第64回 てきすとぽい杯〈夏の24時間耐久〉
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眠れぬ夜に
投稿時刻 : 2021.08.22 00:04 最終更新 : 2021.08.22 08:06
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- 2021/08/22 08:06:45
- 2021/08/22 00:20:11
- 2021/08/22 00:04:02
眠れぬ夜に
すずはら なずな


エアコンが壊れている。カタカタと嫌な音がしていると思たら、風も来なくなた。携帯用の小型扇風機も過酷な使用に耐えられず、命尽きた。
窓を開けても無風。見上げても闇。星も見えない都会の小さな空。

暑すぎて眠れない。ツイターで呟き続ける。知り合いなんて誰もきと読んでない。そんな時間。
あいつは今日 彼女と花火大会に行て、甘たるい素敵な思い出作て 一緒に心地よい眠りについている。
どうしてあいつの傍らに居るのが自分じないのか。空しい。空しい。悔しい。悔しい。
眠れないのは暑さのせいだけじない。

*
インターホンが鳴る。こんな時間に誰?
覗き窓から見ると、あいつがドアの向こうに立ている。嘘。何で?
嬉しそうな顔なんてしない。冷静に冷静に。
手櫛で髪を整え、部屋着の裾の捲れを直す。

ドアを細く開ける。
「何?」
「眠れないて?辛くて、悲しくて 死にたいて?」
「死にたい、は言てない」
「そか」
「何しに来たの」
「え、と何だけ。ああ、ツイート、気になてさ」
「暑くて眠れないだけ。エアコン壊れた」
「ええ、大変じん。このクソ暑い夜に」

「彼女は?」
「え?」
「彼女は置いてきたの?部屋に?」
「は?」
「隠さなくてもいいよ。茜ちんと花火大会行て、その後ベランダで涼みながらビール飲んでたじん」
「茜のツイートか」
「個人情報ダダ漏れ。そのまま部屋に居るんでし?」

知りたいことも知らなくていいことも、何でも画面に浮かんでくる。
便利で不便で 有難迷惑な機能。
誰がどんな気持ちで読んでるかなんて幸せなひとは気にもしない。

「戻てやんなよ。こんなことしてたら また振られるよ」
「また、は余計」
「大丈夫か?熱中症で死ぬなよ」
「うん」
大丈夫じないよ。胸が潰れて死にそうだよ。
「俺にできることある?何か買てきてやろうか?」
して欲しいことを言てもいいの?じあ、戻らないで、ここに居て。
「ないよ、別に。大げさな。大丈夫」
「そか、水分とれよ。ひんやりシートとか、濡れタオルとか何でもいいから身体冷やせ」
「うん」


冷蔵庫を開けて冷えた空気を顔に当て、ペトボトルの水を飲む。
製氷皿に少しだけ残ていた古い氷を出してビニール袋に入れ、頭に当てると気持ちが良かた。

隣の部屋の風鈴がちりんと鳴る。緩い風を感じて横になる。
眠るまで あなたがうちわで煽いでくれる、そんな夢をみよう。
き来てくれたのも、きと夢。真夏の夜はまだまだ長い。
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