第79回 てきすとぽい杯
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何かしらの間にいるぼくの夏のある日
投稿時刻 : 2026.06.13 23:26
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何かしらの間にいるぼくの夏のある日
浅黄幻影


 日射しの強い砂浜にパラソルを立て、広げたシートに寝転ぶ。液晶画面の文字列から解放され、潮風を感じて広がる海を眺める。水平線は空の青と海の青を画している。
 クーラークスからビールを出す。缶のままも悪くないが、ここはグラスに注ぎたい。うま味の白い泡とすきりしたのどごしの液体、その線をどれだけ美しく描けるかの一発勝負をする。
「そこまでこだわらなくたて、いいのに」
 彼女が笑うのをよそに、パラソルからこぼれた背中に日に焼かれながら最高の一杯を仕上げる。一気に飲み干したいところだが、まずは眺めることからのお楽しみ。SNSにはアプしない。現実と仮想との狭間の世界には足を踏み入れない。グラスを傾け、喉を何度か鳴らして飲む。
「ねえ、今月の家計費のことなんだけど」
 無粋な話を持ち出した彼女に、
「そんな赤と黒の線引きのことは忘れよう」
 と、ぼくは言う。
「それより、おもしろい話がある。前に東南アジアの方に船で遊びに行たことがあるんだ。夜が明けるかどうかの時間は静かで、海まで眠ているかと思たほどだたよ。水底まで見えるかというような浅瀬を出て、沖へ向かた。しばらくしたところで、海に赤いヒモが浮いているのを見てね、なんだろうと思――
「水平線が浮いていたのね、はいはい。それを聞くのは多分、三度目ね」
 北と南を分けたかのように、急にぼくらの間に距離を感じた。
 やがてビールは温まり、体温と一体となるかのようにぬるくなていた。クーラークスから次を取り出してまた泡を作て見たものの、次第にオシレをしたい意地でやているのが気になてくる。嘘か本当か、どちらにしても自分さえ騙せていない。
 日中を海と砂浜で過ごした。数本のビールの缶とミネラルウターのボトルが空になた。パラソルの下にいたけれど、やはり日焼けはした。「焼くために来た」と控えめにしか日焼け止めを使ていなかた彼女も、水着の形にくきりと色が分かれている。
 この後、ぼくらはホテルでゆたりと過ごし、夜には二人ベドで愛し合う時間を過ごす……つもりだたのだが、夕飯の蟹の蟹酢をぼくが彼女の目に飛ばしたところで、急転直下、彼女の機嫌は悪くなた。レストランではもちろんのこと、部屋に戻ても彼女の機嫌は直らない。
「こちには入てこないで!」
 と、怒りながらベドのシーツに指で深い溝を作た。
 取り付く島もなく、彼女をひとりにしておく。冷蔵庫から缶ビールを出し、泡とビールをきれいに分けると、上辺ばかりが美しい軽薄な謝罪の言葉が思い浮かんでくる。けれど、何を言ても許してくれないだろう。冷静から激情へ一気に向かてしまた彼女を落ち着けるのは時間しかない。
 始まりも終わりもない、どこであても区切ることの出来ない時間だけし、解決してくれないだろう。
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