白雪姫の死に悲しんだと言います。
 これは、今はない王国の、悲劇の一ページです。



 そこで、私は怒りに任せ、テレビの番組を変えてしまた。
 そうか。歴史書にはそう書かれているのか。そう思うと、くやしくて仕方がない。
 でも、仕方がないことでもあるが……「母」の名誉を穢した。その歴史家を八つ裂きにしてやりたい。
 歴史は、生きている人間が都合よく捻じ曲げてしまえる。
 私の苦しみも、母の苦しみも……
 ふと、記憶の中に潜て行こう。私の記憶の中に。母のおかげで保たまま転生できた。かつての記憶の中に。



 アトル王国の王城。その一室。赤い天蓋つきベドの布団の中にくるまるのは、一人の少女、シヴライア。
 ぼと天蓋を眺めながら、ゆくりと胸を上下させている。その髪は、純白を通り越して、青白いほどに真白で、肌も病的に白い。
 スと視線が、扉に移る。人の気配がした。自分を見張る7人の騎士以外の、人の気配が。
 がち。扉が開くと、ゆくりと、一人の女性が入てくる。

。お母様」
「おはよう、よく眠れたかい?シヴ
「はい。昨晩は体の調子が良かたので、ゆくり寝られました」

 そう、ふんわりと笑むシヴライア。それに笑みを返す母と呼ばれた女性、アーマル。
 だが、この二人、全くと言ていいほどに似ていない。それもそのはず、シヴライアはアーマルとは別の女性が産んだ子供なのだ。
 アーマルと、シヴライアの母親は同じ男性を好いていた。この国の王だ。一人の男を、二人の女が愛する……そこには、沢山の苦しみが、嫉妬が、悲しみがあた。そして、それらすべてを合わせたのと同じくらいの、幸せが。
 結局、アーマルは子供を作れず、シヴライアの母親は、この少女を産んだ。この、全てが真白の少女を。国民皆に祝福され、王に祝福されたこの少女を産んだ。
 だが、アーマルは思う。この少女は、生まれて幸せなのかと。
 白雪の姫と呼ばれ、この部屋で大切に、大切に育てられている。だが、それはこの少女の心を無視したものだ。
 この少女は、「生きていることだけ」が、求められている。
 王の娘として、王の、政治的な道具として他の王家に嫁ぐ。そのためだけに生きることが求められている。
 そんなのが、果たして本当に……

「お母様、如何されたのですか?」
「いいえ、あなたが心配する事じないわ」
「そうですか……
「さあ、お薬の時間ですよ。起きられる?」

 そう言われると、シヴライアは顔を輝かせて、起き上がる。

「やと、今日のお薬の時間が来たのですね」
「ええ」

 そう言て、アーマルが取り出したのは、鮮血のように真赤なリンゴ。それをシヴライアは嬉しそうに手に取り、しくり。と齧た。

「あ、美味しいお薬ですね」
「そう、良かたわ」

 リンゴを薬と言て笑んで齧るシヴライアを見て、アーマルは目を細める。その表情は嬉し気にも、悲しげにも見える。
 シヴライアは、色々な病気を抱えている。
 肺の疾患により、長時間の運動は無理だ。
 足の障害により、そもそも歩くことが困難だ。
 目の疾患により、周囲の物の色が分からない……
 等などの病気を抱えたシヴライアを治す方法は、無い。
 だが、何もしないわけにもいかず、リンゴを薬と言て食べさせている。シヴライアが赤子の頃、母乳以外で唯一口にして吐かなかた、リンゴを。
 リンゴは、シヴライアの体に、舌に合うようだ。体が様々な食事に拒否反応を示す中、リンゴだけは、食べることができた。
 リンゴが、どんどん齧られ、小さくなていく。
 そして、食べられない芯のみとなると、シヴライアは、ふと息を吐き。

「お母様。毎日美味しいお薬を、ありがとうございます」
「いえ、良いのよ。これくらいしか、母らしいことなんてできないから……

 そう言て、シヴライアの、絹のような髪をさらりと撫でるアーマル。

……お母様」
「何だい?シヴ
「もうすぐ、私はノーガル王国に嫁ぐと、騎士が言ていました」
……
「ノーガル王国の王子様は、どんな人なんでしう。良い人だと良いな
……そうね。良い人だと良いわね」

 その言葉を聞いて、そうとしかアーマルは返せなかた。
 ノーガル王国の王子は……良い人間なのは間違いないらしい。
 だが、女癖に関してだけ言うと、悪いうわさしか聞かない。手が早いというか、女たらしというか……
 きと、シヴライアだけを愛する。なんてことはしないだろう。
 王子や王様なんてそんなものだ。一人の女性を愛するなんてめたにいない。王は女を囲い、血筋を残すものだ。
 しかし。とアーマルは思う。
 この、体の弱い少女に、子供を残す行為は、無理だ。絶対に。
 どうすればいいのだろうか。どうすれば、この少女に、幸せを送れるのだろうか。
 そう、母親は腹違いの娘に対し、深く悩む。



 カカ。固く、慌てた様子の靴音が、王城の廊下を走る。走ているのは、アーマル。
 彼女は慌て、シヴライアの部屋に入る。
 中では、胸をわし掴んで、苦しむシヴライアの姿があた。

「シヴ! 」
「あ、お母様……苦しく……気持ち悪いのです……とても、とても……
「何てこと……たい何があたの! 」

 騎士に詰め寄ると、どうやらノーガル王国の王子がやてきて、色々と話したらしいことが分かた。
 だが、それだけで何故……と、思ていると、鼻腔をくすぐる、男性用の化粧品の香り。
 そうか、もしかしてと思い、確認すると、やはりというべきか。
 王子の使ている化粧品。それは。シヴライアにとての毒、アレルギーを発症するものだたのだ。
 胸を抑え、呼吸を辛そうにするシヴライア。彼女は、アーマルにせがむ。

「あ……お薬を。お母様。お薬をください……
……ええ、判たわ」

 リンゴでアレルギーの呼吸困難など、治るわけはない。
 だが、シヴライアにとての薬は、リンゴだけだ。
 普通の薬は、シヴライアの体には強すぎて使えないのだ。仕方がなくアーマルは、すりリンゴを食べさせた。
 もちろん、効くわけなどないのだが。

「あ、美味しい……

 ふと、表情だけでも穏やかになるシヴライアを見て、思わずアーマルは涙を流す。
 あ、何でこの少女はこんなに苦しまねばならないのだと。どうにかして、楽にしてあげる方法はないのかと……



 そんな、娘に対して思い悩む母。
 ある日、彼女は、医者さえもさじを投げた少女の傍に、寄り添ていた。
 何か、かつて愛していた男、王とシヴライアが何か話した後、彼女の表情が優れず、心配になたのだ。
 長く、時間が経つ。

「お母様」
「何だい?」
「私は……生まれてくるべきでは、無かたのですか?」
「いきなり、何を言うんです! 」

 思わずアーマルは立ち上がる。

「あなたが、生まれてくるべきじなかたわけがないでしう」
「ですが……私は、お世継ぎが産めません」
……。それは……
「私を産むために、母は……生みの母は、亡くなてしまいました」
……王様に、言われたのですか? 」

 しばらくの沈黙。それが、答えだた。

「私は、ただ生きているだけです。呼吸をして、天蓋を見上げて……お薬を飲むだけ。ただ、それだけの存在です」
……お願い、そんな悲しいこと言わないで」
「でも……事実です。事実……なんです」

 そして、はらり、はらりと涙を流す。二人ともが、涙を流した。

「お母様……お願いがあります」
……なんだい? 」
「お薬をください」
「え、でも、もう食べたでしう? 」
「私は……ております。リンゴは、クスリではないのですよね」

 その言葉に、膝から崩れるアーマル。

「でも、お母様の心遣いは、何よりの薬でした……ですが。もう、私は生きてはいたくないのです。何もできず、何も生みだせず、何も……必要なことができない私は、終わるべきなんです」
「あ……シヴライア……
「ですから、お薬をください。私を、終わらせる……

 そう言うと、シヴライアは目を閉じ、何も言わなくなた。
 しばらく、アーマルのすすり泣きのみが、部屋に響いた。



 ふと、目をあける。懐かしい記憶。かつての私、シヴライアを終わらせてくれと、誰よりも大切だた母、アーマルに懇願した時までの記憶。
 ふと、テーブルを見ると。今晩の寝る前のデザートにしようと思た、「薬」が置いてある。
 あの後……私は、母から「薬」をもらた。甘酸ぱくて、美味しい薬を……中に、私を眠る様に、穏やかに逝かせるための薬の入た、「薬」を。
 その後のこと……死んだ後のことは知らなかたが……そうか、母は、処刑されたのか。当たり前とはいえ、とても、申し訳ないし、悲しい。
 結局、私は。どこまでも我儘で、母に頼りきりで……母に、迷惑しかかけていなかた。
 だから、記憶を持て生まれ変わるという奇跡を体験したからには、今の世の母は、私なりにだが、とても大切にしている。
 でも、と思う。
 アーマル、お母様……
 あなたには、迷惑しかかけられなかた、ダメな娘でしたが……
 もう一度、もう一度だけ会て、お礼と、謝罪がしたいです。

 そう思いながら、赤いリンゴを、齧た。
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