推敲バトル The First <後編>
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冷えた戦場
(茶屋)
投稿時刻 : 2013.06.22 18:45 最終更新 : 2013.07.27 21:44
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- 2013/07/27 21:44:45
- 2013/06/22 18:45:22
冷えた戦場
茶屋


7/27 犬子蓮木さんの冷蔵庫の比喩という指摘に基づき、比喩表現の少々追加修正。あまり思いつかないので少なめ。
   UCOさんの指摘の誤字脱字修正。銃の届く距離に関してはちょっとごまかし。戦争ごっこと思しき描写を一文追加。
   豆ひよこさんの指摘を受け、狂った状況と最後をちょっと追加修正と削除。






 tatatata
 タタタタ

 空虚な
 空に
 灰色の
 空に

 TaTaTaTa
 タタタタ

 銃声が響く

 たたたた
 タタタタ

 まるで早朝の小鳥の囀りのように
 まるで朝の音楽のように

 ドーン
 たたた
 たた
 ドーン

 時折大砲の音も響く
 そう、ここは戦場。
 冷たく、
 緩慢な、
 戦場

 孝蔵は干からびた煙草をふかしながらぼんやりと空を眺める。
 いつからこの戦争が始まって、どれくらい続いてるのかもよくわからない。もう何年も前から同じ空を見続けているような気がするし、つい昨日見たばかりのような気がする。代わり映えのしない空。
 そこに青空はない。雲の姿も見つけられない。
 均一な一層の灰色の気体が、灰色の天蓋が覆った空。
 決して開けられることのない蓋。
 閉じた世界。
 閉鎖系。
 閉塞的な場所。
 まるで終わりのない戦争を暗示するかのような情景。
 ずっと、この先も、このまま。
 出口のない戦場に閉じ込められているのだ。
 立ち上る煙草の煙は、そんな暗澹たる空へと飲み込まれていく。地上も灰色の霧に包まれていて敵陣はよく見ることが出来ない。それどころか味方の陣営がどこまでなのかもよく見通すことができない。ここは本当に味方の陣地なのか、いつの間にか敵陣に迷い込んでしまっているのではないかという不安が時折よぎるものの、そのたびにこの場から動いていないことを思いだす。ずっと同じ場所。ずっと同じ塹壕のこの位置で孝蔵は煙草をふかしている。
 頭を出せば、この場所から開放されるのだろうか?
 敵はちゃんと額を撃ちぬいてくれるだろうか?
 そんなことを考えながら孝蔵は煙草をふかし続ける。
 ただ、考えるだけ。
 実行はしない。
 面倒で仕方がないから。
 疲れきった体はもう言うことを聞いてくれないから。
 動く気力は残っていないから。
「敵って本当にいるんかな?」
 隣で同じく力なく座っている伊鈴がぼんやりと孝蔵に語りかける。その目は虚ろで、動かなければ蝿がたかってくるほどだ。
 動かなければ死体と間違われて運び去られかねない。
 先程まで孝蔵も伊鈴の存在を忘れていた。
「少なくともお前よりは存在確率高いんじゃないかな」
「ひでぇな」
「そうかぁ」
 会話も大して続かない。お互い目も見ず、顔も見ず、真正面を見つめたまま、ただ手前勝手につぶやいているかのようである。
 泥だらけで埃だらけの二つの人型についた四つの虚ろな目。
 もはや戦う気力も、動く気力も残っていない。だが、死んではいない。
 こんな場所でも生者と死者の区別だけはしっかりと残っている。生者は残り、死者は消え去る。いつの間にか塹壕から消えたものは、死者なのだ。
 死者は運ばれていく。死者の世界へ。
 死者は腐り、他の者まで腐らせてしまう。死は、腐敗は、伝染するのだ。
 残っているのは生者だけ。
 ここから出ていけるのは死者だけ。
「肉」
「あ?」
「食いて」
「あ?」
「肉、食いたくね?」
「食っただろ。昨日」
「あんなん肉じゃねぇよ」
「ここじゃあんまり保存がきかないからな。冷凍設備があるんならまだしも」
 毎日、死者は二三人出ている。銃弾に倒れるものや病に倒れるものだ。
 銃弾で死ぬものもあるということは、遠くの敵の弾も届くことはある。たまにだが。
 敵陣はそう近くもないが、そう遠くもない。
 そんな状態がずっと続いている。
 昔からずっと。
 これからもずっと。
 だが、本当は違うのかもしれない。閉塞感に耐え切れなかった連中が、自分の頭を撃ち抜いたり、最後の気力を振り絞って仲間を殴り殺したりしたかもしれない。
 膠着といえば聞こえがいいが、定期的に死者をだしながら、停滞している。指揮官達は決戦に持ち込もうという考えは疾うに忘れ去ってしまい、戦線の維持だけに努めているのだ。定期的に兵員と物資は補充される。それを一定量消費していく。数が増えすぎたり、減りすぎたりしないように。そして腐らないうちに皆使われてしまう。
 それがこの戦場をうまく保つコツだ。
 難しい仕事ではない。戦争の献立どおりにそのルーチンを乱さないことを指揮官たちは義務と感じているのだろう。
「寒いな」
「そうかな」
「そうだよ」
 孝蔵はもはや温度も感じなくなってきている。あまりにもこの空間が苦痛すぎるのか、感覚が無くなってきているのか、暑いとも寒いとも感じなくなっていた。最初は嫌で嫌で仕方がなかった埃っぽさや泥の味、血の臭いも今は殆ど感じない。
「寒いのかな」
「寒いよ。冷蔵庫の中にいるみたいだ」
「冷蔵庫って寒すぎじゃないか?あれ4℃ぐらいだろ?」
「けど、それくらい寒いよ」
「言いすぎだろ」
「いや、冷蔵庫に入った時とおんなじ位寒い」
「入った時あんのかよ?」
「あるよ。子供んときだけどな」
「マジかよ。馬鹿じゃん」
「うるせぇ」
 冷蔵庫を開けると明かりがつく。
 外からも、内側からも。
 つまり閉まっている時は真っ暗闇だ。
 狭く、閉じた、暗闇だ。
「いやぁ、大変だったなぁ。あん時は、寒いし、暗いし、狭いし」
「けど、あれだな、運が良かったんだな」
「へ?なんで?」
「だって、冷蔵庫って中から開けらんねぇだろ?」
「へ?」
「誰かに開けてもらわなくちゃなんねぇだろ?」
「……」

「誰も、開けてなんてくれないよ」

 孝蔵の脳にある一つのイメージが去来する。
 オレンジ色のBB弾。
 河原に打ち捨てられた古びた冷蔵庫。
 閉じられる扉。ロックのかかる音。
 暗い。
 暗い。
 暗い。
「ちょっと待て。あれ?俺も子供の頃……あれ?」
「……」
「冷蔵庫の中に入って……」
「……」
「俺、どうやって」
「……」
「俺、どうやって出たんだ?」
「……」
「俺、外に、出れたのか?」
「……」
 孝蔵がはっとして伊鈴の方をみると、そこには誰もいなかった。
 誰も。
 曇った空。
 閉じられた蓋。
 寒い。
 出られない。
 ここから、
 俺は、
 どうやって出ればいい。
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