第58回 てきすとぽい杯〈夏の特別編・後編〉
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泣き女~夏の終わり・最後の蝉
投稿時刻 : 2020.09.05 01:40 最終更新 : 2020.09.05 09:21
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泣き女~夏の終わり・最後の蝉
すずはら なずな


「実は知り合いだったとか?」
斎場の庭の玉砂利を踏む音がして、後ろから声がした。
妹だ。遠巻きに僕とその人の話す様子を見ていたらしい。

どれだけぼんやりしていたのだろう。見回すともうさっきの婆さんの姿は無い。暑かった陽射しも少し和らいで、近くで鳴いていたツクツクボーシが最後の一鳴きを残し、飛び去った。

「祖母ちゃんの幼馴染らしい。『最後の泣き女』、の娘だって。」
──なに、それ?
言うのとほぼ同時に 妹はいつも何処でもいじっているスマホでさくさくと検索したかと思うと、早くも目についたサイトを読んでいる。
「うっそぉ、妖精さん?しかも、もうすぐ死人が出る家に現れて泣くんだ。でもさ、あの人って葬式に来たんだよ、順番違うじゃん」
──まさか これから誰か死ぬのかな。縁起でもない。
目はスマホ画面へ向けたまま、妹はぶつぶつと言い続ける。

「だからさ、あの人は、そういうのじゃなく」
僕が言い切るより前に、妹は先を読んで続ける。
「なんだ、違う、違う。妖精さんは綺麗なお姉さんだし。ほら見て、お婆さんなんかじゃない」
僕の袖を引っ張って、掲載されたモデル風の女性の画像を示して来る。かなりな見当違い。

「そういう『泣き女』じゃなく、ほらこっち」
僕がその先の選択肢を指し示す。「葬儀で泣くのが仕事」の方だ。
──ああ、こっちね、なるほど、なるほど。
まるで解っていたかのような返事をしながら文字を目で追い、妹はまた、すっとんきょうな声を上げる。
「呪術とか 悪魔祓いとかって、書いてあるよ。じゃあ、あの婆さんって魔女の類?」
コイツのものの理解の仕方には、ついて行けないことが多い。

「でも、不思議よね。今日のこととか誰も連絡してないんでしょ?お母さんもあの人のこと知らないって言ってたよ」
そう、僕だってずっと感じていた。
祖母と同じ、遠い田舎の言葉を使うあのお年寄りが、一体どうして今日ここに居たんだろう。祖母に手紙を貰ってたって言ってたけれど、それでも疑問は残る。
妹の言葉に引きずられた訳じゃないけれど、もともとそんな婆さんなんて居なかったんじゃないか、そんな気さえしてくる。だけど、ぽんと叩かれた手の感触はまだ背中に残っている。

──『泣き女』はタマシイを送り、『泣き女』は遺る人を癒す。だけど『泣き女』だけじゃない、島の『おばあ』は皆、不思議な力を持っているのよ

丈高い木々が静かに歌うような音を立て風に揺れる。見上げていると 遠い日、祖母が僕の手を包み込んでそう言ったこと、その手の温もりが僕の心を安らかにさせたことを思い出す。

「お兄ちゃん 今頃、泣いてるし」
妹がごそごそとバッグの中からハンカチを取り出して差し出した。
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