てきすとぽい
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第二回 てきすとぽい杯〈てきすとぽい始動一周年記念〉
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お客様の中に小説家様はいらっしゃいませんか
(
山田佳江
)
投稿時刻 : 2013.02.16 23:42
字数 : 1074
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お客様の中に小説家様はいらっしゃいませんか
山田佳江
「お客様の中に小説家様はいら
っ
し
ゃ
いませんか」
キ
ャ
ビンアテンダントの緊迫した声に、私は耳を疑う。
「お客様の中に小説家様はいら
っ
し
ゃ
いませんか、お客様の中に小説家様はいら
っ
し
ゃ
いませんか!」
飛行機は羽田空港を出発したばかりだ
っ
た。
「おい」
夫がひじで、私のことをつつく。
「なに?」
「小説家
っ
て」
夫と私のやりとりを目ざとく見つけたキ
ャ
ビンアテンダントが、私たちのそばに駆け寄
っ
てくる。
「お客様は小説家様でし
ょ
うか」
「小説家というほどのものでは」
「執筆歴はありますか?」
キ
ャ
ビンアテンダントは片膝をついて、通路側の席に座る私に話かける。
「十年くらい小説を書き続けてますよ。俺は読んだことないけど」
他人ごとのように言い放つ夫を睨みつける。それからキ
ャ
ビンアテンダントに向き直り、
「小説家志望です。なにが起こ
っ
たんですか」
と、覚悟を決めて尋ねた。
私は一人でコ
ッ
クピ
ッ
トに通された。
「これは?」
「オンラインで地上に繋が
っ
ているようなのです」
こじ開けられた計器の内側に、スマー
トフ
ォ
ンが接続されている。
「管制塔から連絡がありました。この航空機は一時間以内に爆破されます」
操縦席に座
っ
た機長が、冷静な声で私に告げる。
「これを見て下さい」
私はスマー
トフ
ォ
ンを覗きこむ。
『福岡空港到着までに、お題に沿
っ
た小説を書いて投稿。星五つの評価を得ることが、爆発の解除キー
となる。まもなくお題発表』
「福岡空港到着までに?」
「あと一時間二十分です」
機長は私に説明する。このスマー
トフ
ォ
ンはインター
ネ
ッ
トを経由し、どこぞの小説投稿サイトに繋が
っ
ているらしい。私がここに小説を書き、そのサイトを閲覧しただれかが評価を下す。星五つに満たなければ、計器に埋め込まれた爆弾が爆発する。
「これ、外せないんですか?」
「接続を解除すると爆発します」
スマー
トフ
ォ
ンの画面が自動更新する。
『お題
:
三題「振動」「初夢」「ポ
ッ
プコー
ン」これらの言葉を、タイトルまたは本文で使用してください』
「あ
っ
、これ適当に書いて、管制塔の人に星五つをつけて貰
っ
たらいいじ
ゃ
ないですか!」
名案だと思
っ
たのに、キ
ャ
ビンアテンダントとパイロ
ッ
トに厳しく睨まれる。
「ここにいる百人以上の命がかか
っ
ているんですよ!」
「お願いします!」
私がこれを書かなければ、この飛行機は爆発する。いまいちリアリテ
ィ
がないけど。
「あと一時間十五分」
実家に預けてきた子どもたちのことを思う。それから客席にいる夫のことを。
「振動、初夢、ポ
ッ
プコー
ン
……
」
私はスマー
トフ
ォ
ンの画面にタ
ッ
チする。それから小さく息を吐いて、『作品を投稿する』ボタンを押した。
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