第8回 てきすとぽい杯〈夏の24時間耐久〉
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私は出目金
投稿時刻 : 2013.08.18 09:47
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私は出目金
なんじや・それ太郎


 自転車に乗て学校から帰ていると、目の前に黒いバンが停まて、中から数人の男が現れた。
「何かやばそうな状況だわ」と意外に冷静だた私だが、打つ手はない。
 男の一人が自転車を蹴飛ばし、倒れた私は引きずられるようにバンの中に閉じ込められた。
「これから私どうなるの?」
「俺たちの慰みものになるのさ」
「命だけは助けて欲しいんだけど」
「助けてやるさ、命だけはな」

 男たちは約束を守た。私は脳を黒の出目金に移植されたが、確かに命だけは助かた。私は金魚鉢に入れられ、絶えず男たちに観賞された。慰みものとは、こういうことだたのか。何しろこちは一糸まとわぬ姿である。恥ずかしいたら、ありしない。

 私は退屈な毎日に数週間ひたすら耐えた。
 その日の午後、大きな地震が起こり、私は金魚鉢ごと床に投げ出された。
「早く戻してよ」との叫びもむなしく、私は床の上でぴちぴち跳ねるだけだ。「うう、このままでは遠からず干からびてしまう」
 死を覚悟した私だたが、その時轟音と共に再び建物が揺れ、気がつくと部屋には水が満ちていた。ケリラ豪雨か、はたまた津波か……。きと津波だ。私は泳いで部屋から脱出した。

 みなさんも一度出目金になてみるとわかてもらえると思うのだが、出目金のしぽはそれ自体が抵抗になているので、大した推進力を生みはしない。気持ちは先走ても、なかなか前に進まないのだ。
 しかし、この突き出した大きな目のおかげで、私は広い視界を持つことができ、水の中のありとあらゆる障害物を察知するのに好都合だた。機動性のなさを補て余りある能力だた。

 無我夢中で泳いでいると、やがて広い海に出た。
「目はこのままでいいんだけど、もと泳ぎやすい尾ビレが欲しいな」
 そう思た途端、私はさきよりもすいすい泳げるようになていた。よく見える目で後ろを確認すると、私の尾ビレは先祖のフナみたいに変わていた。
「どうせなら、上半身は元の女子高生がいいな」
 するとどうだろう、いつしか私には両腕が生えており、おぱいだてあた。念のため下半身に手を伸ばしてみると、へそから下は魚のままだた。どうやら、一度変形した部分はそのままのようだ。
 
 私は人間に捕まり、水族館の中で人魚として生きることになた。「いいおぱいだ」と褒めてくれるのは有難いのだが、「目はこのままでいい」と思たせいで、人間の顔でありながら目だけは出目金なのであた。
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