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第56回 てきすとぽい杯
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君の最後
ぷーち
 投稿時刻 : 2020.04.18 23:43
 字数 : 1653
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君の最後
ぷーち


 鶏は49日、豚は半年、牛は2年半。鶏は低コスト、短期間で利益化できるけれど、売値が低い。牛は高コストかつ利益化するのには2年半待たなければいけないのだけど、高く売れる。豚が一番ちうど良いような気がする。一度にたくさん生まれるし。1頭から10頭前後ぐらいに増える。コスパいいなあて思う。

 そうそう、動物を数えるときの数え方。これはこの前教えてもらたのだけど、食べた後に残る部位で数えるらしい。例えば鶏だたら1羽、2羽。牛や豚は1頭、2頭。人間は1人、2人、3人と数えるから、全部位食べないんだなあて思うよね。

 大学の同級生だたミキがこの間、子供を産んだ。20人いた同級生の中で一番早かた。インスタグラムに載ていた写真を見たけれど、しわくちで、まだ髪の毛が羊水でぬめとしていた。特になんの感情も湧かなかたけれど、とりあえず何かしら反応をしないと薄情者だと思われそうだたから、おめでとうとコメントをしておいた。あれをかわいいと思えるわけだから、だて思わないとインスタグラムに載せないだろうから、すごいなあて。


 1年後の芋虫が、今、目の前にいる。正確には芋虫だた、もの。かつての芋虫はよだれを垂らしながら、四つん這いになて部屋中を動き回ている。芋虫というよりは、キチンにたまに出てくるアレ、かな、なんて。

 私とミキの家に一緒に来たアケミは、さきからずとかわいい、かわいいとうるさかた。アレを抱き上げては、頭皮のにおいを嗅いだり、自分の指を握らせてみたりしていた。アケミの履いている黒いスカートには、よだれが乾いて白いシミになている。

 「ミキに似てすごくかわいい、こんなにかわいい赤ちん初めてみるよ」

 哺乳瓶を持てキチンから戻てきたミキに、アケミが話しかけた。そうかなあ、と首を傾げるミキは、アケミと全く同じ意見のようだた。

 「ミキもすかりママだね! 育児て本当に大変そう。ちんと眠れてないでしう。ちんと旦那さんにもパパしてもらわないとダメだよ」

 「えー、全然ママできてないよ、本当にダメダメ。インスタで他のママさんの投稿見ては、自分のダメさに落ち込んでる」

 「みんな見栄張てるだけだて! 私からしたら、ミキは本当にすごいと思うよ、尊敬する」
隣で赤子をまるで我が子のようにあやすアケミの声は、いつもよりキンキン甲高く、耳障りだた。

 「ほら、和美も抱こしてみなよ。愛おしさがすごいから。母性がマジで目覚める」

 「力加減がわからないから、大丈夫だよ。アケミになついてるみたいだし。私は横でかわいい顔がずと見れるだけで楽しいから」

 潔癖の片鱗がある私は、どうしてもあのよだれが嫌だた。

 「力加減てなに、和美おもしろいこと言うね。ちとやそとじもう死なないから大丈夫。折角だからさ、ヒカルにミルクあげてみない? 」

 ミキから無理やり握らされた哺乳瓶は生暖かた。人肌は生暖かいのか、と思た。

 「ヒカルくん、アケミお姉さんから和美お姉さんのところにいこうね。大丈夫、和美お姉さんはすごく優しい人だから、安心してね」

 アケミは私の膝の上に仰向けに赤子をのせ、私の左腕をぐいと引張り赤子の身体に巻きつけた。アケミの力は強く、掴まれたところが痛かた。見ると、赤く指の跡がついていた。昔牧場で子ヤギにミルクをあげた時のことを思い出した。あの時みたいに口元に哺乳瓶を持ていけば勝手に飲んでくれるだろう。

 あ、飲んだ飲んだ、かわいい、かわいい、とアケミが騒ぎ出した。

 そうでしう、私の赤ちん、私のかわいいかわいいヒカルちんは、すごくかわいいでしう。ほら、あなたもかわいいと思うでしう、とミキが私の顔を覗き込んでくる。

 脅迫されているようだた。

 ミキの視線から逃れるように、目を落とすと、腕の中で粉末ミルクを飲んでいる赤子と目が合た。

 この子が出荷されるまでにはあと何年かかるのだろう。最近は大人になるまでに時間がかかるみたいだから、30年ぐらいかな。


 最後に残る君は、どこだろう。
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