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第7回 てきすとぽい杯
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 投稿時刻 : 2013.07.20 23:39 最終更新 : 2013.07.20 23:43
 字数 : 1743
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- 2013.07.20 23:43:38
- 2013.07.20 23:41:15
- 2013.07.20 23:39:56
酒が不味い
゚.+° ゚+.゚ *+:。.。 。.


「ー党、ー党にどうか清き一票を!」
 大通りからうぐいす嬢の声が聞こえてくる。うぐいす嬢なんて言ても、すごく年増な声に聞こえるけれど。
 投票には行かない。誰が議員になたところで世の中変わるなんて思えない。だいたい、今日も明日も投票日も、一日中バイトのシフトが入てる。時給658円で8時間。必死に勉強して入た地元の国立大を卒業した挙句、就職活動が上手くいかず今やいい年してワーキングプアーのフリーターだ。選挙の時期になるといつも、かつて同級生だた議員の息子の顔が脳裏を過ぎる。勉強なんてからきしだたくせに、都心の私立大で学位を取て、今は父ちんの下でぬくぬく豪勢な生活をしてやがる。あの締りのない笑顔を思い出して急に気分が悪くなた。
 汗をかいている缶チハイにバーコードリーダーを当てる。
「恐れ入りますが年齢確認ボタンをお願いします」
 事務的な口調でそう言いながら残りの商品にバーコードリーダーを当てる準備をする。客がボタンを押す気配がない。
「俺、20歳超えてるよ」
 馬鹿か、そんなんはどうでも良いんだよ。速く押せ――
 胸中で悪態をつきながら顔を上げた途端、心臓が止まりそうになた。
「よ、久しぶりじん。お前セブン就職したの?」
 覚えてるんだ、私の顔。
「あの……ボタン……
「このコンビニよく来るのに知らなかたわ」
 言葉が上手く出ずにいる私の様子に構うことなく、そんなことを軽い口調で言いながら、男はタチパネルに手を伸ばした。
 つまみにするんだろう。イカゲソと野菜ステクがかごに放り込まれてる。相変わらず、酒がすきなんだなあと思た。
「1250円になります」
「いつからここいんの? お前確かN大の院行てたんだよな?」
 矢継ぎ早に質問してくる男と目を合わせることが出来ない。おつりを数える手が震えた。
「あの!」
 思いのほか不自然に大きな声になて、男が目を丸くしていた。動悸がする。
「後ろ……お客様……てる……んで……
「え、あ、すまんすまん。仕事中に悪かたな。また来るわ、頑張れよ!」
 そう言て酒とつまみの入た袋を持て男は立ち去る。なんで、て思た。なんで、私の顔を覚えてるの。なんで私の顔を覚えてるなら、あんな普通に話しかけるの。

 何党とかどういう政策とか、そういうのは忘れたけど、とにかく彼は、政治家の息子だ。
 最後に会たのは20歳の時の高校の同窓会だた。
 私は甘党で、酒が飲めなかた。彼は辛党で、お酒が好きだた。
 社交的で誰にでも話しかけるタイプだた。私のことなんて覚えてるはずないと思てたのに、ちんと顔と名前を覚えていて、ビール瓶を持て私の隣に座た。将来自分も政治家になるから、顔を売ておかないと、と冗談めかして言ていた。笑てあげるべき冗談だたんだろうが、私はむつりしたままだた。それに対して彼が気分を害した様子はなかた。
「まあ、飲んで飲んで」
 とビール瓶を傾けられた。衝動的にコプを差し出しそうになて、すんでのところで止めた。
「飲めないの」
 と言た。
「良いじん、少しぐらい。大丈夫大丈夫」
 何度かその応酬があて、私は少しだけビールを飲んだ。まずいと思たのは最初の数口で、すぐに酔て味も何もわからなくなた。ひとたび飲んだらぐいぐい飲むようになた私に気をよくして、彼はどんどん酒を進めてきた。
「なんだ、結構飲めるんじん」
「だて、嬉しいから」
「え?」
「話してくれたの、嬉しかたから」
 今思えばその時点で彼は相当戸惑ていたから、そこで我に返るべきだたけど、だめだた。
「ずと好きだたの」
 彼が困たように表情を失てうろたえているのを見て、急激に酔いがさめた。場を白けさせてしまた。飲みの場で言うようなことじなかた。重すぎた。

 自動ドアが開いて、チイムの音が店内に鳴り響いた。横目で見ると、可愛らしいワンピースを来た茶髪の小柄な女の子が、笑顔で彼を待ている。それから二人で手を繋いで歩き出した。今買たお酒を二人で飲むんだろう。辛党同士で、美味しく。
「ー党、ー党にどうか清き一票を!」
 先ほどとは違う政党の選挙カーが騒音を撒き散らしていた。私はそれに重ねるように、心の中で呟く。
 どうか、甘党に清き一票を。
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