第12回 てきすとぽい杯〈紅白小説合戦・紅〉
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眠る衝動
茶屋
投稿時刻 : 2013.12.14 22:55
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眠る衝動
茶屋


 鮮血が舞た。
 手に入れた当初は錆だらけで使い物にならなさそうな刀だたが、修復してみれば良い刀である。
 その刀に出会たのは家の蔵を整理していた折である。
 祖父が奇妙な死を遂げて、誰もいなくなた父の実家にその蔵はあた。葬儀をすませ、ようやくゆくりできる段になた時、庭を何となく歩いているとその蔵が目についた。その蔵は血で染めたような夕焼けで塗り上げられ、それと影が織りなす異様な色調でその存在感を際立たせていた。
 あの中には何が収められているかと父に問うてみると、父は小さく首を傾げ煙草の煙を吐き出すだけだた。
 疎遠だた祖父の印象はあまりないが、その眼光だけはなぜか思い出される。
 闇。
 闇の中で浮かぶ、二つの目。
 鋭く、鋭利で、触れただけで怪我をしてしまいそうな。
 そんな光景だけが目に浮かぶ。
 祖父は一体何者だたのか。よくわからない。
 ただ、あまり父も語りたがらないことから察するに普通の職業ではなかたのだろう。
 それは今この刀を持て痛感している。
 普通の刀ではない。美術品として取り扱われるようなたぐいのものではもちろんない。
 この刀は生きているのだ。
 そう思た。
 生きるために、血を求めている。
 そう思た。
 研ぎ澄まされたその刀身を目にした瞬間、そう確信したのだ。
 錆付いていた時の刀は半ば死んでいたのだと思う。けれども、微かには生きていたのだろう。生きて、血を求めたのだろう。
 それを気づいていたのか、気づいていなかたのか。
 少しは金にでもなるかと思い何となしに修復に出し、帰てきたその刀はもはや祖父の骨董品ではなくなていた。
 美しく、魅惑的で、それでいて清楚で卑猥。無邪気でありながらも計算づくで。時に冷たく、そして優しい。
 一瞬で刀の虜になたの言うまでもない。
 血だ。
 この刀のために、もと血を。
 おそらく、祖父もこの刀に血をくれてやていたのだろう。
 それが何となく分かる。
 刀にとてのむかしの男。
 恥ずかしい話だが、祖父にいささかの嫉妬のような感情を覚えたのも確かである。
 だが、何故祖父はこの刀を錆びるがままに任せていたのだろうか。これほど蠱惑的な刀を手放せるほどの精神力を持ていたのだろうか。
 分からない。
 少なくともあの目。
 あの祖父の眼光は刀を持たものの、血を求めるための目だたのではないか。
 祖父もあの鋭利な眼差しで、血を求め、刀のために獲物を斬たのではないか。
 そう思えてならないのである。今の私の目と同じように。
 血が舞う。
 炎とともに。
 鬼が叫んだ。
 どれも、同じ色だ。血と炎と鬼の色が交じり合い、境界が融け合う。
 父も祖父が何をしていたか、知ていたに違いない。
 祖父は刀を持て斬た。斬りに、斬た。
 殺人鬼?
 まさか。
 刀は人の血なんかじ満足しやしない。
 刀が求めているのは人ならざる者の血だ。鬼の血だ。
 炎が柱を伝い、天井へと広がていく。
 血を焼き、鬼を焼く。
 刀を手にした瞬間、この場所、祖父の家で手にした瞬間、すべきことがわかたんだ。
 斬るべきをものがわかるようになたんだ。
 祖父のあの眼光は、多分、それを見るための目だたんだ。
 だから、祖父は刀を封印したんだ。
 父を斬た瞬間、それがわかたような気がした。
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