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第56回 てきすとぽい杯
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アイノウ
酔歌
 投稿時刻 : 2020.04.18 23:44
 字数 : 1479
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アイノウ
酔歌


 かなり長い時間を費やして移動してきた。時計もかなりの損壊が見られ、途方もない旅だたが、物資を補給することは容易かた。浅黒い羽織は身長を十分カバーできる大きさではあるが、目の荒さとマスクの不足でこの環境を耐え凌ぐのは厳しいと思われ、一度建築物の中にでも入ろうかと考えた。

 中央アジア辺りの砂塵極まる場所で、ある城を見つけた。周囲に居並ぶ住宅街よりも一層大きく、かつ荘厳で、見る者を圧倒させるであろう恰幅を示していた。構える門は鎖で頑丈に捕縛されるようにして固められ、何人たりとも侵入を許さないように見えた。私は残る力を振り絞り、なんとか中に転がり込んだ。
 城内とは言え、口を覆う布切れでは一時を凌ぐのが精一杯だた。窓を開ければ砂の侵入を許すことになり、しばらくたじろぐことを余儀なくされた。冷たい壁面に座り込む。手で必死に口を圧迫すると、耳に意識が上る。たとえ微小の動きでも砂の擦れる音が聞こえてくる中に、掃除機のように何かを吸い込む音が聞こえ、それは近づきつつあることを認識していた。
 それはホバークラフト式の小さな機械だた。わかりやすく言うとロボトだ。
「カメラ・アイの故障により、正確に認知できません。氏名の提示を願います」と言うとロボトは、銅から私の目前に電子パドを提示した。しかし提示を拒否しても特別な反応を示さないように、明らかなる奉仕の類で、凶暴性は内容に見受けられた。
意識が遠のいていく。空気濃度不足だろうか……

しばらくすると、私はある高性能なマスクにより生きながらえていた。
 
「遅いぞ。砂塵マスクは一つしかないんだから、お前が先についているべきだ」と言葉を発した先にいたのは、チームの仲間だた。
「そんなことより、研究が先だ」彼は折れた状態で敷かれたマダラ模様の絨毯を翻し、煩わしい口を塞ぐかのように私に砂塵を撒き散らした。やがて目の明瞭性が保たれた時、そこにあたのはいくつかの弾痕だた。
「何が原因かわからないが、見ての通り空気の成分が結晶化して小さな砂状になている。大方、周りに住む人間はそのせいで困窮し、ここに逃げ込もうとして突貫したんだろうが……まあ、どうでもいいことだ」
「君はもう一人ぼちだ。ご主人はいないようだよ」と私が奉仕ロボに言うと「一人ぼちとはなんですか」と繰り返し始めた。それは、与えられた情報を介してしか判断するしかない、脆弱なテクノロジーの功罪があた。ただ、私は一概に孤独であることや解放の概念を教えようという気にはならなかた。
 かなり以前より防塵加工の記録メデアが開発され、一部地域で使用された形跡があた。今回はその調査及研究だた。それから二人で引き出しや各部屋を重箱の隅をつつくように探し回た。ロボトはただ戸惑うように「今日は——」と続けた。しばらくして空が焼け、夜が深けてもその声は止まるところを知らなかた。知る由もない。だがしかしもうどうでも良いだろう。

 調査目的を達した私たちは、最後ロボトに告げた。もうここに存在していても意味がないこと。主人はいないこと。そして孤独であること。それでも「ご主人の到着時刻は——」と年月を綴るが、もうずいぶん前の話である。
 しかし、これで最後だたのである。成長した記録媒体、メデアの確保を推し進め、今後我々の生活水準向上の図ていた。それでも未だロボトだけは待ち続けていた。非生物として、ただ従順に。
 そうして私たちは、ただ静かに去た。何も知らないことの方が幸せなのかもしれない。そして記録メデアに『人類が滅んで一年後.mp4』と入力した。
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