てきすとぽい
X
(Twitter)
で
ログイン
X
で
シェア
第7回 てきすとぽい杯
〔
1
〕
…
〔
8
〕
〔
9
〕
«
〔 作品10 〕
»
〔
11
〕
〔
12
〕
…
〔
13
〕
酒が不味い
(
゚.+° ゚+.゚ *+:。.。 。.
)
投稿時刻 : 2013.07.20 23:39
最終更新 : 2013.07.20 23:43
字数 : 1743
1
2
3
4
5
投票しない
感想:1
ログインして投票
更新履歴
-
2013/07/20 23:43:38
-
2013/07/20 23:41:15
-
2013/07/20 23:39:56
゚.+° ゚+.゚ *+:。.。 。.
「ー
ー
党、ー
ー
党にどうか清き一票を!」
大通りからうぐいす嬢の声が聞こえてくる。うぐいす嬢なんて言
っ
ても、すごく年増な声に聞こえるけれど。
投票には行かない。誰が議員にな
っ
たところで世の中変わるなんて思えない。だいたい、今日も明日も投票日も、一日中バイトのシフトが入
っ
てる。時給658円で8時間。必死に勉強して入
っ
た地元の国立大を卒業した挙句、就職活動が上手くいかず今やいい年してワー
キングプアー
のフリー
ター
だ。選挙の時期になるといつも、かつて同級生だ
っ
た議員の息子の顔が脳裏を過ぎる。勉強なんてからきしだ
っ
たくせに、都心の私立大で学位を取
っ
て、今は父ち
ゃ
んの下でぬくぬく豪勢な生活をしてやがる。あの締りのない笑顔を思い出して急に気分が悪くな
っ
た。
汗をかいている缶チ
ュ
ー
ハイにバー
コー
ドリー
ダー
を当てる。
「恐れ入りますが年齢確認ボタンをお願いします」
事務的な口調でそう言いながら残りの商品にバー
コー
ドリー
ダー
を当てる準備をする。客がボタンを押す気配がない。
「俺、20歳超えてるよ」
馬鹿か、そんなんはどうでも良いんだよ。速く押せ
――
胸中で悪態をつきながら顔を上げた途端、心臓が止まりそうにな
っ
た。
「よ
っ
、久しぶりじ
ゃ
ん。お前セブン就職したの?」
覚えてるんだ、私の顔。
「あの
……
ボタン
……
」
「このコンビニよく来るのに知らなか
っ
たわ」
言葉が上手く出ずにいる私の様子に構うことなく、そんなことを軽い口調で言いながら、男はタ
ッ
チパネルに手を伸ばした。
つまみにするんだろう。イカゲソと野菜ステ
ィ
ッ
クがかごに放り込まれてる。相変わらず、酒がすきなんだなあと思
っ
た。
「1250円になります」
「いつからここいんの? お前確かN大の院行
っ
てたんだよな?」
矢継ぎ早に質問してくる男と目を合わせることが出来ない。おつりを数える手が震えた。
「あの!」
思いのほか不自然に大きな声にな
っ
て、男が目を丸くしていた。動悸がする。
「後ろ
……
お客様
……
待
っ
てる
……
んで
……
」
「え、あ、すまんすまん。仕事中に悪か
っ
たな。また来るわ、頑張れよ!」
そう言
っ
て酒とつまみの入
っ
た袋を持
っ
て男は立ち去る。なんで、
っ
て思
っ
た。なんで、私の顔を覚えてるの。なんで私の顔を覚えてるなら、あんな普通に話しかけるの。
何党とかどういう政策とか、そういうのは忘れたけど、とにかく彼は、政治家の息子だ。
最後に会
っ
たのは20歳の時の高校の同窓会だ
っ
た。
私は甘党で、酒が飲めなか
っ
た。彼は辛党で、お酒が好きだ
っ
た。
社交的で誰にでも話しかけるタイプだ
っ
た。私のことなんて覚えてるはずないと思
っ
てたのに、ち
ゃ
んと顔と名前を覚えていて、ビー
ル瓶を持
っ
て私の隣に座
っ
た。将来自分も政治家になるから、顔を売
っ
ておかないと、と冗談めかして言
っ
ていた。笑
っ
てあげるべき冗談だ
っ
たんだろうが、私はむ
っ
つりしたままだ
っ
た。それに対して彼が気分を害した様子はなか
っ
た。
「まあ、飲んで飲んで」
とビー
ル瓶を傾けられた。衝動的にコ
ッ
プを差し出しそうにな
っ
て、すんでのところで止めた。
「飲めないの」
と言
っ
た。
「良いじ
ゃ
ん、少しぐらい。大丈夫大丈夫」
何度かその応酬があ
っ
て、私は少しだけビー
ルを飲んだ。まずいと思
っ
たのは最初の数口で、すぐに酔
っ
払
っ
て味も何もわからなくな
っ
た。ひとたび飲んだらぐいぐい飲むようにな
っ
た私に気をよくして、彼はどんどん酒を進めてきた。
「なんだ、結構飲めるんじ
ゃ
ん」
「だ
っ
て、嬉しいから」
「え?」
「話してくれたの、嬉しか
っ
たから」
今思えばその時点で彼は相当戸惑
っ
ていたから、そこで我に返るべきだ
っ
たけど、だめだ
っ
た。
「ず
っ
と好きだ
っ
たの」
彼が困
っ
たように表情を失
っ
てうろたえているのを見て、急激に酔いがさめた。場を白けさせてしま
っ
た。飲みの場で言うようなことじ
ゃ
なか
っ
た。重すぎた。
自動ドアが開いて、チ
ャ
イムの音が店内に鳴り響いた。横目で見ると、可愛らしいワンピー
スを来た茶髪の小柄な女の子が、笑顔で彼を待
っ
ている。それから二人で手を繋いで歩き出した。今買
っ
たお酒を二人で飲むんだろう。辛党同士で、美味しく。
「ー
ー
党、ー
ー
党にどうか清き一票を!」
先ほどとは違う政党の選挙カー
が騒音を撒き散らしていた。私はそれに重ねるように、心の中で呟く。
どうか、甘党に清き一票を。
←
前の作品へ
次の作品へ
→
1
2
3
4
5
投票しない
感想:1
ログインして投票