第10回 てきすとぽい杯〈平日開催〉
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仮面パンダー -序-
茶屋
投稿時刻 : 2013.10.18 23:15 最終更新 : 2013.10.18 23:17
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- 2013/10/18 23:17:58
- 2013/10/18 23:17:03
- 2013/10/18 23:15:06
仮面パンダー -序-
茶屋


 脳が発酵したかのようだ。細菌共が脳みそを喰らい尽くして毒ガスを頭蓋の内部に充満させてくる。
 頭が痛くて、吐き気がする。どうしようもないほどに。
 耐え難い苦痛に叫び声をあげて、コンクリートの壁を殴る。
 拳の痛みのせいか、一瞬だけ痛みが和らいだような気がした。だが、すぐに引いたはずの波が押し寄せてきて、あと言う間に安穏の町を覆い尽くすのだ。
「くそが」
 胃の中身を吐き出すように発した言葉。
「くそがくそがくそがくそがくそが」
 がんがんがんがんがんがん。
 何度も壁を殴ると、拳の感覚は無くなてしまた。
 頭の痛みは増すばかりで、どんどんそれは耐えがたくなていく。
「罰だにん」
 頭のなかで声がする。
「罰なんだにん」
 声がするたびに頭蓋骨に響く。ガンガンと、ミシミシと。
「ぶ殺してやる」
 その声が頭のなかで響くものなのか、己の声なのか判別はつかなかたし、もはやどうでも良かた。
 彼の心のなかには痛みと殺意しか残ていなかたから。
「でも、僕なら助けてあげられるにん」
 彼の目の前に立ていたのは、奇妙な風体の男だた。男が何を言ているのか意味がわからなかた。
 意味がわからず、訳もわからず、ただ、頭に響くその声が不快だたから、殴た。
 何度も殴た。
 何度も。
 何度も。
 ぐしぐしに。
 血と肉と骨が混ざり合うぐらいに。
 拳と相手の顔面の境がわからなくなるぐらいに。
 ただただ殴り続け、殴り続け、殴り続けた。
 その間は痛みが和らぎ、苦痛を感じずにいられたから。殴るごとに痛みが引くような気がしたから。
 やと彼が我に返てみると、顔がぐしぐしに潰れた男の死体が転がていた。
 なんじこり。気持ちわり。
 彼は唾を吐いて立ち上がると、その場を後にした。手を洗いたかたから。
「どう?痛くなくなたでし?」
 近くの便所で手を洗ていると、少年の声がした。顔を上げると鏡の前に猫がいた。
 どうやら声の主は猫のようだ。
 彼が興味なさげにしていると再びミシミシというような頭痛の気配が忍び寄てきた。
「くそ」
「僕はそれを治せるわけじないんだにん。一時的に痛みをやわらげるだけにん」
「どうやたら和らぐ!」
「殺すにん」
「あ゛?」
「さきみたいに殺すにん。悪いやつをぶ殺すにん」
 彼は頭に手を当てて、必死に痛みを抑えようとする。
「君は正義の味方になるにん。そうすれば」

 彼女は逃げていた。
 涙と鼻水が交じり合た必死の形相で、呼吸を乱しながらここ数年出したことのないほどの全速力で。
 パンダの着ぐるみの頭の部分だけを被た奇妙な格好をした男はそんな彼女の必死さなど気にも掛けず悠々と追てくるのだ。
 パンダが歩くたびにバランスの悪い大頭は左右に揺れ、そのたびにガサゴソ、ガサゴソと音がする。赤いプラスチクフルムを首に巻いているのだ。まるでバイクに乗た某ヒーローの赤いマフラーを模するかのように。
 路地裏に逃げ込んだ彼女は、ついに突き当りに行き着いてしまた。袋小路。逃げ場はない。
 叫ぼうにも恐怖で声が出ない。
 カラン、コロン、カラカラ。
 金属音が路地裏に反響している。
 パンダが、鉄パイプを引きずりながら姿を表した。
 ゆくりと、女に近づいてくる。
「なあ」
 パンダが篭たような声を発した。
「お前、悪いやつなんだろ」
 女は反論しようにも声を出すことが出来ない。
「知てるよ。俺にはわかるんだ。誰が悪いやつか」
 月明かりの下、パンダは鉄パイプを振り上げた。

「なあ」

「知てるか?」

「悪い奴は正義の味方にぶ殺されるんだよ」

 ガンという一撃の音色に合わせるように、猫がにあと一声鳴いた。
「まだだ。まだ。頭が痛
 返り血を浴びたパンダが、猫に向かてつぶやく。
「悪い奴は、どこだ」
 今宵の狩りは、まだ続く。
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