超えるなキケン!
むかしむかし、とある平和な王国がありました。
王様には3人のお妃様があり、それぞれ一人ずつ、3人の王子がおりました。
3人の年齢は近か
ったのですが、后の出自もバラバラで、能力も、ある王子は武芸に秀で、ある王子は勉学が秀で、ある王子は外見に秀でていると、それぞれ一長一短ありました。
そして、王様が初老に入ったころ、王子たちはみな40代の年令になっておりました。
ある日、臣下の者を王の間に集めて王座から王が言いました。
「わしはそろそろ引退しようと思う」
臣下はみな驚きましたが、王様は続けます。
「わしは跡継ぎを決めて、そのものにこの王国を任せたいと思う」
「ついては、わしはどの王子を選ぶか決断しかねておる」
ざわざわ。
「そこでじゃ、わしは王子たちに課題を与えようと思う。これから一ヶ月、それぞれの王子には自分一人だけで放浪の旅に出てもらい、我こそが王にふさわしいという証を見つけて持ち帰ってもらいたい」
臣下たちが何か言いたそうな顔をしていましたが、王はそれを無視し、
「よいか。1ヶ月後の7月13日、この場でそれぞれの王子が持ち帰ったものを吟味し、その上で、次期王を決定する、みなの者、手助けはならぬぞ」
「はは~」
一同がひれ伏し、そのように次期王決定競技大会が開催されたのです。
三人の王子の一人、夏生まれなので夏王子と名付けられた王子が一人で旅をしています。あまり華美な服装はしていませんが、見かけはどことなく気品が漂っています。しかし……、どうにもくたびれているようです。
「ああ、お腹が空いたなあ、カッコつけて金貨も持たずに出てくるんじゃなかった。自分の才覚だけでなんとかなると思ったんだけどなあ」
広々とした平野の一本道を夏王子は進みます。
「それに、王の証って何なんだよ。なんか抽象的だよなあ。まあ、物語とかだと自分探しの末に見つかるようなもんだろうけどな、案外、見つからないままがっかりして城に戻ったら、庭の木に青い小鳥でも飛んできてるのかもしれないが」
どうも、この王子、楽天的が過ぎるようです。
と、王子が立ち止まりました、道を横切るように白線が引いてあります。白線は道どころか、周囲の黄金の麦畑の隙を縫って、左右の地平線まで延々引かれているようです。
「何だこの線? ん、立札があるな」
立札に近づいてみるとこう書かれていました。
『超えるとキケン』
「超えると危険? なんだ?、この先に落とし穴でもあるのか? それとも野獣やクマでも襲って来るのかな?」
王子が白線の先を見渡すと、すぐそこの畑で農夫がのんびり畑仕事をしています。とても危険が迫っている状況には見えません。
「おーい」
王子が村人に声をかけました。
「なんじゃな?」
のんびりと農夫がこちらを向きます。
「やあ、おじさん。精が出るな。ところでこの看板に『超えると危険』と書かれているようだが、本当か」
農夫は驚いたように、王子の顔を見つめて、しきりに頷きます。
「んだんだ。超えちゃなんねえよ」
その答えと態度に王子は訝しみます。
「でも、どこが危険なんだ。とてもそうは見えないがねえ」
「そりゃ、そうだ。あんたまだ、その線を超えてねえだもの。でも超えちゃなんねえだよ。危険だよ」
王子は少しカチンと来ましたが、冷静に尋ねました。
「何が危険なのか教えてくれないか?」
「わしは知っとるだでよ。あんた、お城の王子様の一人だべさ。他の誰にも危険はねえだが、王子様たちには危険になるべ」
その答えに賢い王子は思いました。
(はは~ん。さてはこれは課題のひとつだな。私が王子であることを見抜いていることが怪しい。多分、審査員のようなものなのだろうが、どこか抜けている顔つきだな。さて、どうするか?)。
そして、王子の胸にプライドのようなものがムクムクと湧いてきました。
(王座を手にするには勇気を見せなきゃ。危険と言われて引き下がれるか、どうするか見てろ)。
「お前が答えないなら、私はこの白線を越えてやる!」
「そいつはよした方がよかんべ」
「いいや超えてやる!」
「絶対に?」
「ああ、絶対にだ!」
「あんた、そう決めなさったのかい?」
「そうだ、私の意志だ」
そう言うと王子は、えーい。と、農夫の見ている前で白線をまたぎ越しました。
「どうだ。超えたぞ、どんな危険だ?見せてみろ」
と、農夫は呆れ顔で言いました。
「あーあ、超えちゃった」
「それがどうした。私は夏王子なるぞ」
「んだんだ。知ってるって。そして課題の途中だんべ?」
「わかってるじゃないか。むろん、そうだ」
「だけんども、超えちゃったらお終えだ」
「だから何でだ!」
「超えたら棄権だ」
その返事に、一瞬キョトンとした王子が叫びます。
「棄権!? 危険じゃなくて棄権?」
「そうだ。おら、王宮に報告しなきゃなんねえ」
「そんな勝手な?」
「勝手じゃねえべ、わしゃ何度も王子様に確認したべ」
「それは、そうだが、棄権ってのは他人が決めるものじゃないだろう」
「だって……」と農夫は残念そうに言った。
「超えると棄権ですよって忠告したのに、王子様、超えるっておっしゃった」