てきすとぽい
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第7回 てきすとぽい杯
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袋と恋と拳銃について
(
太友 豪
)
投稿時刻 : 2013.07.20 23:30
字数 : 1670
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袋と恋と拳銃について
太友 豪
「
――
党に清き一票を!」
ユンナは目に入
っ
てきた他人の汗に顔をしかめながら、アパー
トの近くをとおる街宣車のがなり立てるスピー
チを聞いていた
――
通りに面していない彼女のアパー
トにまで様々な政党の様々な候補者の名が聞こえてくる。
彼女は投票というものがよくわからない。彼女はこれまで生きてきた中で投票権というものをも
っ
ていなか
っ
たし、そもそも人間として扱われてこなか
っ
た。
彼女が言葉を習得したのは、ほんの五年前のことだ。彼女はかつて、ヴ
ィ
セラバ
ッ
グシリー
ズという名で取引される商品の一つに過ぎなか
っ
た。
ハナブサと名乗る男は、闇市場の放出された彼女を買い上げ、ユンナという名を与え教育した。
ある用途のために遺伝子からデザインされた彼女は健康で従順で、知能的には幼稚園児程度で止ま
っ
ていた。
幼稚園児程度の知能、というのはヴ
ィ
セラバ
ッ
グシリー
ズとしては賢すぎる、ということだ。賢すぎた彼女は、失敗作として民間に払い下げられた。賢すぎればヴ
ィ
セラバ
ッ
グシリー
ズは人間なのではないかという疑念が生まれ、人類の幸福に寄与するという彼女たちの存在理由を揺るがしかねない。
ヴ
ィ
セラバ
ッ
グシリー
ズの仕様には、幼形成熟(ネオテニー
)も含まれている。外側が若々しいというのも、彼女らの商品価値を高める要因の一つなのだ。
知能をあえて成長させないという仕様と矛盾があるようにも思えるが、実際のデー
タとしてネオテニー
仕様のヴ
ィ
セラバ
ッ
グシリー
ズの発売によ
っ
て、旧式の実年齢通りに加齢するヴ
ィ
セラバ
ッ
グシリー
ズは市場からあ
っ
という間に淘汰された。
ヴ
ィ
セラバ
ッ
グとしては天才的な知能を持つユンナにハナブサは言葉を教え込んだ。
ハナブサはユンナのように特別な才能を持つ子供たちを教育しているのだとい
っ
ていた。ユンナはハナブサが育てているとい
っ
たほかの子供たちとはあ
っ
たことがない。
言葉を知るほどに、ユンナの世界は広が
っ
た。
「はあ
っ
――
はあ
っ
――
気持ちいいかい、お嬢ち
ゃ
ん」
ユンナは仰向けにされた自分の上で腰を振
っ
ている中年男の汗みずくの顔を見上げる。
ヴ
ィ
セラバ
ッ
グである彼女は人間に備わ
っ
た機能はすべて備わ
っ
ている。
ハナブサがや
っ
てきたと思
っ
て無警戒にドアを開けたところを、突然に殴られ茶色く変色した畳の上に組み敷かれた。
彼女は自分がされていることがセ
ッ
クスというものだということを理解している。しかし、彼女にと
っ
てのセ
ッ
クスは快感を伴うものであるはずなのに、膣に強引につけられた傷による痛みと由来不明の嫌悪感があるばかりだ。その齟齬が、ユンナをひどく混乱させる。
ハナブサは決して間違わない男だ
っ
た。その彼が教えてくれたことが間違
っ
ているはずがない。
やはり、自分は壊れているのだろうか。
自分を大切な娘だと呼んでくれたハナブサを思
っ
て、ユンナは苦痛を覚えた。ただ一人、愛情を感じる男を思い浮かべて感じるこの苦痛の名をユンナは知らない。
ユンナは突き上げられ、内臓を揺すぶられるような苦痛の中で、ハナブサのい
っ
た言葉を思い出す。「どうしても、苦しくな
っ
たら、この言葉を頭の中で三回唱えるといい
……
ただし、一度しか使えないおまじないだ」
ユンナはハナブサに教えてもら
っ
たおまじないを三度心の中で唱える。
それだけで胸の中に暖かい火が熾
っ
たかのようだ
っ
た。
その火は次第に大きくな
っ
て
ヴ
ィ
セラバ
ッ
グ
内 臓 袋 を内側から弾けさせた。
ユンナであ
っ
たものから噴き出した汚れのない内臓と血液は男の汗まみれの身体にあた
っ
て、床の上にバウンドした。
湯気を上げる臓物たちは、体外に放出されても全く生気を失
っ
ていない。
移植用臓器育成装置、通称内臓袋の最後の仕事は、内臓を損壊させることなく、内臓を外部に露出させることだ。
「我が党は国民の利益のために、移植用臓器育成装置の増産を進め、国民全員が健康な臓器を虜土セル社会の実現を目指します!」
遠くの通りから街宣車のスピー
チが聞こえてくる。
幼女型の移植用臓器育成装置の額に打ち込まれた二発分の銃声と、中年男の細く長い悲鳴は、かまびすしいスピー
チに紛れて誰の耳にも届かなか
っ
た。
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