てきすとぽい
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第7回 てきすとぽい杯
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モググは無慈悲な星の覇王
(
小伏史央
)
投稿時刻 : 2013.07.20 23:33
字数 : 1397
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モググは無慈悲な星の覇王
小伏史央
モググは票をみんな食
っ
ちまう生き物だ。太陽系の外れの、ど
っ
か小さな星からつれてきたらしいが、詳しいことは誰も知らねえ。公然の秘密
っ
てやつだ。誰も喋らねえんだ。モググは硬いクチバシを持
っ
ている。モググは硬いツメを持
っ
ている。モググは人間ぐらいのでかさがある。
っ
てくち
ゃ
べ
っ
てるお喋り好きは、みんなお役所につれてかれたと、も
っ
ぱらの噂だ。
だが、モググは本当に実在している。
ここだけの話だが、この目で見たことがあるんだよ。あ? モググのくちばし? いや
ぁ
言えめえ。お役所行きはごめんだからな。だが、人間くらいでかい
っ
つー
のは、そのとおりだ
っ
たぜ。いやいや、というか、モググは人間そのものだ。
姿こそ違えど、モググはでぶ
っ
ち
ょ
の人間みたいに動いた。二本足で歩いて、二本の手でビー
ル瓶握りやが
っ
て。本当だ。嘘じ
ゃ
ねえ。信じない? け
っ
。
*
お喋り好きの権兵衛を、それからから
っ
きし見ていない。おれは住民認証カー
ドを照合させ、投票所に入室した。地球ではす
っ
かり電子投票が主流だというのに、火星ではいまだに直接投票だ。投票所は人間たちでご
っ
たがえしている。モニター
には、サンライズ党、カリスト党、モア党にジ
ョ
ウント党、ふざけた連中で一杯だ。挙句の果てには、どこの党とも知れぬ輩が、トリフ
ィ
ドのコスプレをして電子情報を垂れ流している。
おれは不思議と、モググの噂をそのトリフ
ィ
ドから連想した。どう連想したのかわけが分からないが、おれのニ
ュ
ー
ロンが勝手に働いたのだからおれは知らない。モググ。カリスト党もモア党もどこも、モググを雇
っ
て相手の票を食わせてるんだ
っ
てよ。この噂は、権兵衛から聞いた話ではなか
っ
たな。
「ただの噂だ
……
」
おれは独り言をしてしま
っ
たらしい。火星に一人暮らしするようにな
っ
てからはたまにしてしまう。だがそれは雑音に掻き消されたらしい。おれが苦笑いをしていると、むしろその表情のほうが目立
っ
たようだ
っ
た。
***
「タバスコが一番デスネ!」
「あなたは馬鹿デスカ? はちみつこそが一番デス」
「甘
っ
たらしい票のなにがいいのデスカ!」
「辛い票のなにがいいデスカ」
あそこで言い争
っ
ている二匹こそ、なにを隠そうモググだ。モググは与えられた空間で、与えられたエサを食していた。それはまさしく、さきほど運ばれてきた紙切れ、いや票だ。監視カメラに映る彼らは、とりあえず順調に票数を減らしているようである。
「うー
むむ! 怒
っ
たデスヨ」
「なにを! こちらも怒るデス」
「わたしは辛党を設立する!」
「むむむ! ならば甘党を作りマシ
ョ
ウ!」
いや、急に彼らが暴れだした。監視カメラを眺めていた男は、飛び上が
っ
て制止しようとなだめるが、モググは怒り心頭で聞く耳を持たなか
っ
た。そもそもモググに耳はなか
っ
た。
*
騒ぎ声が聞こえる。列の前のほうからだ。おれは背伸びをして向こうを確認しようとした。その次の瞬間には、背伸びをする必要がなか
っ
たということに気付いた。クチバシを持
っ
ていて、長いツメを持
っ
ていて、まるでモグラかなにかが巨大化したような生き物が二匹、拡声器を手にしている。
「人間の投票は終わりデス!」
「ミナサマ! 甘党に清き一票を!」
「いや! 辛党に
――
」
なんなんだこれは。
おれは住民認証カー
ドを取り落とした。それはいつの間にか、あのバケモノの手に移
っ
ていた。それにやつらは、奪い合うようにタバスコとはちみつをかけている。
食えればなんでもいいらしい。
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