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食欲の秋!くいしんぼう小説大賞
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ある寒い日
 投稿時刻 : 2013.10.28 01:28 最終更新 : 2013.10.28 20:42
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- 2013.10.28 01:28:53
ある寒い日
たこ(酢漬け)


 穴熊は窓の外を見ていた。木々の葉ぱは落ち、時折木枯らしに吹かれて赤い葉ぱが舞い踊ている。暖房の効いた部屋の中で眺めている冬の景色は、どこか郷愁を誘うものであたが外に出たいとは思わなかた。
 穴熊のずと前方の方では教授が延々と講義を続けていたが、穴熊はほとんど聞いていなかた。
 隣では友人の祐子が真面目に講義をノートに取ていて、穴熊は後でコピーを取らせてもらおうと目論んでいた。祐子はそんな虎視眈々とした視線にも気づかず、一生懸命にノートをとていた。
 大学の授業も高校とあまり変わらないな。やぱりノートをとているだけで、なんかこう、もとこう、そんなことを考えながら、穴熊はいつしか机に伏して眠り込んでしまた。
 目を覚ました時にはもうすでに授業は終わていた。涎を垂らしそうになりながら夢うつつの世界をさまよていた時間は快適であたが、目を覚ましてみると少し頭痛がした。
 祐子はというと、教壇の前へ行て教授と何か話し込んでいる。どこまで真面目なんだあの子は。
 祐子は机まで戻てくるとてきぱきとノートをしまい、鞄を肩に下げて「さ、行くよ」という表情をした。
 一方の穴熊はまだ筆記用具を机の上にほぽり出していて、何も動ける態勢ではなかた。
「ちと、行くよ」
「えと待て」
 ばしばしと筆記用具と、とりあえず出していたノート、それから参考書を鞄の中に突込み、穴熊は急いで用意をした。
 あ、こう考えると、少しは授業を受けるつもりでいたんだな私。と穴熊は思いながら、教室を出ていく祐子の後に続いた。
 外の空気に触れるとやはり穴熊は身が引き締まるような気がした。厚手のマフラーを首の周りにぐるぐる巻きにして、肩をすくめながら歩いた。
「ち、そんな歩き方してたらおさんみたいだぞ」
「いいんだよ
 冷たい風に吹かれていると、どうも体を縮こませて歩いたほうが快適の様だ。顔の半分までを隠して、ぐるぐるにまかれたマフラーはどう考えてもおしれではなかたかもしれないが、この寒さをずいぶん和らげてくれた。
「あ、そか」
 と、突然祐子が言た。
「莉奈にはもうあの人がいるからそんなこと気にしなくていいんだよね
 ふと、穴熊の体が一瞬硬直した。
「いや、全然。興味本位で申し込んだバイトだし、あの探偵さんは全然」
「えそうなの?さきだてなんか携帯気にしてたじん」
 さきから穴熊は棟居の携帯に電話をしていたが全くつながらなかた。メールも帰て来ない。講義が始まる前に事務所によても見たのだが、ドアに鍵がかかていた。
 あの男、逃げたのか?一人で難事件請け負といて、解決できなくて雲隠れしたんじないか?そんなことが穴熊の心には引かかていた。
「それは、事件のことが気になるし、あの探偵が逃げちダメだて思てるから・・」
「へ。授業は真面目に受けないのに、そちのほうは真面目なんだ」
 なんだか嫌味にも聞こえた。あーくそ。事件の詳細を聞くがてらうまいラーメン屋にでも連れてやろうと思たのに、どうしてこんな肝心な時に電話つながらないかな
「でも、仕事の邪魔はしないようにしなき
「うるさい。う寒い。ラーメンでも食いに行くぞ祐子」
「き男前。そういうとこ意外と好きだわ
 なぜか祐子は嬉しそうにした。こちとらもうおさんだこら。ヤケ酒してやら。と穴熊の内心は何故か荒れていた。

 街角のラーメン屋に入ると、二人はカウンター席に座た。穴熊は漆喰のような色に磨かれたテーブルに伏せて、何事か呪詛のような言葉をつぶやいていた。隣にいる祐子は手袋とマフラーを外し、丁寧に畳んでいた。
「莉奈もマフラー外した方がいいんじない?」
 テーブルに伏せたまま微動だにしない穴熊に祐子が話しかけた。
「うん?」
 寝ていたかのようにむくりと起き上がる穴熊は「こんなはずじなかたのに」とつぶやいて、もそりとマフラーを外し始めた。
それを聞いていた祐子が「隣にいるのがあたしですみませんね」とつぶやいた。
 メニを開くとたくさんのラーメンが並んでいた。店長おすすめの魚介だし醤油ラーメンから、ピリ辛味噌ラーメン、これまた海の幸さぱり塩ラーメン等々・・・。
 特に相談もすることなく、直感でラーメンを決めて店員を呼んだ。頼んだのは穴熊は醤油ラーメン、祐子は辛くない方の味噌ラーメンだた。
 おしぼりで手を拭いていると、二人は再び、例の男の話に戻た。
「あの人今頃どこほつき歩いてるんだろうね
「どこかの路地裏で野たれ死んでいるんじないかと」
「え、まさか。それはひどいよ
「いや、ほんとの話はね、この前依頼を受けた事件が結構郊外の方で起きたもので、そこまで行て現場検証らしいよ」
「へ、じんと仕事はしてるんだ」
「ほんとなら、今日は二人とも休みで二人でどこかに遊びに行くはずだたのに」
「え
「え?」
「それは、もう付き合てるんじ
 祐子が引き気味につぶやいた。
「付き合てないよ?」
「付き合てないの?」
「ないよ」
「それは、一体・・・」
「福利厚生の一環だよ」
「福利厚生・・・」
 祐子が驚いて言葉をなくしたところでラーメンがテーブルに届いた。オレンジの照明に照らされて、麺とスープが光り輝いている。湯気にスープの匂いが混じり、食欲をそそた。
 ズズズ・・・
 二人でラーメンをすすりだした。歯ごたえのあるウブのかかた太麺にスープがしかりからんで、口の中で麺とスープがしかり混ざり合い絶妙な味わいだた。スープの方は、魚臭さがしかり消えていて、魚介だしのうまみだけをしかりと引き出せていて、後味も良好だた。
 祐子も無心でラーメンを食べているように見えた。祐子がロングヘアを耳に掻き上げてラーメンを食べる仕草はどことなくセクシーで同じ女性の穴熊でもなぜかごくりと喉がなた。
 麺をすべて食べつくして、穴熊はふと店内を見回した。どことなく、棟居に似ているような人を見かけたような気がしたが、よく見るとその人は別人であた。
「それでさ
 祐子もラーメンを食べ終えたようだた。白い紙ナプキンで口元を拭いている。
「そんなもたいぶた理由なんかつけずに告白しちたら?」
 すこしは驚くか、と祐子は踏んでいたが、その答えは予想していた、といたような穴熊の態度だた。
「いや、相手が相手だからね
「うん。でもいつまでももやもやしない?」
「もやもやなんてしてないよ」
「棟居さんはね、それなりにちんとした理由がないと動いてくれないのよ」
「それなりの理由ね
「それに事務所のお金使えるから」
「え、それは・・」
 再び祐子は引き気味な表情をした。それにしても、穴熊はいつまで棟居の事務所で働くのだろう。大学生のうちはまだいいかもしれないが、穴熊は将来のことは考えているのだろうか。祐子は少し不安な気持ちになた。二人とも食べ終わたので、会計を済まして店を出た。
 ラーメン屋を出ると一陣の風が吹きすさいだが、ラーメンを食べた直後の体は暖かく、穴熊も祐子もそれほど寒さを感じなかた。
 既に日は落ちてしまて、街灯の明かりがつき始めていた。
「ああ。今回の一件だて連れて行てくれればよかたのにな」
「棟居さんはなんだて?」
「君は大学で勉強しなさい、だてさ」
「勉強しないのにね」
「うむ」
 ラーメンを食べてお腹がいぱいになたことで、穴熊の機嫌は少し回復したようだた。それに、こんな穴熊の言動ではほとんど好きと言ているようなものである。普段は頭の良い一面を見せる癖に、こういうところは子供みたいなんだから、と思いながら、祐子は歩き出す穴熊の後について行た。
「あやつ、携帯の電源まで切りおた」
「え?なんて?」
 後ろをついて歩く祐子には穴熊の声はうまく聞こえなかた。寒さ深まる夜の街。女子大生二人は平凡な日常を過ごしていた。

%%%

 山道を走る車の中で棟居はくしみをした。
「誰かが噂でもしているんじないか?」
 助手席に座ている坊主頭で髭を生やした男が言た。
「そんなの考え出したらきりがないよ」
「さすがの探偵さんだね
 男は苦笑した。
「今日はあの女の子は来ていないのか?」
「あ。あんな現場は見せられないよ」
「でも最近の子はグロいのにも慣れてるて聞くぜ?」
「それでも、だ」
「ふん。ささと帰てあげなよ」
「それはそれで、また煩いんだよな
 棟居はもう一度くしみをして山道の中をふらふら運転していた。
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