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グループアイドルの控室 ~この大銀河にファブリーズを~
投稿時刻 : 2026.06.05 22:15 最終更新 : 2026.06.06 02:18
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- 2026/06/06 02:18:09
- 2026/06/05 22:15:54
グループアイドルの控室 ~この大銀河にファブリーズを~
合高なな央 創作垢



(4)銀河鉄道の夜/宮沢賢治

「ではみなさんは、そういうふうに川だといわれたり、乳の流れたあとだといわれたりしていたこのぼんやりと白いものがほんとうは何かご承知ですか」

 ジン♪

 そんなクイズ番組風の効果音を口ずさみながら、ユイがフリプボードをこちらに向けて勢いよく突き出した。
 瞳をキラキラと輝かせ、眉を八の字に下げたパグ犬のような愛嬌たぷりの笑顔で、私にフリプを揺らしてくる。

「ほらほら松多梨衣名ちん。あなたの回答は、なーんですかー?」
 その顔は物欲しげで、構てほしいオーラ全開だ。

 私は大鏡の前で、さき教わたばかりのダンスステプを繰り返していた。ドームツアーの開幕ライブまで、あと5日しかない。鏡の向こうの自分が、黒髪にしとりと小汗をかき、眉間に深いシワを刻んで自分を睨みつけている。

「えー……たしか、銀河でし
 私は鏡の中のユイには目を合わせず、ステプを踏みながらぶきらぼうに答える。
「ブブー! ちと梨衣名、何言うてんねん。まさに『待たりーな、マツダアリーナ』やわー。これ大喜利やねんでー。まともに答えたらあかんのやでー。面白く返すのを競うゲームやんか? ここで爪痕残さんと、この芸能界生き残ていかれへんよ」
 ユイは鼻にシワを寄せ、クシと顔を崩してケラケラと笑た。
 彼女は神楽塚47グループ内でも指折りのダンスの振り入れが数回で完璧に覚えられる天才肌だた。だからこそパイプ椅子にゆたり背をもたれ、余た時間で私をイジてくる。
 
「大喜利、ねえ……
 私は動きを止めず、息を切らしながら呟いた。唇を軽く噛み、鏡の中でユイと目が合うのを意図的に避ける。
「そうよ。今どきのアイドルはお笑いスキルも必須なんよ。外番組で地蔵扱いされたらグループ全体のイメージ下げちうし。ここはひとつ、私に弟子入りしちいなYO!」

 弟子入りは別にして、たしかに正論ではある。でも今の私には、彼女の余裕が少し鼻についた。私はわざとらしく首を振て見せる。
「別に、あんたに弟子入りなんて希望してないけど……それならユイ。あんたはコレにどう答えるの?」
 試すようにそう言い返すと、ユイは一瞬だけ瞳を見開き、口を半開きにして固また。
 
「えーと、えー……
 わざとらしく人差し指でこめかみをクルクル回しながら、大げさに悩む仕草をする。
「うーん、ぼんやりと白い跡、ね……
 しばらく考えてから、唐突にパーの手の平にグーを叩きつけるポーズを取た。

「そういえば中学生の頃、お兄ちんの部屋の真青な毛布に、洗ても落ちへんカピカピの白いシミがいくつか出来てたわ。あれ、なんやたんやろね?」
 それを聞いた瞬間、私のステプが完全無欠に停止した。
……おいおい。それテレビで絶対言ダメなやつじん!」
「なんで? なんでなんで?」
 きとんとした上目遣いで鏡越しに擦り寄る風の仕草なユイに、私は呆れ顔を隠さない。

「あとで事務所の大人に聞きなさい。それと、お兄ちんにそと謝ておきな」
「了解や。ごめんなさーい」

 ユイはわざとらしく両手を合わせて天井を仰ぎ、すぐにちこんと舌を出して切り替える。
「で、梨衣名は? このぼんやりと白いものが何か、ご承知か?」
 私は汗を拭い、水を飲んだ。なんだか肩の力が抜けていく。

……この馬鹿馬鹿しい感じ、ちと楽しいかも。
 いたずら子のような笑みが口角に自然と浮かんだ。

「じあ私はこう答えるわ。『こないだ同期のキラちんと遊びに行たあんたの部屋の暗がりに、ずと静かに座てあんたを見つめてた老婆』てね」
「は? 意味わからん」
「ぼんやりと白いもの、てことよ」
「え、ヤバ! ホンマに? てか、おるん? 私の部屋に! やだ怖、ウソやろ? ウソやてゆうてー
 ユイの顔から余裕が一瞬で消え、大きな目が限界まで見開かれる。顔色がさと青ざめた。

 私は白目をむいた変顔でクールに答えた。
「ウ・ソ でーす」
……なんで白目全開で言うてんねん! どちなん? ホンマ正直に言て。やぱり……部屋に憑いてるの?」
 息を弾ませて答えをせがむ彼女に、私は棒読み口調で追い打ちをかける。
「ダイジブ ダイジブー。フブリーズ振りかけたら居なくなるらしいよ」
「それホンマなん? あー、良かた。そうだ、ついでにお兄ちんのシミにもかけてあげよ」
 恐怖から一転、ユイは別の好奇心に目を輝かせた。その切り替えの早さに、私は思わず噴き出す。

「あははは、そうだね。匂いは消えるかもね」
「ヤバ、匂いだけなん? あ霊は残るやん、シミの上に」
 再び大げさにパニクてパイプ椅子の上で両手両足をバタつかせるユイに、私は同情しながら尋ねる。
「何の霊よそれ?」

「そんなん決まてるわ。ゴールにたどり着けへんかた憐れなオス共の群れが、心残りの未練を具現化したエノキタケ姿の怨霊やん」
 その馬鹿馬鹿し過ぎる断言に、胸の内の頑なだた塊が弾け飛んだ。
 私とユイは同時に大笑いした。控室にカラカラと心地よい笑い声が響く。
 張り詰めていた神経が溶け、鏡越しにこちを見守てくれていたやさしい眼差しと今日やと目が合た。
 
「もう最悪……キノコ生えてきてんじん。そんなん燃えるゴミに出しちいな」
「いやいや、待たりーなや松多梨衣名。あれは『萌えないゴミ』の分類やで」
 パグ犬のように明るく弾ける心底ほとしたユイの笑顔。

 こんなとりとめもない、くだらない会話が、私たちの過酷な日常を支えるメンテナンスタイムなのかもしれない。

 窓のブラインドの隙間から、傾いた夕暮れの陽射しがオレンジ色に注いでいた。
 凝り固まていた胸の奥が、じんわりと温かく鼓動する。今、青春の1ページ。
付記
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