神の目を持つひよこ鑑定士
アルスは街の子で、父は役所の書類写し、母は縫製の仕事をご近所から集め、一家は三人で生活をしている。父は九等官吏だし、母の稼ぎもそれを補う雀の涙ほどのもので、裕福などでは決してない。
朝はお湯とガチガチに固くな
ったパンを食べ、夜には麦とトウモロコシだけのスープを飲むことが多い。肉はあまり、いやほとんど食卓には上がらない。育ち盛りのアルスには栄養が足りない。
父親と母親だけなら不憫な目で見られて終わるだけだろうが、アルスがいるとなると、周囲も気にかけずにいられなかった。となりのおばさんはときどき真っ当な、唇が切れたりしないパンをくれるし、角の床屋はミルクを一杯、恵んでくれる。グロサリーの店主は古くなった卵を分けてくれた。みんな、アルスの親がプライドが高く気難しい(貧しさでこころが歪むことは多い)のを知っているので、その場で食べさせ、秘密にしていた。
あるとき、アルスがグロサリーで卵をもらったときだった。店の棚に並ぶ卵を見てあることに気づいた。
「おじさん、これ珍しいね。生きてるよ」
店主は驚いた。
「有精卵か……いや、外からはわからないだろう。それにもう死んでるはずだ。今年は暑さで卵がかえるなんて話もあるが、冗談だろうに」
「どうかな。でも、雄だよ」
「はは、そんなバカな!」
店主は笑ったが、すぐ目の前で卵がパキパキと音を立てて割れてひよこが出てきたので、腰を抜かすかと言うほど驚いた。
「いやいや、本当に生まれてきたぞ。うーん……そうすると、これは雄のひよこということだろうか?」
アルスは自分の予測が的中していることに鼻を高くしたが、雄か雌かということになると、これは誰にも白黒つけることができなかった。そこで、店主はアルスにひよこを持たせてカーソン農場を訪ねるように言った。農場主ならわかるだろうから、結果を聞かせて欲しいと。
アルスの話を聞いた農場主はひよこの有精卵を見抜いたことには射して驚かなかったが、雄だと主張していることには興味を示した。
「卵のなかにひよこがいるかは、光りにかざすとだいたいわかるんだが、
さて、雄か雌かと言うと……」
農場主はひよこをひっくり返して確認しようとしたが、どちらともわからない、と言った。
「目で見てもなかなかわからないものだからな……そうだ」
そう言った農場主は、奥から別の卵を三つ持ってきた。
「これも含めて、四つ全部当てて見せたらすごいんだが」
アルスはこれは雌、これは雄と即座に答えた。そこで農場主は、ケージにひよこを入れて他と分けて育ててあげようと約束した。それからしばらく、アルスは毎日毎日ひよこに餌をやりに農場へ通った。
さて、しばらくすると四匹のひよこは大きくなり、ついに雄雌の区別がはっきりした。そしてアルスの目利きが本物であることがわかり、農場主を驚かせた。牧場主だけではない、おばさんも床屋もグロサリーの店主も、みんながあっと言った。
「こんな希な才能はそうそうない! 生まれる前からわかるなんて、ひよこ鑑定士がいらなくなる」
農場主はアルスの両親に、ひよこの鑑定になるといい仕事口を得られる、喜ばしいことだと伝えた。
けれど、両親はいい顔をしなかった。母は農場の匂いが大嫌いでそんなところで働かせたくないと言い、父は自分のことは棚に上げ、立派な官吏にするのだと、むしろ農場主の発言をけしからんと怒った。
農場主はこの両親に呆れ「どんな卵も、その中身がわかっていても、立派に育たなければもったいないばかりだ」とアルスのことを不憫に思った。