第67回 てきすとぽい杯〈てきすとぽい始動10周年記念〉
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投稿時刻 : 2022.02.19 23:43
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ポキール尻ピッタン


 小学3年生の思い出。
 住宅地を抜けるとすすきの野原。湿たダンボールを重ねて建てた仮住まい。基地に隠す宝物を手分けして集める。草を掻き分けて進むもゴミばかり。人の痕跡が残るものがゴミなのだ。枝に刺さた茶色の塊。皺々で軽い塊を、手のひらで包む。何が残した痕跡なのか誰も知らない。未知なものだから宝に思えた。半年が過ぎ秘密基地なんかとうに忘れた。新緑を迎え学習机の引き出しを開けると、緑色の小さな虫らが、そこかしこで、鎌を構えて私を睨んだ。

 中学1年生の思い出。
 蜂と思わんばかりの大きな蝿が、不快な音を立てて頭上を周回していた。嫌々続けるテスト勉強への苛立ちも重なて、ついつい怒りを顕にする。丸めたノートを上段に構え、羽音の軌跡に振り下ろす。蝿は隕石みたいに地表へ向かい、机のマグカプの中へ一直線に飛び込んだ。恐る恐る覗き込むと、鈍い動きでコーヒーを掻き分けている蝿の腹部から、白く小さな物体が次々に顔を出し、水面を覆うように細長い体をくねらせていた。

 中学3年生の思い出。
 庭の池にヒキガエルが卵を産んだ。打ち捨てられた紐みたいな半透明の物体は、静かに揺蕩ていた。翌日小鳥が池で死んでいた。嘴からカエルの卵がはみ出していた。翌年から庭にヒキガエルの姿を見ることはなかた。

 30歳の思い出。
 隣の部屋から妻が口ずさむ歌が聞こえる。まだ目立たないお腹へ、未来へ向かて、私たちがいなくなた遥か未来へ向かて、罪も希望も讃えるような明るく静かな歌が。
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