てきすとぽい
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漱右になるのは君だ! 第一回赤シャツ文学賞
〔 作品1 〕
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赤シャツ隊
(
茶屋
)
投稿時刻 : 2013.07.27 16:00
最終更新 : 2013.07.28 15:30
字数 : 2913
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更新履歴
-
2013/07/28 15:30:27
-
2013/07/27 16:00:16
赤シャツ隊
茶屋
暑い。
暑すぎる。
白く燃える恒星が沈んでもなお、そいつが残してい
っ
た光が空気の中で燃え盛
っ
ている。光が消え去
っ
てもなお、熱だけは一向に去
っ
てくれない。
熱と水分の激しい抱擁のせいで、暑さは肌に纏わりついて離れず、じわじわと体の中へと染みこんでいく。そしてそれ以上行き先を失
っ
た熱は肉体をゆ
っ
くりと蝕むように焼いていくのだ。
脳は既に焼かれかか
っ
ている。
燃え尽きる前に、体を冷やさなければ。
ビー
ルが飲みたい。
その一心で、バー
の扉を開けた。
生ぬるい風が外へ抜けていく。いつもどおり冷房はそれほど効いていないようだが、それでも外よりはマシだし、冷たいビー
ルが飲めればそれで充分だ。
マスター
は俺が入
っ
て行くと同時にグラスに氷を入れ、瓶ビー
ルの栓を抜いた。
目の前にドンと置かれたグラスにビー
ルを注ぎ、ゆ
っ
くりと氷を揺らす。冷たさが手に伝わ
っ
てきた所で、一気にグラスの中身を呷る。呼吸も忘れるほどに、ぐ
っ
ぐ
っ
と喉を鳴らし、全身にビー
ルを沁み渡らせていく。冷気と刺激と感覚が、全身を蘇らせていく。脳の中で幸福のシグナルで満たされ、至福の時が少しでも長く続いて欲しいと願うのだ。
一息で飲み干すと、物足りんと言わんばかりに次をグラスに継ぎ足す。
それも一息で飲み干すと、や
っ
と感覚を取り戻したような気がした。
すると周りがよく見えてくる。
いつもと違
っ
て愛想のないマスター
。
いつも聞こえるはずの客の声が聞こえない。
いつも見える人影が無い。
だが、客はいる。俺以外にもう一人だけだ。
カウンター
に突
っ
伏した、赤シ
ャ
ツの男。
くそ、赤シ
ャ
ツ隊だ。
ビー
ルにだけ注意を取られて気づかなか
っ
たなんて。俺としたことがとんだ失敗をしたもんだ。
このビー
ルを飲んだらと
っ
とと出て行こうと心に決め、グラスに麦色を注ぐ。
赤シ
ャ
ツ隊は政府の犬だ。
正式名前は共産融和主義平和戦線という。建国以来国の中枢を握る共産党の下部組織で、エリー
トではない叩き上げの若い連中で構成されている。
本当かどうかは知らないが建国から国のト
ッ
プに居る共産党の特等書記長を崇拝している保守派連中だ。特等書記長が本当に生きているとしたらもう二百歳は軽く超えているはずだが、一向に死んだという報は聞かない。それがますます政府と、この連中の不気味さを増させている。
不気味だろうがなんだろうが、こいつらは俺の天敵だ。
だから、逃げる。
いつか勝つために。
代金を置いて、店を去ろうとする。だが、そう簡単にはいかなか
っ
た。
「兄さん。もう終わりかい?」
振り返
っ
てみれば赤シ
ャ
ツの野郎がニヤニヤ笑
っ
てこ
っ
ちを見ている。
おとなしく寝ていればいいものを。
「ええ、今日はち
ょ
っ
と家族に早く帰る約束をしたもんで」
適当な嘘が口から自然と出る。
「なんだ。いいじ
ゃ
ないか。ち
ょ
っ
と付き合えよ」
厄介なことにな
っ
たと思
っ
た。もう一度断りの言い訳が口から出そうにな
っ
たが、それも危険だと思
っ
た。相手の目つきは定まらず、完全に酔
っ
払
っ
ていることが容易に見て取れる。何で怒り出すかもわからない。怒りに任せて拘束されるかもしれない。「反政府的」だと、勝手に決めつけられて。
「ええ、わかりました。では、すこしだけ」
この選択が得策かどうかはわからなか
っ
たが、少なくとも相手の顔には怒りが浮かんでいない。
「よし、いいね。マスター
」
赤シ
ャ
ツはビー
ルをそれぞれに一本注文すると、お互いにビー
ルを注ぎ、乾杯をする。こ
っ
ちはち
っ
とも乾杯なんてしたい気分じ
ゃ
ないのに。
「こうも暑いと働く気になんてなれんね」
「はあ」
「俺も仕事を投げ出してきたよ。こんな糞暑いのに、要人の警護なんてや
っ
てられん。なあに、俺一人抜けた所で変わらんさ」
赤シ
ャ
ツにしては意外な言葉だと思
っ
たが、だが、結局こういう連中が役人にな
っ
て国が腐
っ
ていくのだとも納得がい
っ
た。
だが、俺の警戒心は去
っ
たわけではない。それを見透かすように赤シ
ャ
ツは言
っ
た。
「緊張してるか?安心しろ、と言
っ
てもできんだろうがな。俺は今日はもう、仕事をする気が無い」
「はあ」
「さ
っ
きから、はあ、ば
っ
かだな兄さん。」
「すいません」
「いいよ。いいよ。飲みな。飲みな」
意外と気さくなやつかもしれないと思い始めるが、警戒を緩めないように自戒する。
「どこ出身だい?兄さんは」
「ええ
っ
とリンムジ省のボジ
ャ
ド県です」
「ほお、こり
ゃ
奇遇だね。俺も同じだよ。同郷の偶然の出会いを祝して乾杯だ」
赤シ
ャ
ツは静かにグラスを傾ける。
「俺はね。俺の家はね。貧乏だ
っ
たんだ。俺はその貧乏が耐えられなか
っ
た。貧乏が嫌で嫌でたまらなか
っ
た。毎日同じ、芋ば
っ
かり食
っ
て、耕す畑の作物は俺達は食えず、都市の連中の口に入る。許せなか
っ
た。都市の連中がじ
ゃ
ない。貧乏がだ」
赤シ
ャ
ツの目は遠くに見ているかのようだ。遠くの、大きく離れてしま
っ
た過去を、目を凝らしながら思い出すように。
「だから、俺は家を出た。けどな。都市に出たから
っ
て金持ちになれるわけじ
ゃ
ない。貧乏は貧乏のままだ。登
っ
ていかなくち
ゃ
いけないんだ。登
っ
ていかな
っ
くち
ゃ
樹に実
っ
た果実には手が届かない。都市には色んな連中がいて、皆必死に手を伸ばしていることを知
っ
たよ。でも、俺は諦めなか
っ
た。登
っ
てやる
っ
て。それで、俺はまずは梯子を使うことにした。まあ、学もコネもねえからな、大した梯子は使えねえ。でも、こんな俺でも使える梯子があ
っ
た。それがこれ
っ
てわけさ」
そうい
っ
て赤シ
ャ
ツはシ
ャ
ツの肩口をくい
っ
と引
っ
張
っ
て見せる。
狂信的と言われていた赤シ
ャ
ツ隊にもこういう男がいるのかと新鮮な驚きを覚えた。上に登るための道具として、あえて政府の犬になる。赤シ
ャ
ツ隊に所属していれば、問題を起こさない限り地方の役人ぐらいにはなれるだろう。この男は政治的信念などという理由ではなく、経済的に上へ向かうために赤シ
ャ
ツ隊を利用しているのだ。
自分とは全く異なる境遇と信念を持つ男に、俺は親しみを覚え始めていた。
ビー
ルを口に含みながら、少し笑う。
ふと携帯の振動音が聞こえてきた。自分のかと思い、ポケ
ッ
トから取り出してみたが鳴
っ
てはいなか
っ
た。赤シ
ャ
ツの携帯だ
っ
た。
サボりがばれたか、と俺は苦笑する。
「ああ、ああ、そうか、終わ
っ
たか。ああ、わか
っ
た」
全身の血の気がひいた。声に全く酔
っ
ている気配がない。赤シ
ャ
ツのほうをちらりと見ると、その目はし
っ
かりとこちらを見据えていた。
酔
っ
たふり?
まさか?
何のために?
何もまずいことは言
っ
ていないはずだ。
「おい、阮和」
は
っ
として赤シ
ャ
ツの顔を見る。何でコイツは俺の名前を知
っ
ている。
「そう驚いた顔を、するな。俺の仲間から連絡があ
っ
た。お前の家から反体制組織に関する資料が多数見つか
っ
たそうだ。詳しい話を聞きたいんだがな」
「くそ、始め
っ
から、騙しやが
っ
たのか」
「騙した、か。そうかもしれんな」
赤シ
ャ
ツは銃口を俺に向け、立ち上がるように促す。
「けど、嘘はついち
ゃ
いないさ」
その言葉はどこか寂しげに聞こえた。
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