無音。
今日もタイムラインが流れていく。
ブラウザの別のタブではラジオDJがシンセサイザで遊び、それをまた別の多くのラインが聴きながら作曲風景に魅入り、時には囃し立てて盛り上げていた。
アドレスバー
の隣には書き掛けのブログが3つ。
他愛もない、リアルかフィクションかも判然とせず雑記だか日常だかも分からない日記の様なものを綴りながら曲が組み上がっていくのに耳を傾け、時折新しいメッセージを確認しては煙草に手を伸ばす。
翻訳端末だろうか、吹き込んだ声をリアルタイムでシンセと併せながら流れていた前衛的な音楽の欠片は次の予告に引き継がれ、唐突に放送を終えて部屋の中で扇風機の静かな羽の唸りと首振りの軋みだけがそれを受け継ぎ、窓の外のビルの遠い陰から微かにガソリン車のエキゾースト音が流れ込んでくる。
煙草を揉み消し、タブの一つを閉じ、再びタイムライン。
呟きはなく、ヤニで黄色くなった扇風機の送り続ける風が肌寒い。
ベッドから降り、ボタンの一つを足の小指で苦笑しながら押し下げ、スプリングが軽く爆ぜて無音になるとゆっくりと両腕を上げて伸びをする。ベッドに戻り、薄手の毛布を膝まで伸ばしてノートPCを立てた膝と腹部に橋渡すと、周囲は完全に無音になった。
いや、厳密に言えば自分の拾える音と認識できる音がないに過ぎず、もっと耳を澄ませば天井の蛍光管のなかで空気を振動させている何かや、エキゾーストというにはあまりにか細い無改造のエンジン音やそれがアスファルトを撫でる囁くような音、しばらく黙っていれば階下から誰かが食器をテーブルの上に置いたかの様な生活音も聞こえてはくる。
一番大きなのはノートのキーを叩く音だ。
そう思った矢先に何処かの軒先からガラスの風鈴が風にそよぎ、救急車のサイレンが流れてくる。
何を書こう。
何を書こう。
時間だけが過ぎ、キーの音は続き、僅かに増えたタイムラインの呟きを横目に無為な文字だけが増えていく。
もういいや。
これでおしまい。テキスト完成だから、てきすとを、ぽいっ、てね。
「バカじゃないの…?」
私は小さく呟きながら、投稿ボタンへカーソルを流した。