Lunatic
どうせオリオン座ぐらいしか碌に識別できないくせに。
そう心の中で毒づきながら、「天体観測企画してよー
」とか宣うクラスメートをやんわりとぶったぎる。
こちとら廃部寸前のぼっち天文部員でね、あんたらみたいなリア充の接待なんてしたかねーんだよ。
お前らは地上で繋がってりゃー満足だろうが。
偉そうな顔をしたものの、あたしだって正直そんなに星座を識別できるわけではないけどさ。
なら望遠鏡で何を見てるのかって?
……そりゃあ、お月様に決まっている。
”ルナティック”って言葉、最強に格好いいって思うんだ。
満月の夜に暴れ躍り狂いたい。
紅の月に処女の血をたらふく捧げたい。あたしじゃなく誰かの。
そんでもって、「月があまりに輝いたから」なんて嘯くところまでがあたしの夢。
他人様の光で煌々と輝いていながら、周りの小さな星達をミュートさせる。
随分じゃないか。素晴らしいふてぶてしさだ。
だからあたしは月が好き。
地球に共依存気味の彼女が大好きだ。
黄道十二宮を追うぐらいなら、28の満ち欠けを追うほうがよっぽど楽しい。
昔のアホが繋げた線を、今のあたしは認知しない。
「月が綺麗ですね」だなんて、気障な言葉を使いたいならそれ相応の敬意を払えよ。
オリオンの砂時計をなぞる代わりに月の窪みを愛撫しろ。
変わらぬ北極星を辿るなら、日々変わる月の表情に心を揺らせ。
それから、
それから?
それからだ。
睦み合いたければどうぞご勝手に。