あんた、邪魔。
男子からJELLYの宮瀬いとに似てるとか言われてさ、ちやほやされて調子に乗
ってるE組の榊原がなんだかムカつく。あたしから見ればあんなのただの一本まゆ毛だし、目つきは悪いしババア顔だし、真っ黒なロングの髪先だけ少し巻いているのが色気づいてて気持ち悪い。休み時間に勉強なんてしているやつが、オトコなんて興味ないって澄まし顔をしてるやつが、なんであんなにモテるのかまったく理解できない。ユニブロー・ムーブメントなんて栃木の高校まで届くはずがないんだからさ、男子たちはいいかげん目を覚まそうよ。そいつ顔がクドいだけの地味な女だから。
「あんた最近さ、康晃とよく話してるじゃん。なに? 気があるわけ?」
俯いたままあたしと目を合わせない榊原は、リスがエサを食べるみたいに頭を小さく振って否定した。
「そんな態度されると、あたしがいじめてるみたいに見えるじゃん。顔上げてはっきり答えなよ」
背中を丸めて被害者のふり。周りにアピールしてるんでしょ、助けてって。ほんと気に入らない。廊下に男子がいっぱいいるけど、ひっぱたいて泣かしてやろうかと思った。
「好きだとか、そういうんじゃなくて、その、共通の趣味で仲良くなって」
「へえ、そうなんだ」
二人だけの秘密っぽく話すものだから、余計に頭に血が昇った。
D組の後藤康晃とは去年文化祭実行委員会で一緒になってから、ずっとあたしといい感じなんだ。金曜日の放課後、康晃は図書室であたしに勉強を教えてくれている。土日はカラオケとかで何度も一緒に遊んだこともある。学校で噂になってるんだから、あんたも知っているでしょ? 邪魔しないでよ。
「面白そうじゃん。あたしも混ぜてよ。康晃の趣味って、どうせサッカーでしょ?」
夏に部活を引退してから康晃はサッカー部の想い出を語ることが多くなった。平気な顔をしていてもやっぱり寂しいんだろうなと、あたしは努めて優しい微笑みを作って聞いてあげている。
でもなんか変だ。友だちの話だと、こいつはクラスのラインからハブられているはず。そんなやつが康晃と個人的に連絡を取り合っているとは、謎。
「いえ、サッカーじゃなくて、その、私昔からSNSいろいろやってて、情報を集めるのが得意というか趣味で。本当にたまたまなんです。後藤くんが大学について知りたいことがあるって聞いちゃって、私のフォロワーさんが以前そのことを書いていたから、それで教えてあげたというか、後藤くんもツイッターやってるっていうから、相互フォローしただけの話で」
康晃がインスタやってるのは知ってたけど、ツイッターは知らなかった。てか、興味ないって前に言ってた気がする。ざけんな、嘘じゃん。
「はあ? 聞いてないんですけど。とりあえずあんたのツイッター教えな。あとやり方も」
こき使ってやろうと思ったのに、榊原は目を細めて口元を嬉しそうに緩めた。ドMかこいつ、卒業まで思う存分パシらせてやんよ。でも話してみたら思ってたよりいいやつだった。頭いいだけあって、あたしが納得するまで操作を教えてくれた。こんなに便利なら康晃が都合よく使っているのも理解できる気がした。
「いや、一応友だちなんだけど」
自分から榊原は都合のいい女だと言ってくれれば安心するのに、康晃は困ったような顔であたしの期待を打ち砕いた。ノートや教科書をいつもよりも雑にバッグへ投げ込み、なんだか怒っているみたいだった。
「なんで? あいつが人気あるのって使えるからじゃないの?」
「そんな言い方するなよ。話してみるといい人だぞ、榊原さん」
知ってるよ、あたしも思ったもの。でも康晃がそれを言っちゃ駄目でしょ。いいかげんキレるよ。
「康晃、感じ悪くない? ツイッターやってるの教えてくれなかったし」
「サッカー関係しかフォローしてなかったからだよ」
「でも榊原とやってんじゃん」
周りを見渡した康晃は口をへの字に曲げて、無言で図書室を出て行った。あたしは先生が止めるまで大声で泣きじゃくった。見返してやろうとあたしに誓う。
友だちに聞いたら、エッチい画像を上げればフォロワーが増えるって教えてくれた。榊原はやめたほうがいいって説教してきたけど、もうあたしはあんたの言うことなんて聞かない。敵だもの。あたしから康晃を遠ざけようと企んでいるに決まってる。
暑いね~って去年の水着写真をツイートした。悪口を書いてくるやつもいたけど、ほとんどは誉めてくれた。あたしってイケるんじゃね? マジでそう思った。お風呂で足を伸ばした写真をパシャリ。綺麗だねってみんながあたしを持ち上げる。お姫様じゃん、最高。康晃見てるでしょ? あたしっていい女なんだよ。
フォロワーが二千人超えたのに、康晃が好きそうな話をラインで教えてあげたのに、もう二日も既読無視。榊原と同じことをしているのに、なんであたしの扱いはこんなに酷いの? 見ず知らずの男たちは写真を上げればみんな誉めてくれる。好きな人には相手をされないのに、どうでもいい連中からは「会いたい」ってダイレクトメールが届く。人生って上手くいかないものなのね。あたしこんな若さで人生悟っちゃってるよ。
膨らみが分かるように、パジャマの襟元に胸を寄せて一枚パシャリ。きっとまたほくろがセクシーだねって、おっさんからのリプが届く。鬱陶しいしすごく冷める。もう、ツイッターなんてやめちゃおうかな。
スマホの画面を流れる無意味な文字列。ツイッターは呟きって意味だと榊原は教えてくれたけど、あたしには誰かに伝わって欲しい言葉のように思えちゃう。神様なんてこれっぽっちも信じてないけど、あたしはなんとなく自分と康晃の運勢が知りたくて、ツイッターで目についた占いのリンクを押していた。
目が覚めたらリプとラインの通知がたくさん来ていた。ツイッター