てきすとぽい
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第54回 てきすとぽい杯〈紅白小説合戦・白〉
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未来はよこい!
(
犬子蓮木
)
投稿時刻 : 2019.12.14 22:50
字数 : 1557
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未来はよこい!
犬子蓮木
料理はパラメー
タだ。
甘味・苦味・塩味・酸味・旨味。
道具が進化した結果、どの味をどれだけあげて、どのような食感の材質にまとめるか、どんな匂いとし、どんな色にするか、それらのパラメー
タをいじるだけが料理とな
っ
た。
PCの中で数字をいじり、それらしい形にまとめれば、あとはプリンタが出力してくれる。
見た目も匂いも素晴らしいおおしい料理が出てくるので、メー
カー
で新商品の開発をしている私はいつも白衣の下の体をふくらませていたものだ。
去年までは。
今のわたしはす
っ
かり痩せてしま
っ
た。
白衣もふくらまずし
ゅ
っ
と伸びている。
もちろん病気にな
っ
たわけではない。加齢からの体の痛みや重さなどは感じているが、この仕事で暴飲暴食をしているわりに大きく健康を崩すようなことはなか
っ
た。
ではどうしてかと言えば、作る方だけでなく食べて味を確かめるほうまでコンピ
ュ
ー
タにな
っ
たのだ。
今では1秒間に1000パター
ンの料理が発明され、仮想空間で味見され、規定に満たないものが破棄され続けている。
そんな厳しい世界を勝ち抜いた料理だけが味見の対象として出力されるわけなので、もう昔みたいに太るようなことはない。お昼ご飯の予定に組み込むことすらできないぐらいだ
っ
た。
わたしの仕事は味見ではなく、味見するコンピ
ュ
ー
タの調整とな
っ
た。人種や文化、体型、性別、環境、そしてそのときの気分、人間はいろいろな要員によ
っ
て二つと無い人間として生きている。ならば、二つとない人間、つまりは個人に適応した料理が究極の料理というものだろう。
個人がなにかを食べたいとお店にや
っ
てきて、これが今のベストですよと料理を出力して渡す。
そんな理想的な流れを作るための出力装置はもう存在している。
あとは誰に何を出すか。
それを決めることさえできればいい。
そんな理想はわかるけれど、それは無理じ
ゃ
ないのかと思いながら、よくわからない仕事を続けているのが今のわたしというわけだ。
さまざまな思いつきで味見する機械を作り変え、無数の料理に対してどのように感じるかのデー
タを集める。そうして、注文をしてきた客の状態に近いデー
タを元に料理を出したりとしているが、どうも反応がかんばしくない。
現在は試験店で、大勢の人間向けに作
っ
た最大公約数的料理と個人向け料理をランダムに出すというA/
Bテストをしているが、前者の方が人気が高いというデー
タにな
っ
ている。前者のものも厳しい試験をパスしてベストだと出された解なので、それなりに人気があるのは当然なのだけど、しかし個人向けはそれを乗り越えてくれなければ困るのだ。
個人のデー
タというものが足りないのではないかという気がする。
そちらはわたしの仕事とは違う部署がや
っ
ているのだが、こちらが想定しているものはも
っ
とパー
ソナルで、ち
ょ
っ
と来店したというレベルで集めるのはむずかしいものを対象としている。このズレについては上司に進言したことがあるが、上司としてはそれは想定済みで、も
っ
と将来を考えて、個人がデー
タをそれぞれの端末に日々記録し、そこから家庭で出力する時代を見越しているとのことだ
っ
た。
そう言われるとたしかにそちらの方がすごいと思うので、それを見越してコンピ
ュ
ー
タの調整を進めるしかない。
問題はそうすると現段階の成果があがらないため、わたしの評価もあがらず、ボー
ナスも伸び悩むということなのだが。
プログラムに命じた試験が終わ
っ
た。
結局、予想通りを超えるようなものは出ていない。
当然だ。こちらは未来を見越して、現代では成果とならないものをただ黙々と積み上げているだけなのだから。
時計を見上げる。
もうこんな時間か。
別に必要なか
っ
たのだけど、なにかおもしろい結果はでないかと無駄に残業してしま
っ
た。
小腹が空いたな。
ち
ょ
っ
とカ
ッ
プラー
メンでも食べてから帰ろう。 <了>
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