第10回 てきすとぽい杯〈平日開催〉
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趣味は意外な形で身を助ける
るぞ
投稿時刻 : 2013.10.18 23:45 最終更新 : 2013.10.19 00:17
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趣味は意外な形で身を助ける
るぞ


「突然で本当にすみません」
「いえいえ。アキラからよく貴方のお話は聞いてましたよ。どうぞ、くつろいでください。ここはアキラの部屋でもあるんですから」
「失礼します」
 ふわふわとした茶髪を翻して、女は僕をリビングに通すと、温かい緑茶とガラスの器に盛られた、ヨーグルトとバナナとジムの盛り合わせを持てきてくれた。
「ヨーグルトどうぞ。趣味の手作りなんで、出来があまりよろしくないかもしれませんが」
「そうなんですか。あ、いえ、えと、いただきます」
「えー……
「サトシです」
「そうでしたそうでした。時々話しに聞いていますよ。アキラの弟さんなんですよね」
「貴方は、その……別に兄さんの恋人ではないんですよね」
「え。ただのハウスシアなんですけど、よく同棲と間違われますね。まいい年頃の……て親はよく言いますけど、どうなんでしうね。自分では賞味期限切れだと思ていますけど。とにかく、ま親が言うところのいい年頃の男と女が一つ屋根の下に暮らしていたら、そう思われやすいのでしうね」
 年上には違いないだろうが、僕の目からでも十分若く見える女は、苦笑いしていた。
 そんなことはありませんよ、と普段なら世間話に興じるところだが、今はそれどころではなく、僕は彼女に本題を切り出した。
「実は……その、貴方にお願いしたいことがありまして」
「なんでしう?」
「その前に確認したいのですが、貴方がここ数日で、家を空けたのは、3日前から一昨日までの一泊二日の旅行中の間だけだた。それは間違いありませんよね」
……。旅行から帰て以降、私が記憶する限り、家を出ていないのは確かですね。ひとしたらコンビニくらいには行たかもしれませんが」
「ですが、たとえば部屋がこんなに散らかて片付けられるまでの間、またく気づかないほど、長い期間を家をあけてはいるはずはない。間違いありませんね」
 僕は取て置きの写真を、女の目の前に差し出した。
 僕が今通されているこの部屋で撮た写真だ。僕と兄さんが、酒瓶を散らかして飲みながら、自分取りしたものだた。
「そうですね、私が記憶する限りでは。アキラから聞いたんですか?」
「はい。それと写真に写ている、部屋の隅のこのくまのぬいぐるみは、あなたが旅行に行かれる前日に、兄さんが買て来たものだと聞いています」
「それも間違いありませんね」
「ということは、この写真は間違いなく、貴方が旅行中に撮られたものだ。貴方はそう証言できますよね」
「どういうことですか?」
「実は、一昨日の朝、北海道にある、俺の家の近くで、恋人が殺されたんです。まだニ
スにはなていないけれど。大喧嘩した後で、警察はきと俺を疑うはずです。でも俺、一昨日の朝に北海道になんていないですよ。そりそうです。兄さんとここで酒飲んでたんです。潰れるまで」
 思い当たる節があるのか、女はまたもや苦笑した。
「ま、アキラは人を酒で潰すのが上手いですからね。本人に悪気はないみたいですが、あれで何人もの女の子をホテルに連れ込んだ、狩人だて豪語してましたよ。私には流石に手を出しませんでしたけどね。変にもめて、ハウスシアできなくなたら困るからなんでしうが。それにしてもアキラは、私がいない間に貴方を呼んでいたわけですね」
「そうです。俺の家の近くは田舎で、交通機関もほとんどなくて、下手な外国よりもたどり着くのに時間がかかるんです。とてもじないですけど、貴方の旅行中に東京にいて、一昨日の朝にあのあたりに帰るのは無理なんです」
「つまり貴方は私に……
「証言して欲しいんです。アリバイを。兄さんにはもう相談しています。でも兄さんは身内だから、裁判では身内のアリバイ証言は参考にされませんから」
……でもこの写真、最近なら色々パソコンで加工も出来るといいますし、右下の日付は確かに3日前のものですけど、本当に正しいものなのかどうか……
「フルムがあります。デジタルじなくて銀縁で取たんです」
「いまどき珍しいですね」
「まさかカメラ小僧の趣味が、こんなところで役に立つ日が来るとは思いませんでしたけど」
「趣味は意外な形で身を助けるものですね」
「またくです。それであの……お願いできますか?」
「そうですね……。ところで、今アキラはどこに?」
「警察に呼ばれてて……俺のことで。でも今日中には戻るはずです」
「今夜私を飲みに連れて行てくれると約束していましたからね」
「聞いてます。きと戻てくると思います。あの……それで、俺のアリバイを証言はしてくれるんでしうか?」
 女は妙に意味深な目で僕を見つめて、少し間を空けてから口を開いた。
「そのヨーグルト、私が寝る直前に準備したものなんです」
「は……? おいしかたですが」
「おいしかたですか。不思議ですよね。こんなに早く発酵するはずないんですよ。今の時期だと丸一日くらいかかるんです」
「!?」
「そういえば、アキラは昔不眠気味で、バルビツール系の睡眠剤を処方してもらていた時期があたといてましたね。あれ相当強烈な奴ですよね。まだ、あの引き出しの中に残てるんですよ……、あなたとグルで私をだまそうとしたアキラが、機能私の晩御飯に混ぜたんでしうね。私が昨日だと思ている日は、実は一昨日ですよね。まだ私は日付を確認してませんけれど、この写真、私が睡眠剤で丸一日寝ている間に、つまり昨日撮たんですよね? 二人で。殺人が起こたのは、一昨日ではなく3日前。ギリギリ来れるんじないですか? 昨日には。この家までに」
 僕はとさに彼女につかみかかろうと立ち上がた。
 が、どういうわけか足がもつれて倒れこんでしまた。
「もちろん、私がニスを見たり、バイト先へ出かけたりすれば、いずれは日数のずれが発覚するでし。それに対して何の対策も立ててない、てことはありえないわね。多分今晩飲みに行た時に、お酒を大量に勧めて、酔い潰して、翌日起きた時に、アキラが何食わぬ顔で言うのよね。『君は丸一日起きなかたんだよ。酔いつぶれて一日寝過ごしたんだ。もう二日目の朝だよ』て」
 倒れた僕を見下ろしながら、女は淡々としべり続けた。
「え、もちろんそのヨーグルトには私も入れましたよ。あの睡眠剤を。変に暴れられても困りますしね。またく、本当に『趣味は意外な形で身を助ける』ものですね」
 彼女が電話の受話器を取り上げる姿をかろうじて僕のまぶたは写していたが、そこで僕の意識は途切れたのだた。
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