推敲バトル The First <後編>
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僕の知らない女の子のこと
投稿時刻 : 2013.06.22 23:32 最終更新 : 2013.07.27 02:47
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- 2013/07/27 02:47:58
- 2013/07/06 03:54:09
- 2013/06/22 23:32:48
僕の知らない女の子のこと
犬子蓮木


 冷蔵庫がでてきた。
 彼女の口から冷蔵庫がでてきたんだ。なにを言ているかわからないと思うけど、僕だてわからない。彼女は何事もなかたかのように冷蔵庫をあけて、中から炭酸水を取てくれた。
「口ゆすいで」
「え……
「はじめてのキスなのに、変な味じイヤでし。さきマクいたし」
 ここは河原。僕らは中学生。はじめてのデートで、はじめてのその……キスの雰囲気になた瞬間だた。夕方で少し影になたところなので周りに人はいない。
 僕と彼女と冷蔵庫。
 それだけ。
 そんな状況だた。その冷蔵庫は彼女の口からピコロ大魔王よろしくでてきたんだけど。
「あの、この冷蔵庫てなに?」
「シプのSJ-WA35Y。最新型だよ。どちもドアがついてて……」彼女は扉を左右から一度ずつ開け閉めする。「なんとプラズマクラスター付き!」
「ぷらずまくらすた……」僕は感嘆の声をもらす。「え、あのそうじなくて」
「なに? 電気なら心配ないよ。充電バテリー付けてるから」
 いや、そういうことでもなく。いや、それはそれですごいけど。
「なんで冷蔵庫?」
「だから口をゆすいで欲しいなて」
「そ、そうじなくて!」
 つい声が大きくなてしまた。
 彼女がすこし悲しそうな顔する。
「ねえ、もしかしてあたしのことほんとは嫌い? あたしと……あたしみたいなブサイクとキスするのとかイヤ? だからなんとかごまかして逃げようとしてるの? それなら言てよ。今日、遊んでくれただけでうれしかたし」
 そんなわけない。僕だて楽しかたし、好きだし、してみたいことなんていぱいある。
 だけど! そんなとき口から冷蔵庫が出てきて冷製でいられるほど、ほど……なんだ? 普通じないとか? これで落ち着いているほうが普通じないよな。違う。そんなことはどうでもいい。泣きそうな彼女をなぐさめないと。
「好きだよ。僕だて君のこと好き。だけどね……
「だけどなに?」
「冷蔵庫て口から出せるものなの!」
 彼女はキトンとしている。
 それから笑い出した。
「なんだそんなこと」彼女はおなかを抱えて笑い続けている。「女の子はね、みんないろいろ出すんだよ。そかー。男子は保健の授業別だもんね」
 彼女がそと僕に体をあずける。それから持ていた炭酸水を口にふくで、はきすてて。同じペトボトルを僕にも寄越した。
「もういいよね?」
「うん……
 僕はごくりとつばを飲み込んでソレを受け取た。

 翌日。いろいろあて、だからといて変わりはなく学校。僕も彼女も同じクラスで、だけど付き合ていることなんかは内緒にしている。だからクラスではそんなに話さない。挨拶だて特別したりはしない。
 昨日はいろいろ衝撃だた。味がどうとか言ていたけど、僕にとてのフストキスは冷蔵庫の思い出しか残ていない。女子てみんな冷蔵庫を出せるんだろうか。男子はみんなあんな経験をしているんだろうか。知らなかた。だてネトでエロ動画見ても冷蔵庫出すシーンなんてないし、漫画読んでてもみんなそんなことしていないじないか。
 僕はどうしても頭がぐるぐるだたので、給食を食べ終えての昼休みの時間に、友達に聞いてみることにした。そいつはよくモテる奴で、恋愛経験が豊富な友人だから、きといろいろ教えてくれるだろう。
……なあ、女の子て口から冷蔵庫だすのて普通?」
「なんの冗談? ねぼけてんの?」
 出さないのか?
 僕は少し恥ずかしくなりながらも、小声で昨日のことを説明した。こいつは良い奴だから僕のことをバカにしたりはしない。からかたりはするけど。
「ああ、それか」
 そいつは笑た。声が大きかたので、ちと周りに聞こえないようにしろて止める。
「俺の知てるのだと本だしたりとかはいるね。恋愛小説だしてシーンをなぞたり。あとはガムとか、口臭が気になるんだて」そいつは続ける。癖なのかじに声が大きくなていく。「冷蔵庫出す奴は見たことないな」
 残響。僕は頬に衝撃をくらた。どうやらいつのまにか近づいてきた彼女にビンタをくらたらしい。
「サイテー!」
 彼女は顔を赤くして泣いている。
 教室がざわざわとうるさくなる。
 チイムがなた。休み時間が終わりということ。先生が時間通りにはいてくる。几帳面な人。いつも廊下でチイムを待ているんだ。普段はそれでみんな席に付く。だけど今日はそうはならなかた。みんな空気に浮かれていて、先生もなにかを察して、僕が彼女に歩み寄ろうとして、けれど彼女は教室から飛び出してしまた。
「え」僕はやと声を漏らす。
 クラスの女子が、僕のやたことが酷いことだて遠巻きに言ていた。どうやら何を出すかはすごいプライベートな情報で、周りに言てはいけないものらしい。そんなものが知り合いにばらされることなんてありえないことだて。
「追いかけなよ」メガネでいつもクールな委員長が一言だけつぶやいた。
 クラス中が「そうだそうだ」と盛り上がる。
 先生も「お前は今日、欠席だな」と勝手に僕を休みにした。
 なんだこれ。なんだこの空気。僕はすがるようにして友人を見た。そいつはウンクして親指つきあげ言た。
「グドラク」

 僕は教室を出て彼女を探す。どこに言たのだろうか。なんとなくわかていた。そこはまだ少ししか付き合ていない僕と彼女の中でそのきかけとなた場所だ。
 うちの学校には校庭の真ん中に松林がある。1周200mほどと結構な広さで、校庭を大きいものと小さいものに分断していて、体育会系の部活はそこの周りをランニングするのが日課になている。
 そこの松林にはオカルト的な伝説があて、僕と彼女はそれがきかけで付き合い始めた。
 今は授業中。大きい方の校庭では、体育をやている。だから松林の裏側のほうにあたりをつけて僕は走た。玄関を出て近づくと林の影に冷蔵庫が見えた。さらにその影にしがみこんで泣いている彼女を見つけた。
「ごめん!」
 僕は息を切らして近づいて、ただひたすらにあやまた。
 許してくれないだろうか。僕のしてしまたことはとても酷いことだて、まだよくわかてなかたけど、彼女の様子を見てすこしずつだけど理解しはじめていた。
 彼女が泣き腫らした目でこちらを見上げる。
 とてもかわいかた。
「泣かないで。許してくれるならなんでもするから」
「ほんとうに?」
「うん」
「あたしのこと好き?」
 うなずこうとした。「好き」て言おうとした。だけどそうはしなかた。やぱりそうじないよね。
 僕はただ冷蔵庫をあけて、炭酸水を取りだした。
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