てきすとぽい
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第9回 てきすとぽい杯
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かだんのはな
(
めぐる
)
投稿時刻 : 2013.09.21 23:37
字数 : 1279
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かだんのはな
めぐる
歌人・梅田敦の新人賞受賞記念パー
テ
ィ
が明日に迫
っ
ている。
その梅田敦というのが私の筆名なのだが、今にな
っ
てなぜ男性の名前で短歌を始めてしま
っ
たのだろうと後悔している。
苗字だけ変えればよか
っ
た。それだけでも十分気は晴れたかもしれない。なにも性別まで変えなくても。
大学のサー
クルで短歌をや
っ
ていた時に「あなたはやけに雄々しい歌を詠むのね」と言われたのが事の始まりだ。
溜息をついてうなだれても筆名は変わらないし、パー
テ
ィ
は中止にはできない。
気晴らしにと縁側の戸を開けるとずいぶん涼しくな
っ
た夏の終わりの風がゆるやかに吹く。
この空気を汚してはいけない気がして、くわえかけた煙草を箱に戻し灰皿を遠ざけた。
草むらにひそむ虫の声を聞くとセミのうるささが恋しくなる。ひぐらしが鳴くような田舎ではないので今年はもうセミの鳴き声は聞けなさそうだ。
もしかして竹中先生に言われたことは始まりではないのだろうか。そんな風に言われるような歌を作
っ
ていた時点で、私の反抗は始ま
っ
ていたのだ。
この縁側で気難しい父が更に気難しい雰囲気をまと
っ
て、よく短歌の推敲をしていた。
父・松本久司は草稿から随分流れを変えるのが好きで、よく編集者と言い合いをしていた気がする。
私はなるべく血を隠すように生きようと思
っ
た。人と人が意見を交わすのは素晴らしい事だと思
っ
たけれど、父のそれはまるでドリルで相手を貫かんとするようなお堅い人であ
っ
たから。
しなやかに人と混ざり合うならば女性の感性そのままに歌えば楽だ
っ
たかもしれないが、イマドキの後ろから蹴
っ
たら倒れそうな男性に異を唱えたか
っ
たのもあ
っ
た。そうして父の歌とはまた違う男性像で梅田敦は歌壇を渡
っ
ている。
「まだ寝ないのか」
歳を取
っ
て早寝早起きにな
っ
てしまいあのドリルの勢いも衰えてしま
っ
た父が、あくびをしながら台所から声をかけてきた。
今でも歌人として仕事を続けてはいるが、昔のような縁側の使い方はしていない。
明日のパー
テ
ィ
には誰かからの招待で参加するという。母親似の顔であるから、親子であるというのは気付かれないだろう。
「スー
ツを出しておくわ」
立ち上が
っ
て煙草をポケ
ッ
トにしまい、振り返
っ
て父を見た。
そろそろ背が縮み始めると思
っ
て何年経つだろうか。長身というほどではないが、スタイルを維持しているせいか同年代の男性よりも大きく見える。
「ドレスは買わなか
っ
たのか」
「オカマと思われても嫌だし」
それ以上は何も言わず(おやすみすら言わずに)寝室に入
っ
てい
っ
た。
好きでないのなら同じ歌人にならなければよか
っ
たのに、私は新人賞を頂くまでの筆名を持
っ
てしま
っ
た。
父を苦手にしながらも、どこか追い求めているのだろうかという考えは何度もしたことがある。
梅田敦はこれからどうなるのだろう。パー
テ
ィ
で編集者なり審査員の先生方なり、手がかりを与えてくれるといいのだが。
「数学と違
っ
て答えは一つではない」よく聞く言葉を最初に聞いたのは父からだ
っ
た。
今日はこれ以上考えていると明日に響きそうだ。梅田敦から松本七恵に戻
っ
て眠るとしよう。
新品の自前のスー
ツと並ばせる父のスー
ツは少し小さい
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