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推敲バトル The First <前編>
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僕の知らない女の子のこと
(
犬子蓮木
)
投稿時刻 : 2013.06.16 22:24
字数 : 2664
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僕の知らない女の子のこと
犬子蓮木
冷蔵庫がでてきた。
彼女の口から冷蔵庫がでてきたんだ。なにを言
っ
ているかわからないと思うけど、僕だ
っ
てわからない。彼女は何事もなか
っ
たかのように冷蔵庫をあけて、中から炭酸水を取
っ
てくれた。
「口ゆすいで」
「え
っ
……
」
「はじめてのキスなのに、変な味じ
ゃ
イヤでし
ょ
。さ
っ
きマ
ッ
クい
っ
たし」
ここは河原。僕らは中学生。はじめてのデー
トで、はじめてのその
……
キスの雰囲気にな
っ
た瞬間だ
っ
た。夕方で少し影にな
っ
たところなので周りに人はいない。
僕と彼女と冷蔵庫。
それだけ。
そんな状況だ
っ
た。その冷蔵庫は彼女の口からピ
ッ
コロ大魔王よろしくでてきたんだけど。
「あの、この冷蔵庫
っ
てなに?」
「シ
ャ
ー
プのSJ-WA35Y。最新型だよ。ど
っ
ちもドアがついてて
……
」彼女は扉を左右から一度ずつ開け閉めする。「なんとプラズマクラスター
付き!」
「ぷらずまくらすた
ぁ
ー
……
」僕は感嘆の声をもらす。「え、あのそうじ
ゃ
なくて」
「なに? 電気なら心配ないよ。充電バ
ッ
テリー
付けてるから」
いや、そういうことでもなく。いや、それはそれですごいけど。
「なんで冷蔵庫?」
「だから口をゆすいで欲しいな
っ
て」
「そ、そうじ
ゃ
なくて!」
つい声が大きくな
っ
てしま
っ
た。
彼女がすこし悲しそうな顔する。
「ねえ、もしかしてあたしのことほんとは嫌い? あたしと
……
あたしみたいなブサイクとキスするのとかイヤ? だからなんとかごまかして逃げようとしてるの? それなら言
っ
てよ。今日、遊んでくれただけでうれしか
っ
たし」
そんなわけない。僕だ
っ
て楽しか
っ
たし、好きだし、してみたいことなんてい
っ
ぱいある。
だけど! そんなとき口から冷蔵庫が出てきて冷製でいられるほど、ほど
……
なんだ? 普通じ
ゃ
ないとか? これで落ち着いているほうが普通じ
ゃ
ないよな。違う。そんなことはどうでもいい。泣きそうな彼女をなぐさめないと。
「好きだよ。僕だ
っ
て君のこと好き。だけどね
……
」
「だけどなに?」
「冷蔵庫
っ
て口から出せるものなの!」
彼女はキ
ョ
トンとしている。
それから笑い出した。
「なんだそんなこと」彼女はおなかを抱えて笑い続けている。「女の子はね、みんないろいろ出すんだよ。そ
っ
かー
。男子は保健の授業別だもんね」
彼女がそ
っ
と僕に体をあずける。それから持
っ
ていた炭酸水を口にふくで、はきすてて。同じペ
ッ
トボトルを僕にも寄越した。
「もういいよね?」
「うん
……
」
僕はごくりとつばを飲み込んでソレを受け取
っ
た。
翌日。いろいろあ
っ
て、だからとい
っ
て変わりはなく学校。僕も彼女も同じクラスで、だけど付き合
っ
ていることなんかは内緒にしている。だからクラスではそんなに話さない。挨拶だ
っ
て特別したりはしない。
昨日はいろいろ衝撃だ
っ
た。味がどうとか言
っ
ていたけど、僕にと
っ
てのフ
ァ
ー
ストキスは冷蔵庫の思い出しか残
っ
ていない。女子
っ
てみんな冷蔵庫を出せるんだろうか。男子はみんなあんな経験をしているんだろうか。知らなか
っ
た。だ
っ
てネ
ッ
トでエロ動画見ても冷蔵庫出すシー
ンなんてないし、漫画読んでてもみんなそんなことしていないじ
ゃ
ないか。
僕はどうしても頭がぐるぐるだ
っ
たので、給食を食べ終えての昼休みの時間に、友達に聞いてみることにした。そいつはよくモテる奴で、恋愛経験が豊富な友人だから、き
っ
といろいろ教えてくれるだろう。
「
……
なあ、女の子
っ
て口から冷蔵庫だすの
っ
て普通?」
「なんの冗談? ねぼけてんの?」
出さないのか?
僕は少し恥ずかしくなりながらも、小声で昨日のことを説明した。こいつは良い奴だから僕のことをバカにしたりはしない。からか
っ
たりはするけど。
「ああ、それか」
そいつは笑
っ
た。声が大きか
っ
たので、ち
ょ
っ
と周りに聞こえないようにしろ
っ
て止める。
「俺の知
っ
てるのだと本だしたりとかはいるね。恋愛小説だしてシー
ンをなぞ
っ
たり。あとはガムとか、口臭が気になるんだ
っ
て」そいつは続ける。癖なのかじ
ょ
じ
ょ
に声が大きくな
っ
ていく。「冷蔵庫出す奴は見たことないな」
残響。僕は頬に衝撃をくら
っ
た。どうやらいつのまにか近づいてきた彼女にビンタをくら
っ
たらしい。
「サイテー
!」
彼女は顔を赤くして泣いている。
教室がざわざわとうるさくなる。
チ
ャ
イムがな
っ
た。休み時間が終わりということ。先生が時間通りにはい
っ
てくる。几帳面な人。いつも廊下でチ
ャ
イムを待
っ
ているんだ。普段はそれでみんな席に付く。だけど今日はそうはならなか
っ
た。みんな空気に浮かれていて、先生もなにかを察して、僕が彼女に歩み寄ろうとして、けれど彼女は教室から飛び出してしま
っ
た。
「え
っ
」僕はや
っ
と声を漏らす。
クラスの女子が、僕のや
っ
たことが酷いことだ
っ
て遠巻きに言
っ
ていた。どうやら何を出すかはす
っ
ごいプライベー
トな情報で、周りに言
っ
てはいけないものらしい。そんなものが知り合いにばらされることなんてありえないことだ
っ
て。
「追いかけなよ」メガネでいつもクー
ルな委員長が一言だけつぶやいた。
クラス中が「そうだそうだ」と盛り上がる。
先生も「お前は今日、欠席だな」と勝手に僕を休みにした。
なんだこれ。なんだこの空気。僕はすがるようにして友人を見た。そいつはウ
ィ
ンクして親指つきあげ言
っ
た。
「グ
ッ
ドラ
ッ
ク」
僕は教室を出て彼女を探す。どこに言
っ
たのだろうか。なんとなくわか
っ
ていた。そこはまだ少ししか付き合
っ
ていない僕と彼女の中でそのき
っ
かけとな
っ
た場所だ。
うちの学校には校庭の真ん中に松林がある。1周200mほどと結構な広さで、校庭を大きいものと小さいものに分断していて、体育会系の部活はそこの周りをランニングするのが日課にな
っ
ている。
そこの松林にはオカルト的な伝説があ
っ
て、僕と彼女はそれがき
っ
かけで付き合い始めた。
今は授業中。大きい方の校庭では、体育をや
っ
ている。だから松林の裏側のほうにあたりをつけて僕は走
っ
た。玄関を出て近づくと林の影に冷蔵庫が見えた。さらにその影にし
ゃ
がみこんで泣いている彼女を見つけた。
「ごめん!」
僕は息を切らして近づいて、ただひたすらにあやま
っ
た。
許してくれないだろうか。僕のしてしま
っ
たことはとても酷いことだ
っ
て、まだよくわか
っ
てなか
っ
たけど、彼女の様子を見てすこしずつだけど理解しはじめていた。
彼女が泣き腫らした目でこちらを見上げる。
とてもかわいか
っ
た。
「泣かないで。許してくれるならなんでもするから」
「ほんとうに?」
「うん」
「あたしのこと好き?」
うなずこうとした。「好き」
っ
て言おうとした。だけどそうはしなか
っ
た。や
っ
ぱりそうじ
ゃ
ないよね。
僕はただ冷蔵庫をあけて、炭酸水を取りだした。
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