てきすとぽい
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【BNSK】月末品評会 inてきすとぽい
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ホープ・ノーマル
(
犬子蓮木
)
投稿時刻 : 2014.03.30 05:57
字数 : 2359
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ホープ・ノーマル
犬子蓮木
「なんでこんな世の中なんだろうな」
僕と彼はテレビを見ていた。そのとき、彼が突然怒
っ
た風にそう言
っ
たのだ。
「なにが?」僕はよくわからなか
っ
たので彼に尋ねる。
「お前はなにも思わなか
っ
たのか?」
「なにかは思
っ
たと思うけれど、君のように怒りは覚えなか
っ
た」
テレビの中では最近、実用化されてきた魔法について特集していた。出生前診断の医療魔法。つまり、生まれつき魔法を持
っ
ているか、それとも魔法を使うことのできない人間か、その判断を行う魔法ができたということだ
っ
た。
現代、多くの人間は魔法を使うことができる。ただその能力には才能の問題もあ
っ
たし、千人に一人程度、魔法を使えない人間が生まれてくる。これは現代の医療では解決ができない問題であ
っ
た。魔法が使える人間が独力することで、力をある程度伸ばすことはできる。けれど、元からその能力が少しもない人間は伸ばしようがない。
これは大きな問題だ
っ
た。世の中は魔法を使える普通の人間に最適化されて作られている。学校の授業だ
っ
て、働く大人たちだ
っ
て、どこでも魔法は必要なのだ。
だからこそ、その大きな問題を早く認識するために、出生前診断が行われるということだ
っ
た。この診断が行われる段階では、既に中絶可能期間を超えているため、産まないという選択肢はない。ただ、今後に備えるための情報収集のひとつということだ。
その上で、僕らが見ていたテレビの中では、出生前診断の魔法の結果、魔法を『使える』人間であると診断を受けた妊婦さんが「よか
っ
た
……
」と泣き崩れていた。
「なんであんなに泣かなくち
ゃ
いけない? どうして魔法の有無でそんなにプレ
ッ
シ
ャ
ー
がかかる世の中なんだ? そんな社会がイヤになる」
「つまり君はやさしいんだ」
僕は言
っ
た。彼はめんくら
っ
たような顔を見せる。
「魔法を使えない人間だ
っ
て魔法を使える人間と同じように幸せになれるのならばプレ
ッ
シ
ャ
ー
を感じないはずだ
っ
て、魔法を使える者の上から目線」
僕のトゲのある言葉に彼が戸惑いの後、怒りを見せる。
「幸せとはなんだろうね」
僕は言う。
「たしかに現在、魔法を使える普通の人間とそうでない人間の平均収入には差が大きくある。魔法を使えない人間は、政府からの補助や、法律によ
っ
て規定された助けを得て就労していることが多い。現在の仕組みではそれは仕方のないことだよね。能力に差があるのだから」
彼が怒りつつもうなずいた。
「じ
ゃ
あ、お金を多くあげればいいのだろうか」僕は目を瞑る。「仕事が劣
っ
ていても魔法を使える人間と同じだけの給料をあげる? それともも
っ
と多くのお金をあげてみる? 考えてみて、もし君が魔法を使えない人間だ
っ
たら、それで幸せになれたのだろうか」
彼は否定も肯定もしない。
考えている。迷
っ
ている。
それだけ善良で、悪い人ではないということ。
現在の社会の仕組み上、生きていく上である程度の金銭が必要なことは確かである。また、金銭を使用することである程度の欲求を満たすことが可能であることも確かだ。だからある程度のお金が得られるようにすることは間違
っ
ていない。だけどそれは今の社会だ
っ
てできていて、では今の社会に問題があるのならば、より与えれば幸せなのかということになる。
答えはたぶん違うだろう。
あればあるだけうれしいことに違いはない。だけど、あのテレビの中の母親が流した涙は、た
っ
たそれだけのことを恐れて流したわけではないんじ
ゃ
ないかな、と僕は思う。
「お金ではなく差別の問題だ、という考えもある」僕は彼が言うだろうセリフをつぶやいた。「たしかに論外な酷い差別もあるだろう。それはなくすべきだと思う。だけど、違うということはなくすることができない」
その違いがわかるだろうか。
「お金の問題も解決したとしよう。酷い差別もなく、また周りの設備も同じように使えるように魔法が進歩したとしよう。そんな世界は一応ゆ
っ
くりとではあるけれど近づいてきている。だけど、そんな世界が来たとしても、もし僕が魔法を使えないなら嘆くだろう、と思う」
僕はただ正面を見すえて言
っ
た。
「なんで僕は魔法を使えないんだろう
っ
て」
それは甘えなのだろうか。普通の人と同じ、普通の暮らしができる社会ができたのなら、もう魔法が使えないなんて生きていく上で差のないことは我慢しなければいけないのだろうか。
「君は言
っ
たね」
僕は彼を見る。
「なんで魔法の有無で、そこでまプレ
ッ
シ
ャ
ー
を受けなければいけないのかと。そんな社会はイヤだと。社会にまだ問題が多く残
っ
ていることは否定しない。解決すればプレ
ッ
シ
ャ
ー
をいくらか減らすことはできるだろう。だけど、君はノー
マルだからわか
っ
ていないことがある。ノー
マルでないということはいつまで経
っ
ても、どんなに社会がよくな
っ
ても、心に傷が残るんだ」
僕はず
っ
と彼の目を見続けている。
「悩んだことはない?」
彼は不思議そうな顔をする。
「子供の頃、ほんの小さなことができなくて、なのに友達はできていて、なんでじぶんはできないのだろうか、と思
っ
たこと。僕はいくらでもある。それは他人や大人にな
っ
た僕からすれば馬鹿にするような小さくてどうでもいい悩みだと思うよ。でも悩んだんだ。傷ついたんだ」
なんだろう。や
っ
と僕自身がどう思
っ
たのかに気づけてきた。
「君の言葉が間違いかどうかや、僕の考えた今の言葉たちがあ
っ
ているかどうかは決められないけれど」
僕は彼に言うべき言葉を頭の中で並べて、組み上げて、それから空に放した。
「プレ
ッ
シ
ャ
ー
を与えるような社会がイヤだという、そんなやさしさに、僕はとても怒りを覚えた」
親はただ子供に幸せにな
っ
てほしいと祈
っ
ただけなのだから。
その愛情が誤りを導くことが多々あろうと。
「魔法がこの世になか
っ
たとしても、僕らはき
っ
と悩んでいただろうね」
僕は表情を崩して微笑んだ。 <了>
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