第二回 てきすとぽい杯〈てきすとぽい始動一周年記念〉
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お客様の中にイケダハヤトはいらっしゃいませんか
投稿時刻 : 2013.02.16 23:21 最終更新 : 2013.02.16 23:29
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- 2013/02/16 23:29:03
- 2013/02/16 23:26:16
- 2013/02/16 23:21:58
お客様の中にイケダハヤトはいらっしゃいませんか
代々木犬助


「お客様の中にイケダハヤトはいらいませんか」

 フライトアテンダントがそうアナウンスしたとき、僕はそんな馬鹿なと座席からずり落ちそうになた。でもそれは比喩である。僕が本当に座席からずり落ちたのはそのあと。僕をのぞくみんなが挙手したからだた。お客様の中に、イケダハヤトが、いるかだて? ぱーん?

 機体の中央あたりにある大きなテレビモニターの前に座ていた男が立ち上がり、乗客のほうに向き直て言た。
「私がイケダハヤトです。ついさき聞きかじたばかりのことを、さも自分が思いついたかのように人に話します」
 窓側の席の男がそれに異をとなえた。
「いや私こそイケダハヤトです。個性的であろうとして、場の空気にあわせて奇抜なことを言い続けた結果、論旨に整合性がなくなりました」
 すると私のとなりの座席の男が、目をきろきろさせながら落ち着かない様子で言た。
「コミニケーンはコストです。経済的に低コストな暮らしが注目を浴びる時代がきたように、低コストな人づきあいが賞賛される時代もまもなくやてくるでしう。こうやて人前で話すことはできれば避けたいと思て生きてきましたが、お困りの方がいるようなので挙手させていただきました。私がイケダハヤトです」

 乗客たちは次々とイケダハヤトを名乗た。あいつも、こいつも。この飛行機で一体何が起こているのか僕には全然わからなかたが、ひとしきり自己紹介が終わたあとに、機内放送で機長からの説明があた。

「乗客のみなさま、ご協力ありがとうございました。みなさまのイケダハヤトのおかげで、いま、ひとりの乗客の命が救われました。その乗客はさきほど、自分が希代の大物だと勘違いしその傲慢さに無自覚であるひとりの男のことがどうにも我慢できなくなり、発作を起こされました。しかし、みなさまの中にいらるイケダハヤトのおかげで、現在は安静を取り戻しました。みなさまのご協力に、心よりお礼申し上げます」

 僕は、乗客達の胸くそ悪い告白を聞きながら、自分はそんなに愚かではないさと半ば無視を決め込んでいたのだが、その愚かさにいまやと気付いて挙手をした。
 飲みものやブランケトを求めているのかと思て音もなく僕の座席のところまでご用聞きにやてきたフライトアテンダントに僕はいた。

「僕が、本当の、イケダハヤトです」

(おわり)
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