てきすとぽい
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第66回 てきすとぽい杯〈紅白小説合戦・白〉
〔 作品1 〕
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妖怪「ヨネ婆」
(
浅黄幻影
)
投稿時刻 : 2021.12.11 23:20
字数 : 2096
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妖怪「ヨネ婆」
浅黄幻影
これは私が中学生のときのことだ。どこから始ま
っ
たのかはわからないが、当時はUFOなどの超自然現象や超科学、呪い、心霊など「この世ならざるもの」が週に二、三回はテレビでまことしやかに話題にされたものだ
っ
た。こども向けには漫画でも鬼の手で妖怪事件を解決するお話が連載され、アニメにもな
っ
ていた。
そしてその基本ともなるこども向けの心霊現象「学校の七不思議」はこどもたちに大人気だ
っ
た。こどもの知的好奇心、恐怖心との葛藤など、これには誰もが無視できないものだ
っ
た。
あの頃の私はこどもというには少しばかり大きい中学生だが、大々的にでは無いものの、オカルトもブー
ムと言うことで、こ
っ
そりと学校の不気味な話などがされたものだ。
これは私が体験した七不思議にまつわるお話だ。
「君寺、知
っ
てるか? この学校の七不思議」
私は友人とふたり、放課後の教室にいた。また時間は遅くないが、学舎のあたりに人は少なく、部活動で動く生徒が多く見られた頃合いだ
っ
た。
「ああ、狼男が職員トイレに出るとかだろう?」
私はあまり興味がない、という顔をして答えたが、内心では少しドキドキしていた。
「そうそう。あと、夕方に教室にひとりで女の子がず
っ
といて、外から見るといるんだけどなかに入ると誰もいなくて、出てい
っ
た形跡もなくて
……
っ
ていう、四組の女の子」
「三つ目は、プー
ルの一番奥のシ
ャ
ワー
から血が噴き出す、『死のシ
ャ
ワー
』」
「四つ目が、中庭の誰かは知らない銅像が走る、『動く銅像』」
「五つ目。技術室となりのトイレに出る、『花子さんの霊』」
「六つ目。美術室の絵の目が動く、『ベー
トー
ヴ
ェ
ンの血走る目』」
私は友人と六つ目の話までをおさらいした。一つくらいなら笑い話になるかもしれないが、こう六つも並べられると少し不気味さを感じる。
しかし私は気づいた。
「六つ目の『美術室のベー
トー
ヴ
ェ
ン』
っ
て、音楽室と混ざ
っ
てないか?」
友人は、え
っ
という顔をした。
「あー
本当だ。どこで間違
っ
たんだろう」
ははは、と彼は笑
っ
た。
「まあまあ、だいたいそんなところだよ。とりあえず、六つ目まではみんな知
っ
てるんだよな、なんとなくでも。でもさ、七つ目は誰も知らないんだ。他の話はわかるのに」
私もその噂は聞いていた。
友人はにやりとして続けた。
「でも俺、知
っ
ち
ゃ
っ
たんだ。七つ目の不思議」
背筋が少し寒くな
っ
た。
「本当か?」
「ああ、先輩が話していたのを聞いたんだ。話してや
っ
てもいいぜ?」
「ぜひぜひ」
「でもな
……
本当のいいかな? 七不思議を全部知ると、とんでもない目に遭う
っ
ていう話も聞いたんだ」
外はそろそろ夕暮れという時間になり、野球部が球拾いや地ならしをしたり、サ
ッ
カー
部がゴー
ルのネ
ッ
トを片付けたりしている。そう、もし「出る」とするなら、そろそろいい時間にな
っ
てきていた。私に少しばかりの躊躇いが生まれた。呪われるだの死ぬだのの話はごめんだ
っ
た。
しかし、私は気づいた。
「おまえ、何ともなさそうだから大丈夫じ
ゃ
ないか?」
「ああ、気づいたか。そう、大丈夫
っ
ぽい。じ
ゃ
あ言うから聞け」
「七つ目。日が落ちた学舎にどこからともなく現れる学校の妖怪、『ヨネ婆』」
「ヨネ
……
」
友人はにやりとして続けた。
「ヨネ婆を見た
っ
て先輩は何人かいるらしい、本当にいるんだ
っ
て。シワシワのヨボヨボ婆さんで、実は親の世代でも知
っ
ている話だ
っ
た」
「じ
ゃ
あ、マジ
っ
て話か」
「あながちただの噂じ
ゃ
ないかもしれな
……
」
そのとき、突然教室のドアが勢いよく開いた。
今までひそひそとしていた怪談話をしていた私たちはその方を見た。
「きみたち! いつまで教室に残
っ
てるの!」
入
っ
てきた年寄りを見て私たちは叫んだ、うわあ、ヨネ婆だ
……
と。
ヨネ婆はそのことばを聞くと突進してきて、私たちの髪の毛を引
っ
張
っ
た。
「きみら、誰に向か
っ
て婆とか言
っ
てるの! ち
ょ
っ
と、お父さんとお母さんに来てもらいまし
ょ
うね。職員室に来なさい!」
その後、私たちは職員室に連れていかれたのだが、まさかと思
っ
た保護者呼び出しは本当にされてしまい、このヨネ婆にこ
っ
ぴどく、ネチネチと、担任まで呼ばれて説教を受けることにな
っ
てしま
っ
た。
帰り道で母は私に言
っ
た。
「先生にヨネ婆
っ
て言うなんて、バカなことを」
「学校の七不思議の話をしていたら、ち
ょ
うど来たものだから
……
」
「え、その話
っ
てまだあるの? ヨネ婆の!?」
それから母は、さも恐ろしいという顔をしてヨネ婆のことを話してくれた。
ヨネ婆は母が中学生の頃からず
っ
と学校にいて、未だに現役で先生をしていて、しかも未婚だ
っ
たのだ
……
。
「お母さんの頃から『ヨネ婆』呼ばわりされてたから
……
そう、あれは学校に住む妖怪ね」
みなさんの学校にも、変な先生がいないだろうか。いつもカツラがズレている先生とか、ジ
ャ
ー
ジのフ
ァ
スナー
が壊れ
っ
ぱなしの体育教師とか
……
。案外その先生は妖怪かもしれない。ヨネ婆がそのあかしだ。ヨネ婆は学校の妖怪で、すぐに保護者を呼ぶ人間の小さい先生だ
っ
た。
だが、不用意に詮索してはいけない。妖怪や物の怪、心霊現象など、人間の叡智の及ばぬものはやはり恐ろしいものだ。
私たちのようにひどい目に遭わないためにも
……
。
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