創作板勝負だー祭り2026初夏
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激動! 昭和のオタク闘争と僕の過去
投稿時刻 : 2026.05.10 22:17
字数 : 4384
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激動! 昭和のオタク闘争と僕の過去
ゲームスキー


 桜が散って入学式が済み、一か月が経った頃だ。
白状すると僕は大人しい方で、女の子にも奥手だし友達も少ない。そもそも会話をするのが苦手だったし、勉強も運動もできる方じゃなかった。だから何事もなく高校生活を楽しめているのにホッとしていたし、あんな人生を歩みだすとは思わなかったんだ。

 今日は母の日だし、優しかった母さんの思い出に浸りながらそんな話をしよう。

 僕は大人しい方だ。
校門で竹刀を持った体育教師が怒鳴っていてもいちいち気にしないし、煙草も校内では吸わない。友達が板金屋の特注学生鞄で挨拶してきても裏拳で止めるくらいだし、一応挨拶はする。
 バガァン! と派手な音を立てて鞄の被せを留めているベルトが吹っ飛び、笑い声がする。
「よぉお! ネクラちゃん元気ぃ?」
 咥え煙草で金髪の馬鹿が千切れたベルトを見やりながら僕に言う。
「ああん? 元気じゃねぇよカスがぁ! 鉄板入りで挨拶すんじゃねぇ殺すぞ」
「ギャハハハ…、脇も角も仕込んでねぇからいいだろ? いい音すんじゃねーか」
「みっともねぇステッカー見せびらかすんじゃねぇよ。今日も門番ゴリラだぞ?」
 鞄の卍と連合のステッカーを睨みながら僕が言うと、日雇いくんは煙草を吐き捨てる。
火も着いたままペッと汚い音を立てて吸い殻が側溝に消え、友達は僕の隣に並んだ。
「ったく、何がホワイトプリンスなんだよ」
 僕は正直、迷惑な奴だと思っていた。コイツのグループは薬物ご法度だったから学校でラリったりはしないけど、卒業式では同じグループの先輩達が毎年校庭にバイクで乗り込んできてたし、隣のクラスのゴーストの連中は毎週のように暴れてガラスを割ったり授業中に殴り込んでくる。
 去年なんかは保健の授業をジャマされたゴリラがプッツンして木刀を持ち出したから、警察を呼ぶ寸前まで行ったんだ。
「あ? ナメてんのか? 俺は今年で隊長になっからよぉー、コイツは剥がせねーんだよ!」
「……。」
「見てろよー? 地区隊長んなったら上納も入るし単車ももっと気合入れっからよぉ、オマエが行ってるゲーセンでも集金してやんよ。コミケとかってのも行くんだろ? 晴海まで乗せてってやるよ」
「ふざけんな殺すぞ」
 得意気に言う日雇いくんは僕の鞄に着いたラムちゃんの缶バッチを見ながら笑って、ハンドルを握って吹かすマネをする。たぶん本気なんだろうけど、そんな事をされたら二度と晴海に行けない。
「なんでだよー、エロい本売ってんだろ? 金出すから俺にも買わせてくれよ」
 校門が近付いてきて何人かが日雇いくんに挨拶をし、ゴリラが肩をいからせてこっちを睨んでるのが分かる。
「ゴガァアア! ガゴグッブーーーーン!!!」
 こら、あと10分、とゴリラが叫んで後ろの方で誰かが小走りになる気配がした。

 下駄箱で踵の潰れた上履きに片足を突っ込み、校門の方を見るとまたゴリラが叫んでいる。
「ゴグワァーー! ゴブンギャァアアア! ゴルガァアア!!」
 日本語喋れよバカ、と思いながら脇に抱えた鞄を持ち直していると、日雇いくんはまた僕のラムちゃんを物欲しそうに見ているのが分かった。ボンタンの片側に手を突っ込んで、モソモソと動かしながらエロいなぁ、とか呟いて鞄に顔を近づけてくる。
 その瞬間、僕の頭でプツンと何かが切れた。
「汚ぇ息吹きかけんてんじゃねぇぞゴルァ!!」
 鞄を持った手を逆側に振りながらその勢いで左ひざを曲げ、白い二連ベルトの巻かれた腹部に膝を叩き込む。バァンと音がして日雇いくんの構えた鞄が膝蹴りを受け止め、近くにいた女子が悲鳴を上げて目を逸らすのが分かった。
「っっんだよkittyぃいい! ラムちゃん見せてくれよラムちゃんん!!」
「手をポケットから出せえ!」
 生活指導みたいなツッコミに自分で笑いながら怒鳴ると日雇いくんは少し顔をしかめ、少しだけ照れた顔をした。別に変な事を考えてたんじゃないと言い訳をするけど、ボンタンの中がどうなってるのかは想像もしたくない。ちょっと引っ掛かってたのを直しだけだって言うけど、直した手でバッチに障られるのは絶対に許すわけにはいかない。
「あ、き、kittyくん、お、おは、おは…」
 漫画研究部の藤田くんが声を掛けようとして日雇いくんに睨まれ、黙り込んだ。
「んだぁー?! テメェ! あいからず存在感ねぇツラしやがってぇ! どっから湧いたんだぁ?」
「い、いやぼう、ぼぼぼ暴力は――」
 めんどくさいなぁ、と思いながら僕はバッチを確認し、軽く藤田くんに手を上げて歩き出そうとした。でもその時、奇声と共に下駄箱の反対側から走ってきたやつがいる。
「ホワイトプリンス上等だオルァアアア!!」
 見てみると角材を持った隣のクラスのゴーストのやつだ。
「やんのかゴルァ!!」
 すぐさま日雇いくんが臨戦態勢に入り、藤田くんが教室の方に走って行くのが見える。
「死体にして森の中埋めてやんよこのカスがぁ!!」
 朝っぱらからどうしてこんなに元気なんだろう。確かミラとか呼ばれてるやつで、入学初日に古文の教師をレイプしたとか数学の教師を半殺しにしたとか言う噂のある奴だ。金髪でいつもシンナー臭く、ダイハツの修理工場の隣に住んでいて時々無免許で改造した軽を乗り回しているからそういうあだ名になったらしい。
 どうしようか考えている間にも2発、3発と角材が日雇いくんに打ちおろされ、鞄が少し乾いた音を立てながらそれを捌いている。
「生意気なんだよ! 日雇いのガキがよお!」
 日雇いくんのお父さんは派遣の元締めだったからほぼほぼヤクザだったけど、どうもミラのお父さんは季節工の時期に嫌な目に遭ったらしい。だから違うグループに入ったって噂もあるし、とにかく日雇いくんを目の敵にしているのは間違いなかった。
 バァン! カァン! バチィインン! 
元からくたびれていた鞄が7,8回目の防御で留め具を吹き飛ばされ、全開になる。だけど持ち手を内側にしたまま構えられるようになったから、これは日雇いくんが有利になった。すぐさま逆手に持ち替えて次の攻撃を弾くと、右のローがミラの膝を襲う。
 バランスを崩したミラに日雇いくんは体を低くかがめると、ワケの分からない技名を唸りながら猛烈な勢いで体当たりをした。
「ドルァアアー! 蒙古覇極道!!」
 ミラと日雇いくんはそのまま下駄箱を揺らし、小さな地響きが起きる。
あーめんどくせぇ……。
 僕は動きの止まった二人を見ながら、ラムちゃんと一緒に教室に向かった。

 勘違いされると困るから言っておかないといけないけど、僕の学校はそんなに悪い方じゃない。ミラの噂だって本当は教師を泣かせたとかそんな程度だろうし、日雇いくんの親だって地域に慕われてたって噂もある。
 ただ、時代が時代だったんだ。
今と違って通学路は歩道が分離されてなくて危ないところばかりだし、車はみんな黒っぽい排気ガスを出してたし、マニュアル車ばっかりだからうるさかった。エンジンも性能が違うし道路の舗装もでこぼこが多くて、タイヤも違うから走るだけで本当にうるさい。路面が悪いのはダンプカーがそこら中に走ってて、ほとんどが積み過ぎなのもあったと思う。
 車に気が付かない歩行者がいればクラクションを鳴らして気付かせるのは善意だったし、ギアを入れ損なってエンストすれば誰かがすぐにどなってた。
 それから映画やテレビの影響で、飲んだジュースや食べた物の包装は投げ捨てる人が多い。お行儀よくゴミを持ってうろうろし、ゴミ箱を探して捨ててると笑う人だっていたんだ。東京は道路脇の深い側溝をもう見なくなったけど、この頃にはまだ割とあったと思う。要はドブって言うんだけどそこにみんなごみを捨てて、町内会の人が掃除する事が多かった。
 想像しやすいように言うと、ハロウィン後の六本木とか繁華街に近い週明けの公園なんかのゴミだらけの感じがどこの街でも珍しくなかったんだ。
 道路工事は本当の工事、補修よりも開通させる為が多くて、それでもみんな文句を言いながら回り道をしてた。さすがに爆撃後の廃墟みたいのはめったになかったけど、解体途中で放棄されたコンクリのビルだとか空地は今より多くて、そういう街にディーゼルの黒煙とか灰色の排気ガスがなんとなく漂ってる。
 それから酔っ払いはだいたいどこにでもいて、商店の人の朝はそういう人の後始末からゴミ拾いで始まるのが普通だったんだ。
 それが社会問題かって言うとそうでもなくて、テレビではカッコいい車に乗った人が相変わらずゴミを投げ捨てて走り去り、怒った店の人がほうきを持って追いかける、なんていうのが定番の笑いになったりもしてた。
 商店の人がどうして我慢してたかって言えば、きっと景気が良かったからだろう。どんどん物を作ってどんどん捨てるから経済は回ってて、中古品をいつまでも使ってるのはすごく格好の悪いことって空気が割と強かった。
 そういう中での僕たちはあまり大人に相手にされてなくって、仕事をしていないとまともに口を利くの自体がナマイキなことだって常識があったんだ。
 だから逆に言えば、たくさん稼げる偉い人間になる為に多少の悪いことは庇ってもらえてた。

「偉くなって返せばいいんだよ。世の中持ちつ持たれつだからね」
 僕は学校帰りに空地の土管の陰に隠していたバイクで走り去った日雇いくんを見送りながら、アイツもミラも将来何になるんだろうなあ、なんて考えていた。
 見ている分には楽しかったし根が悪い奴じゃないのも分かっていたけど、きっとあまり同じ方向の人生は歩まないだろう、とも思っていた。
 当時の僕は変わり者で、アニメや漫画好きのほとんどがコソコソ隠れるように楽しんでいる中で絶対に缶バッジだけは外さなかった。もちろん、僕より悪くて危ない漫画好きの先輩達だっていたしカッコイイ人もいたけど、グッズを持ってるのは恥ずかしくてダサい事で、自慢するような事じゃなかったんだ。有り体に言えばそういうやつは”狩られる”側で、そういう決めつけが嫌いな僕はこの頃からだんだん左翼運動に近付いて行った。
「ったくバカがよ、どいつもこいつもバカばっかりだ」
 僕はラムちゃんの無事を確認すると漫研OBの先輩のアジトの方に歩き出す。
「粛清してやるよどいつもこいつも。国産芸術の重要さも分からない愚民の癖に」
 誰もいないのに呟くのが増え始めたのもこの頃で、僕はOBの先輩に倣って革命の為の知識を吸収するのが楽しかった。
 雷管の作り方、火薬の調合に磁気カードの偽造法、職務質問の避け方に帳簿の作り方――。どんなに綺麗事を言っても力がなければ何にもならないし、誰も着いてこない。
 見てろよ、母さん。
僕は体の弱かった母さんが唯一買ってくれたバッチを背負い、放課後の勉強に向かう。
 何年かかってもやり遂げる。何十年かかっても絶対に馬鹿にした連中を許さない。

 アスファルトのくぼんだ水たまりに落ちているひしゃげた空き缶を蹴飛ばしながら、僕のアジトを目指して歩く日々は続いていった。

 終
付記
ごめんなさい勢いで書きました。(><)
作中の登場人物はすべて架空のもので、ぶっちゃけ会った記憶すらほとんどないです。(笑)
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