第8回 てきすとぽい杯〈夏の24時間耐久〉
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おいらは出目金
投稿時刻 : 2013.08.18 10:53
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おいらは出目金
なんじや・それ太郎


 おいらはもうすぐ死ぬ。金魚すくいで捕まて以来、この家に厄介になていたが、環境の違いで体調を崩してしまい、メシもろくに食えなかた。そればかりではない。弱たおいらをこの家のガキが水からすくい上げ、新聞紙の上にのせたものだから、もう死ぬのは時間の問題だ。ガキは葬式の準備でもしているのだろう。公園から拾て来た小石を、おいらの前に並べている。このガキは生まれ時に色々あたようで、そのせいか学校での勉強も遅れがちだ。おまけに何の変哲もない石を集めるのが趣味だ。変わたやつである。こんなガキにポイで簡単に捕またおいらの、何と不運なことか。賢い子に飼われたら、もうちい長生きできたかもしれないのに。
 お迎えが来た。天使て野郎がニヤニヤしながら、おいらに向かて来る。
「今回も無駄死だな。おい、今度は何に輪廻転生したい?」
「金魚以外なら、何でも。ああ、そうだ。人間になて、このガキに復讐するてえのもいいな」
「なんで?」
「見りわかるだろ、死に瀕したおいらを、おちくるにもほどがある」
「は? お前も学のないやつだな。こいつはお前の回復を神に祈ているんだ」
「でもどうせ死ぬんだろ? なあ、今度は人間に生まれ変わらせてくれ」
「お前にはまだ色々なものが足りないからな。人間は無理だ」
 ガキは石をおいらの体の周りに並べ始めた。おいらの体を取り囲もうとしている。一体、何の儀式やら。おいらはもう死にそうだぞ。空気の中だと過呼吸で苦しいじないか。
 あれ? ガキが泣いている……
「おい、天使。この石は何だ?」
「石には不思議な力があると、古代ユダヤ人は思ていた」
「でも、ここは日本」
「メカの巡礼だて、あれは石の周りを回ているんだぜ」
「でも、ここは日本」
「この子も石に不思議な力を感じているんだ。石の力でお前を癒そうとしている」
「さすが馬鹿の考えることは違う」
「お前、ユダヤ教徒やイスラム教徒に殺されろ。パワーストーンとか、知らないのか」
「ふん」
 その時、おいらの体に温かい水が落ちて来た。ガキの涙だ。こいつ本気で泣いている。
「おい、もう一度金魚に生まれ変わるのは可能か」
「できるよ」
「じあ、丈夫な体で、もう一度こいつの前に現れたい。おい、どこへ行く? 聞いてんのか!」
「お前、死なないことになたから。この子の祈りが通じたようだ。もう、俺の出る幕じない。じあな」
 もうしばらく金魚かよ。まあ、いいけどさ。
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