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テンポ良くスピードがある文章が「わたし」の戸惑いや焦りを感じさせ、「わたし」の目線でスリルを感じながら物語に没頭できました。冒頭に結末を明示する構成は、最初に読者が感じた印象を超える結末を用意できるかが肝ですが、冒頭の俯瞰した「わたし」の視点を目線の高さまで落とすことでより解像度が高い「わたし」の感情を読者へ与えることに成功していると思います。全体的に完成度が高い作品だと言えます。読後も心地よく楽しめました。
気になった部分は2点あります。まずAさんのエピソードです。Aさんから「わたし」が聞いた視点だけではなく、Aさんの視点で書かれた文章が散見されます。臨場感を重視する目的での描写だと思いますが、読んでいて誰目線の描写なのか迷いました。伝聞だけの文章にするか、Aさん目線の文章にするか統一したほうが読みやすいです。テンポを一定にするなら伝聞、テンポを崩してメリハリをつけるならAさん目線といったところでしょうか。
次に気になったのは「そこに殺意と呼べるほどの強烈な意志は感じ取れない気がするのだ。」の記述です。この文章はラストの「わたし」の無自覚な行動に対する説明として機能しますが、直前にAさんの「何度も殺されそうになってるのよ、正当防衛じゃないの!」という殺意を示唆する台詞があるため、唐突でどうにも説得力を持ちません。「わたし」の疑問を提示してから事象を列挙し肉付けする構成ではなく、事象を並べて疑問が生まれる構成にしたほうが自然で読みやすい気がします。
好みの範疇の感想ですが以上です。
ショートショート風の怪談ストーリーを書いてみました。