一年
彼は旅に出ると言いました。
震えながら どのくらい?と聞くと とりあえず一年くらい、かな、と彼は答えました。
自由になりたいんだ。
私は 一年分の本、一年分の映画のDVD、一年分の刺繍の糸と布、一年分の絵の材料
一年分のお洋服と髪飾り
一年分のスウプとパン、一年分の花と野菜の苗と種
あの人の帰りを待つ一年の間
……い
ったい何が必要かしら、何がどのくらい要るのかしら、と
考え 考え 考えました。
毎日、毎日 毎日
街を歩いて 店を回って 色々なものを手に取っては戻し
だんだん解らなくなって とりあえず全部くださいとお店で言って 不思議そうな目で見られました。
それでも 不安で 不安で 不安で
一年の長さを測りかねて
一年 深い穴の中でただ眠れたらどんなにか楽だろう そう思いました。
目が醒めたらあなたが戻っている。
一年 眠り続けるには どのくらいお薬があったら足りますか?
薬屋さんは驚いて 薬を売ってくれませんでした。お医者様を紹介してくれました。
私は先に 穴を掘ることにしたのです。
ふっくらとした土、柔らかく湿った落ち葉。きん、と澄んだな空気。
寝転がって見上げると 樹々の間から 綺麗な空が見えました。
そして思ったのです。
なんだ、そうだったのだわ。簡単なこと。
私じゃなくて、あなたをここに埋めよう。
そうしたらあなたは旅に出ることもなく 私は一年分の心配をすることも、待つ間に必要なものを買いためなくてもいいのだわ。