てきすとぽいトップページへ
スーパーショートなラノベコンテスト #スシラノコン
〔 作品1 〕» 2  6 
誰がために牛乳は搾られる
 投稿時刻 : 2014.07.13 04:54
 字数 : 4933
5
投票しない
誰がために牛乳は搾られる
たこ(酢漬け)


 いつもこうである。合たためしなど一度もない。いや、一度はあたのかもしれないが、私が覚えていないのか。それにしても毎日チクしているんだから・・・。
 それでも確率が低すぎるだろう・・・。一体どうなているんだ・・・。
 此草は首をかしげていた。此草の視線の先には牛乳瓶の入たカゴが置かれている。誰でも一度は目にしたことがあろう。給食のアレだ。
 子どもの頃はと言えば、この牛乳のカゴを一人で持てるかどうかで、一種の力自慢が行われていたかもしれない。ま、その自慢比べが災いして、およそ三十人分の牛乳を廊下にぶちまけるという悲劇が起きるかもしれないし、起きたかもしれないし、起きているかもしれない。
 まわりくどい。確かにまわりくどい。まわりくどいのであるがいやむしろまわりくどいがゆえに、それが重要なのかもしれない。
 そう。そうなのである。およそ。私はさきおよそと言た。このおよそというのが厄介なのである。
「お前、いつも牛乳カゴ運んでくるけど、ちんと見ているのか?」
「見ているて。お前、俺が廊下に牛乳ぶちまけたことなんて一度もないだろ」
「そちじない」
「じあどちなんだお?」
 先ほどから此草と話しているのは彼草である。今日も牛乳カゴを運んできたのは彼草だ。
此草と彼草の二人は一緒にいることが多い。おそらく苗字が似ているからかもしれないし、性格が似ているからかもしれないし、それは当の二人にも分からない。
 一時期彼草はいじめられていることがあた。その理由は彼の名前が「かれくさ」と読むことからきている。つまり「枯草」と書けるわけで、そのせいか、「あいつは枯れている」という噂がまことしやかに流れるようになり、
「あいつ枯れてんだぜ」「枯れてる?」「あー、かれくさだから?」「そうそう」「枯れてるてどこが?」「どこてお前・・」「あそこだよ、あそこが枯れてんだよ」「えー!あそこが枯れてんの!?」「おい、お前声でかい!」
 ・・・というような陰口が彼の周りで囁かれるようになた。
 此草はそのことに気づいていたが、彼草へのいじめを止められずにいた。彼草を「枯れ」と言て冷やかす人間の方が多数であり、此草の言い分は黙殺される傾向にあた。というより此草は何も言ていなかた。
 しかしそのいじめにも終わりが来る。いじめがエスカレートして、彼草が日直の日に、誰かが日直の欄に「枯草」と書いたのだ。
 教師もそれを発見してクラス会が開かれることになた。クラス会で枯草は自分の意見を聞かれ思わず怒りをあらわにすることになてしまた。「俺の事を枯れて言うなあああ」と叫んだ彼草は制服をぶち破り、今にも北斗神拳を放ちそうな袖口でクラスの面々を睨みつけた。
 結局みんな萎縮してしまい、誰もがだんまりであたから、犯人は分からずじまいだた。
 ちなみに彼草の制服から飛んで行たボタンが女子のおでこにぶつかり、後で謝りに行た彼草がその女子と付き合うことになたのは別の話である。
 閑話休題。
 問題は牛乳である。いや違う。問題は牛乳の本数である。
 短刀直入に言えば、いつも牛乳の本数が合わないのである。クラスの人数は31人。運ばれてくる牛乳は大体40本。牛乳の方が多い。
 数えてみると、35本が最も多かたように思える。いつも牛乳が4本余ていて、担任の机の上に置かれていた。ただ、運ばれてくる牛乳の本数にはばらつきがあて、時にはクラスの人数に足りないこともあた。その時は他のクラスから余た牛乳をもらてこなければならなかた。
「これ、不思議じないか?」
 此草は彼草に尋ねてみた。
「え、どこがだ?」
 彼草は特に気にしていない様子だた。そういうことが気にならない性質なのだろうか。
「いや、だていつも牛乳の本数が違うておかしくないか?運ばれてくる牛乳の数は決まているんじないの?」
「そう言えば、そうかもしれないな」
「クラスの人数を把握していないのかな」
 此草がそう言うと彼草も黙てしまた。
「なんだけ、給食センターてところがあるんだけ」
 しばらく考えた後、彼草がそう言た。そうか。そうであれば誰かが人為的に牛乳の数を操作している可能性もある。此草はそう考えた。
「そうだよ。給食センターから牛乳は運ばれてくるんだ。だから、誰かがかかわているはずなんだ」
 此草は思た通りに言葉にした。
「そうだな。でも、そうなると、誰かが適当に数えて牛乳をカゴに詰め込んでるてことか?」
「そうかもしれない。それに、機械の仕業ではないかもしれないな。だて、機械だたら決められた本数をインプトされて、後はその通りに牛乳を動かすだけだろ?」
「つまり、もしそうだたら本数にばらつきがあるのはおかしいてことになるのか?」
「そう言うことだと思う」
「「うーん」」
 そう言て再び二人は考え込んでしまた。
「よしじあ」
「なに?」
「見に行てみようぜ」
 彼草の提案に此草は驚いたが、少し考えてから同意することにした。

#黒齣#匚丅乎#

 学校が終わてから二人は給食センターに向かた。彼草は学校が終わるのを待ちきれなかた気持ちを発散するかのように駆け出した。
「待てくれよ」
 此草は先を走る彼草に声を掛けた。
「早く来ないと遅れるぞ」
 彼草は振り返てそう言たが、走る早さを緩めようとはしなかた。
 先を行く彼草に、此草は何とかついて行た。しばらく走たところで彼草はぴたりと立ち止また。此草は何とか彼に追い付いた。
 二人の前に立ちはだかているのは、何とも古めかしい工場であた。赤レンガの塀に鉄の門扉がつけられている。門の脇には青銅板が建てつけられていて、そこには「叴喰センタア」と、何やら古めかしい文字が刻まれていた。
 なぜか門の鍵は開いていた。彼草が鉄門を押すと、キと音を立てて門は開いた。
「おい、入れるぜ」
 彼草がそういうと此草はうなずいた。二人は門の中へと入て行た。
 センタの中は何故か人の気配が無く、静まり返ていた。傾きかけた夕日が煉瓦造りの工場を照らし、長い影を作ていた。どこかで烏がカと鳴いた。
「なんか人いないな」
「そうだね」
 不気味な気配のする中、二人は恐る恐る歩を進めて行た。
 ますぐ歩いていくと、二人の前に工場の入り口が見えてきた。鉄製の扉で、その扉は締め切られていた。扉の前に立てみると、ところどころ錆が出ているのが分かた。
「入れるかな」
「さ。押してみるぞ」
 そう言て彼草はドアを押してみた。ドアはびくともしなかた。
「あれ、おかしいな」
 そう言て彼草がドアを前後に揺さぶると、ドアが手前に開いた。
「悪い悪い。引くんだたわ」
 そう言て彼草は照れ隠しに笑ていた。開いたドアの向こうには、薄暗い通路が広がていた。二人は固唾を飲んで、建物の中へと入て行た。
 その様子を、二階の窓ガラスから、誰かが見つめていたことに二人は気づいていなかた。
 建物の中はひやりと冷たい空気が充満していた。天井から電球がぶら下がていたが、電機はついていなかた。そのせいで、建物の中は少し、薄暗かた。
 通路を進むとすぐに開けた場所に出た。そこには鉄製の釜やらパイプやらが張り巡らされており、そこかしこにバルブのハンドルのようなものが見えた。それらの機械は今は動いていないようで、息をひそめるように、その場に鎮座していた。
「これで給食作ているのかな」
「かもな。見なきよかたかも」
 彼草はそう言て、うという表情をした。此草も普段食べている給食がこんな機械で作られていると思うと、あまりいい気分がしなかた。
「しかし、この中広いな。どこまで広がているんだろう」
 確かに工場の中は奥行きが広くて、外から正面を見るよりは中はずと広そうに感じた。
「もう暗くなてきて奥が見えないや」
 先ほどから懸念していた此草の心配は当たりそうだた。徐々に窓から差し込む夕日の光は弱くなてきていた。
 ということはつまりこの建物は南北に長いということで、奥に何があるのか、その暗がりが此草の心を少し恐怖に震わせた。
 突然、ガチリとレバーを操作する音が聞こえた。それから、モーターの回転するような音が聞こえ、天井の電球が一部だけ点灯した。
「なんだこれ」
 先ほどまであたりをしげしげと眺めていた彼草も突然の事に驚いたようだた。
 その照明は二人を誘導するかのように、ドアに向かて列をなして点灯していた。何故か他の照明は点灯せずに、その部分だけが明かりを灯していた。
「あれ、なんだろうな」
「さ、わからない」
 此草と彼草の二人は困惑気味に天井の照明と、その光が導くドアの方を眺めていた。
「もしかして、誰かいるのか?」
「かもしれない」
「あそこに行けて言ているのかもな」
 そう言て彼草はドアの方を指差した。
 此草は内心これ以上この工場の中に居たいとは思わなかた。少し嫌な雰囲気を感じるようになたからだ。だが、あのドアの向こうを見たいという気持ちも少なからずあた。
「何迷てんだよ。行こうぜ」
 彼草は此草の考えていることなど気にしていないのか、さらに奥へと進もうとしている。
 此草は葛藤があたものの彼草についていくことにした。好奇心に勝てなかたのである。
 そうと決めると二人はドアの方へと近づいて行た。そのドアも入り口と同じ、鉄製の門であた。蝶番を見るとやはり手前側に開くようだ。
「よし、行くぞ」
 彼草はドアのノブに手をかけ、此草に目配せをした。
 彼草はドアノブを握り、思い切てドアを開けた。金属の擦れる音がきききと鳴た。
 ドアの向こう側は真暗闇であた。だが、どことなく煙の臭いが漂てくる。此草は思わず鼻をつまみそうになた。
 二人が呆然としていると、部屋の中から「もー」という鳴き声がした。
 それからすぐに部屋の照明が点いた。誰かが電源を入れたのかもしれない。
 明かりの点いた部屋の中を見て、此草と彼草は匂いの原因に気が付いた。そしてその光景に自分の目を疑うことになた。
 部屋の中ではたくさんの牛が機械によて宙吊りにされ、そして乳の部分には乳搾り用の機械がつけられていた。
 此草と彼草の二人は視界上方に拡がる宙吊りの牛の群れを見て呆然とした。よく見ると、牛の前方には餌を与えるためのレール、つまりは竹を半分に割たような形のレールが、後方には排泄物を受けるためのレールが、前後に備え付けられていた。
 部屋の壁には何本ものパイプが張り巡らされており、それは空中を渡り、再びまた壁に沿わされていた。
 現実のものとは思えないような光景に、此草と彼草の二人は言葉を失ていた。固まる二人の前で、宙吊りにされた牛が再び「もー」と鳴いた。
 その時、誰かの足音が聞こえた。その音を聞いて此草と彼草の二人は飛び上がた。こつんこつんという足音は、ゆくりであるが徐々に二人の方へと近づいてきた。
「やばい、逃げるぞ」
 彼草はそう言て走り出した。此草も遅れないように彼草について行た。
 幸いにも誰にも会わずに工場から出ることができた。時々内部を這う配管に体をぶつけそうになたが、全力で走ればそれほどの距離でもないように感じた。
 工場から門を出るまで、二人は全力疾走した。門を出るときに此草はふと後ろを振り返た。工場の扉の所に誰かが立ているような姿が視界に入てきた。此草は怖くなて走るスピードを上げた。
 二人とも全速力で家へと帰た。

#其の後#

 それからは普通の毎日が続くと思われた。だがほどなくして異変が起きた。教師の様子がどこかぎこちなくなり、何やら忙しそうに振る舞い出したのである。
 話を聞くと、どうやら転校生がやてくるようであた。急いで転校生の分の席を要した。転校生の机を運んでくるのには此草と彼草の二人が任せられた。
 次の日、その転校生がやてきた。転校生は無表情で、視線が動かなかた。此草はおかしいと思たが、他の人間は誰もそう思わないのか、何事もなく転校生の紹介が行われていた。彼草の方を見ると何やら様子のおかしさに気付いたのか、首を傾げている。
 全てを話し終わた後、転校生はその無表情な顔を此草の方に向けて「もー」と鳴いた。
← 前の作品へ
次の作品へ →
5 投票しない