更新履歴
- 2023/02/18 23:40:41
- 2023/02/18 23:32:35

　あ、あ、あんぱんまーんみーんなっのたーめーにー。
　あーいーとー、ゆうきだけーがとーもだっちさー。
ぼくは今日も歌を歌いながらツィッターをしていた。歌ってると後ろから後頭部に軽い衝撃があってヤクザみたいなが声がする。
「オイてめぇカバオじゃねぇっつってんだろ！」
　いたたた。kittyさんは足グセが悪い。

　ぼくは違う歌を歌うことにした。どうして考えてることが分かったのか不思議だけど、kittyさんはなんでも知ってるんだ。
　またでたまたきたおかめかめー。
　ホンマに美味い。おかーめかめかめおかめなっとー。
「あははは、なんで関西版なの？　だいたいキミ納豆食べられないじゃん」
　今度は甲高い笑い声がして、後ろを見ると美鈴がお腹を押さえて楽しそうにしてる。
「おかめじゃなくてカメオでしょ？」
　美鈴はぼくの布団の端にあった枕を背もたれにして、窓枠の柱に寄りかかってるんだと思ったけどよく見たら枕じゃなくて美月だった。いつもの冷たいバカにしたような声が少し柔らかいのは、美鈴が笑ってるからだろう。
「ああ、カメオというのは装飾品だね。浮き彫りにした蓋のないペンダントのようなものを服に留めたりしているのを見たことがないかい？」
　ドアが開いて和則さんが入ってくる。
ぼくの部屋なのに――、と喉まで出かけた声を遮って、ドアの後ろから更に乱暴な声が続く。
「まーたwikipediaですか和則さ―ん。そもそも部屋の前でスマホで検索してからボケるために暗記とかやめましょーよ、寒いし」
「オマエもネタ考えてたじゃね―かよｗｗ　つかガメラじゃメしかあってねぇって――、
あ、ちぃーっす文章担当さ―ん。小説進んでる―？」
　美月がとたんに嫌な顔になって、美鈴を後ろから抱きしめたまま脇に寄せてカーテンを被せようとする。ゲーマーくんと友達の並木くんは、美月の天敵だ。
　でも、二人の顔を見るなり目を輝かせて口を開こうとしたけど今日はすぐに黙り込んだ。
ぼくの後ろの反対側に不穏な人物がいるのに気付いたからだ。
「カズパパ、変な人連れてこないでよー」
　美鈴がカーテンの影から甘えた声を出し、ゲーマーくんが困ったような顔をして、並木くんが口を開こうとして黙り込む。kittyさんが薄暗い笑顔でニヤリとしたのが分かり、和則さんが少しどもりながら挨拶をする。

　なんにしよう、なにを書こう。
「なんかもうチャットGPTだっけ？　大変みたいだね―」
　ゲーマーくんがスマホをこっちにかざしておどけたように言い、目があっただけで美月がツンと横を向き、並木くんが笑いだして背中のデイバッグを床にドスンと置く。
「うぇーい、とりまつまみ買ってきましたー」

　あれ１時間制限だっけ？
まいっか。とりあえずうたっておこう。

　またでたまたきたおかめかめー。
　ホンマに美味い。おかーめかめかめおかめなっとー。

あははは、あははは。
　なんだかわかんないけど酒盛りが始まった。
今日は土曜日だ。
　６人が勝手にぼくの部屋で騒ぎ出してうるさくなったし、ノートに打ち込み終わってから風呂場に向かうとぼくはふと気がついた。
　鏡には疲れ切った顔の初老の男がいて、美月も美鈴も和則もいないじゃないか、と口を開いたのだ。
「何を言ってるんだ？」
　ぼくは鏡に呟く。
さっきまで部屋にいたじゃないか。
「茶番だな。GPTでももう少し気の利いた話を考えるし、マシな落ちまでこんなに時間は掛からない」
ぼくは鏡を睨むと鏡の中の男の口が動いていないのを確認した。

　風呂に入ろう。そしてとりあえずもう一度歌っておこう。

　またでたまたきたおかめかめー。
　ホンマに美味い。おかーめかめかめおかめなっとー。

土曜の夜だ。少しくらい騒いでも苦情なんか来ないさ。

終わり。

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