第二回 てきすとぽい杯〈てきすとぽい始動一周年記念〉
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お客様の中に藪医者はいらっしゃいませんか
投稿時刻 : 2013.02.16 23:28 最終更新 : 2013.02.16 23:31
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- 2013/02/16 23:30:50
- 2013/02/16 23:29:47
- 2013/02/16 23:28:02
お客様の中に藪医者はいらっしゃいませんか
ヘリベマルヲ


「お客様の中に悪霊はいらいませんか」
 おれは医者の顔をまじまじと見つめた。
 医者はたぷり一分間はおれの顔を見かえしたのち、カルテに何か書きこんだ。
「いま、なんと……
「お客様の中に悪霊はいらいませんか」
「悪霊?」
 医者は何やらいいたげに目を細めた。それからまた何かカルテに書いた。
「さきもいいましたよね。悪霊がどうとか」
「既視感ですね。よくありますか?」
「あんたがいたんでしう。悪霊がどうとか。二度も」
 医者はしたり顔でうなずいた。「幻聴ですね」カルテに記入した。
「ち……」おれは思わず声を荒げた。「おれはただ、眠れる薬をもらいにきただけですよ」
「何に使うんです?」
「何……説明したじないですか。眠れないんですよ。ほかにどんな用途があるていうんです」
「不眠ね」医者は不満げだた。「いつから?」
「二週間くらいずとですよ。不眠症なんだ。ささと薬をよこせよ」
「診断するのはわたしです。患者のいうままに処方するわけにはいかない」
「ははん」今度はおれが目を細める番だた。「わかたぞ。先生、おれを統合失調症にしたいんでしう」
「わたしはあなたの話を聞いているだけです」
 おれは短く笑た。「聞いてやしないじないか。一方的に診断を押しつけるだけだ。——あ、いま被害妄想だと思ただろう」
 医者はカルテに書きながらたずねた。「どうしてそう思われるんです?」ばかにした態度だ。
「おれは心が読めるんですよ。高い薬を売りつけようて魂胆だな。不眠症じ金にならないから。ちくしう、ひとを気ちがい扱いしやがて」
「お薬を出しておきます。次の方」
 処方箋をもらい、勘定をすませて病院を出た。調剤薬局まで歩きながらおれは声にだして独りごちた。「あの藪医者め。おぼえてろ」
 ベテルギウス人がテレパシーで通信してきた。「そうだ。殺せ。やつは世界の波動を乱す」
「そうとも。殺してやる」おれはCIAに盗聴されないよう小声でつぶやき、街中でおれを狙う監視カメラを避けながら、尾行をまくために走りだした。
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