第13回 文藝マガジン文戯杯「結晶」
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幸福の結晶
投稿時刻 : 2020.09.29 02:17 最終更新 : 2020.11.08 04:21
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- 2020/11/08 04:21:34
- 2020/09/29 02:17:34
幸福の結晶
kuroneko2020


 娘が死んだのは、コロナウルスが原因だた。
 娘はまだ六歳だた。
 もともと、肺が良くなく、通院していた。
 妻が感染したコロナウルスが家庭内感染で娘に感染した。
 娘は肺が弱く、虚弱体質だたので幼稚園にも通ていなかた。
 近所に友達はいた。
 ただ、遊ぶことは少なかた。
 私は仕事が忙しく、全てを嫁へ任せ、娘と外出や旅行したことも少なかた。
 ただ、娘の思い出はある。
 私が会社から返てくると、同年代としては黒い長い髪を振り回して、まんまるな目をして、私の足に抱きついてきた。
 だが、私にとてもそうだが、娘もそのぐらいしか思い出はない。

 私が星の結晶を集めると、彼岸を渡た人と会えると聞いたのは、娘がなくなり憔悴して、会社をやめ、飲み屋で荒れていた頃だ。
 オーセンテクバーでつまみも食べずに、バーボンのロクのグラスを重ねていた。
 バーテンダーにおかわりを頼むとストプがかかりはじめていた。
 そんな時、一つ席を離れた、坊主の男が話しかけてきた。
「あんた、生きることに絶望しているな」
 俺は、そのとおりなので、そのまま返答した。
「ああ、娘を失た。もう、生きている価値はない」
 よく見ると坊主だが、スリムなスーツを着ており、仏教の坊さんと言う感じではなかた。坊さん特有の説教くささがない。ただ、年齢までは暗いせいもありわからなかた。
「もう、マスターに迷惑だから、私の部屋での飲み直さないか?」
 マスターは厄介払いができるためか、「そうしなよ」と言た。
 それなら、しかたがない。
 私は坊主の男の言うことを聞いた。
 連れて行かれたのは、ぼろい雑居ビルだた。
「すまんが、エレベーターはなくて、最上階だから歩くよ」
 男は軽々と足を上下させ、階段を登ていた。
 俺はついていくのがやとだた。
 着いたのは屋上だた。屋上にプレハブがあた。
 着いた頃には酔いがさめていた。
 そこに男は入ていたのでついていた。
 鍵を開けた様子はなかた。なんて、不用心だと思た。
 だが、逆にその程度のところなら、逃げる時も楽だからどうにかなるだろうと思た。

 部屋へ入ると、ブラウン管テレビが積まれていて、そこらに十字架とマリア像がいくつもあた。
 俺は疑問に思た。
「あんた、ジンク屋?教会には見えないな」
「ま、昔は主を信じたこともあたよ。あんたと同じく救われなかたけどな。今は魔術師だ」
「このブラウン管テレビは?」
「ブラウン管テレビはあの世とつながるんだ」
 俺は期待して言た。
「じあ、娘と会えるのか?」
 男は、バーボンとグラスを出してきた。
「すまんが、氷はない。ロクで頼む。まずは、気持ちを落ち着けて聞いてくれ」
 男は、俺にワンフンガーのバーボンを出してきた。
 俺はグラスを傾け、一気にバーボンを飲んだ。
 男は手の上でグラスを回しながら、話しはじめた。
「娘さんに会うことはできる。ただし、どんな魔術でも代償はいる」
「金ならいくらでも出す」
「金?そんなものに魂がこもているのか?そんなものは代償にならない」
 男は透明の結晶石を出してきた。
 親指大ぐらいのものだ。
「この結晶石が青くなるようにすること。それに魂を込めることが代償だ」
 と言われても、なにのことはわからなかた。
「お前が人の楽しい、幸福の気持ちの魂を集めることだ」
「なんだ、それ?」
「さ、それはお前がいろいろ試してみろ。それがわかれば、娘には会える。とにかく人を楽しい気持ちにさせることだ」
 男は二杯目のバーボンを俺のグラスについだ。
 それをあおたところまでは記憶が残ている。
 記憶が戻たのは、バーのドアの前で倒れていた二十四時の閉店時間だ。
 マスターが看板を仕舞おうとして、ドアを開けた時に俺を起こした。
 結晶石を手は握ていた。

 さて、どうするか。
 街を歩いていると、深夜営業している花屋の前についた。
 飲み屋の女性にプレゼントする男性のために営業している花屋だ。
 色がいろいろなチプの花束が目に入た。
 娘が好きだた花だ。
 俺は、これも縁だろうと思い、買た。

 家に帰り、花束を嫁に渡した。
 妻は。
「あら、珍しいわね。私に?」
 と言て、にこりした。
 娘のためと思たが、ここはそのままにしておこう。
「ああ」
「そうね、私もあの子も好きだた花だからうれしいわ。仏壇に飾るわね」
 そして、手の中からズボンのポケトに入れ、結晶石を出してみた。
 結晶石が青みがかた。
 なにかがわかた気がした。

 翌日、俺は近くの児童公園に娘が使ていた、遊具を持ていた。
 そして、そこにいた子どもたちと一緒に遊んだ。
 帰てみると結晶石はさらに青くなていた。
 そんなことを毎日していた。

 ちと、妻が夕食を作ている時に塩が切れたので、コンビニまで買いに行た。
 その帰り道に児童公園を通ると、一人の女の子がいた。
 気になたので、話しかけてみた。
「お嬢ちん、おうちに帰らないの?」
「わたし、施設に戻りたくないの」
 施設?
 そういうことかと合点がいた。
 ただ、施設を脱走したと言うことはなにかがこの子にあるということだ。
 このまま警察に通報するのはためらわれた。
「じあ、おじさんの家に来る?」
「うん、行く」
 この子を連れて帰ると、妻はおどろいた。
 ただ、事情を話すと理解してくれた。
 そして、三人で夕食を食べた。
 娘がいなくなてから、久々に暖かい夕餉の時間だた。
 私は決意した。
 その子が寝た後、妻に話した。
「こういう話はしづらいけど、あの子はなにかわけがあるようだから、うちで育てないか。もちろん、役所とかには話すよ」
 妻はすんなりと。
「いいわよ。ご飯の食べ方や話し方を見ていると、育ちはよさそうな子だし、あなたがしたいなら構わないわよ」

 翌朝、警察に相談して、その後、役所と話した。
 その子はもともと中堅ビジネスパーソンの娘だたが、交通事故で両親を亡くし、縁戚もいないため施設にいると言うことだた。
 もともと、育ちのいい子だから、ここで苦労させるなら、いい方の里子になてもらえるならと、話はすんなり行た。

 その子が来て、私は生きていくことが楽しくなり、社会復帰もした。
 また、忙しい毎日だたが、週末は三人でいろいろなことをした。
 春はハイキングに行き。
 夏は海水浴。
 秋は登山。
 冬はスキー

 仕事が早く終わり、久々にあのオーセンテクバーに顔を出した。
 マスターは私を見て、「別人かと思いました。そんなに明るい顔をしていましたけ?」
 楽しくマスターと話しながら、飲んでいると。
 ドアが開き、坊主の男が入てきた。
 私に気づいたようだ。
「久しぶりだな。生きていたんだな。どうだ、結晶石は?」
 結晶石?私はすかり忘れていた。
 ポケトから出してみると、見事な青色になていた。
 それを男に見せた。
「私のところへ来れば、願いが叶うぞ」
 俺は一瞬、こころが揺れた。
 だが、口から出たのは。
「いや、いいよ。今は、幸せだ。娘も彼岸の向こうで幸せになているはずだ」
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