てきすとぽい
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スーパーショートなラノベコンテスト #スシラノコン
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…
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〔 作品6 〕
ラボラトリー・フード
(
゚.+° ゚+.゚ *+:。.。 。.
)
投稿時刻 : 2014.08.03 23:43
最終更新 : 2014.08.03 23:59
字数 : 6999
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更新履歴
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2014/08/03 23:59:32
-
2014/08/03 23:43:06
ラボラトリー・フード
゚.+° ゚+.゚ *+:。.。 。.
人というのは、生まれ育
っ
た場所を離れた馴染みのない土地に滞在していると、幼い頃から慣れ親しんだ料理を故郷の味として恋しがるものなのだと思
っ
ていた。例えば典型的な日本人は、家庭や仕事の事情で海外にやむなく引
っ
越すと、白いご飯に味噌汁、肉じ
ゃ
がやだし巻き卵を無性に食べたくなるものだろう、と。
だが、どこにでもいるごく平凡な日本人男子中学生であ
っ
たはずの俺、塚原遥人は、ここが故郷であれば絶
っ
っ
対に自ら進んで口にはしないであろう料理を、今、熱烈に渇望していた。
「アアアアァアアアー! もう限界だ! 頼む! あれを、あれを食わせてくれ! 鶏挽き肉と香菜のタイ風ナンプラー
和えを食わせてくれえええええ!」
俺は無人の部屋で絶叫した。ベ
ッ
ドとサイドテー
ブル以外には何も物の置いていない十畳ほどの部屋は音がよく響く。自分自身の声のうるささに頭痛がした。
やがてその余韻も消え去り、部屋は恐ろしいほど静かになる。どこにカメラとマイクがあるのか俺の目には見えないが、この部屋の中の様子は監視されているはずで、俺の叫びは誰かに聞こえているはずなのに、今日も無視されるのだろうか。その瞬間、お腹が鳴
っ
た。腸の中で空気がうねるように流れ、振動しているのがわかる。野太い音はた
っ
ぷり五秒部屋に響きわた
っ
た。
「はら
……
へ
っ
た
……
」
小さく呟くと、惨めな気分になる。あまりの空腹感にもはや幼稚園児のように泣き出してしまいそうだ。唇を噛むと同時に、ウ
ィ
ー
ン、と言う電子音が響いて、俺は反射的に顔を上げた。
自動ドアが開いている。そこに立
っ
ていたのは、白衣を着た、小柄で痩せ形の美少女。輝かんばかりのつやつやのストレー
トロングな黒髪に、陶器のような白い肌はまるで人形のようだ。だがその切れ長の瞳には、明らかに生きた人間にしか宿せない力強い意志のようなものが湛えられている。それにじ
っ
と見つめられると、発狂しかけていた頭が一瞬で冴え渡
っ
た。
「
……
ハルト」
大人びたアルトボイスに名前を呼ばれて我に帰り、俺はこの少女ー
ー
シ
ェ
リー
がアルミ製の大きなボウルを抱えていることに気付いた。
「いい加減、君は本当のことを教えてくれてもいいんじ
ゃ
ないのか。昨日君は、このボウルの中身を「ひき肉と香菜のタイ風ピリ辛ナンプラー
和え」と呼んでいた。その前日は「鶏挽き肉と香菜のピリ辛和え」だ
っ
た。それが今日は「鶏挽き肉と香菜のタイ風ナンプラー
和え」だ。どうして日によ
っ
て呼称が違う? この食べ物の本当の名前は、何というのだ。どうして私たちに教えてくれない? 何も作り方を教えてくれと言
っ
ているわけじ
ゃ
ない、ただ、名前を知りたいだけなのに
……
」
抑揚のない声でそう淡々と紡ぐと、シ
ェ
リー
は小さくため息をついた。いかん、また不機嫌にさせてしま
っ
た、と思うと俺は冷や汗をかくばかりだ。シ
ェ
リー
は黙
っ
て部屋の中に入
っ
てきた。カツカツカツ、と靴音が響く。膝丈の白衣の裾がかすかに翻
っ
た。ドン、という音とともに、ボウルが机の上に置かれた。
「食え
……
そんなに言うのなら
……
」
「い、良いのか?」
思わず聞き返したら声が裏返
っ
た。今までは試験管に小分けされた鶏挽き肉と香菜のなんとかしか食べることができなか
っ
たのに、今日はボウルごと持
っ
てきてくれた。あの中に鶏挽き肉とかのピリ辛がどれぐらい残
っ
ているのかは不明だが、今までよりは腹を満たせるかもしれないと思うと、すでに涎が大量分泌され始めていた。俺の目線はボウルに釘付けにな
っ
た。
「お前にと
っ
てこの料理はそんなに大事なのか
……
毎日大声で食べたいと声が枯れるまで叫ぶぐらいに
……
どうしても私たちにその本当の名称を教えたくないぐらいに
……
」
随分と弱々しい、らしくない声に俺は思わず顔を上げた。目が合う。相変わらず厳しく眉根が寄せられていたが、何かがいつもと違
っ
た。
「い、いやだからそういうわけでは
……
」
それを遮るように、シ
ェ
リー
が首を振り、目をそらした。そのとき、ようやく違和感正体に気付いた。
「今までー
ー
すまなか
っ
たな」
「え
っ
」
そう言うなり急にシ
ェ
リー
は走り出した。カ
ッ
カ
ッ
カとまた靴音が響いて、長い黒髪が揺れる。白い小さい背中が自動ドアの向こうに消えてい
っ
た。俺はしばらく閉ま
っ
てしま
っ
たドアを見つめていた。また腹が鳴
っ
た。た
っ
ぷり5秒。どうしよう、腹が減
っ
ては戦はできぬというし、1週間前の給食を食べてから行動すべきではないか、という誘惑が頭の中を過ぎ
っ
たが、さすがに目の前で女の子に涙ぐまれて無視するわけには
……
という思いも同時に過り、頭痛がした。
***
このひき肉とナンプラー
がうんたらなんて料理は、俺の好物でも何でもない。すべての発端は、トミヤマ第三中学校給食センター
で毎年7月に催されるエスニ
ッ
ク献立週間なるもののせいだ。
俺はその日給食当番だ
っ
た。割烹着に着替え、配膳台に置かれた挽き肉のなんとかが入
っ
たボウルを抱えたところだ
っ
た。それを教室内に運ぼうとした瞬間、辺りがまばゆい光に包まれ、思わず堅く目をつむり、再び目を開いたら、その時はすでに、俺はこの世界に来ていたのである。
何を言
っ
ているのかわからないとは思うが、俺もその時は状況がさ
っ
ぱりわからなか
っ
たのだから仕方ない。気付いたら学校の教室ではなく、SFアニメに出てくる悪の組織の研究施設みたいな部屋にいた。迷彩服を着た10人ほどの男たちに囲まれていた。突然のことに思考停止して固ま
っ
ていると、迷彩服の男たちをかき分けて、白衣を着た人間が二人、現れた。一人は骸骨のようながりがりの顔をしている大人で、もう一人が俺と同じくらいの歳に見える少女だ
っ
た。
「むむむー
……
」
先に声を発したのは骸骨だ
っ
た。
「ちび
っ
とだけ、計算外なのだー
」
骸骨は確かにそう言
っ
た、ように俺は記憶している。しかしその呟きが耳に入らなか
っ
たのか、少女は突然大声を上げた。今のところ、シ
ェ
リー
があんなに大声を出しているのをそのとき以外に聞いたことがない。
「ドクター
! ドクター
・シ
ャ
ン! やりましたね、ついに、大成功です!」
シ
ェ
リー
がドクター
・シ
ャ
ンの白衣の襟刳りをつかみ歓喜を露わにゆ
っ
さゆ
っ
さと揺らしているのを俺は呆然と見つめていた。さ
っ
ぱり状況が飲み込めないので、とりあえず「ラボで割烹着
っ
てや
っ
ぱおかしくね?」などと思
っ
ていると、多少興奮が収ま
っ
たらしいシ
ェ
リー
が、今度は一目散に俺の元まで駆け寄
っ
てきた。
「これが?! これが、君の世界の食べ物なのか?!」
そう言うと、俺の抱えていたアルミのボウルのふたを勢いよく取り払う。まだそのときは生暖かか
っ
た例のあれが、むわんと異臭を放
っ
た。
「不思議なにおいがする
……
これが、食べ物というものなのか!」
「ボクちんはこの臭いを嗅いだことがある気がするのだがー
。とりあえず、お寿司ではないみたいー
」
「あの、あの、あの、これは、俺、一体、これは
……
」
不可思議すぎる状況と、今までの学校生活では絶対にあり得ない、絶世の美少女がものすごい至近距離に接しているという異常事態にパニ
ッ
クになりながら口をぱくぱくしていると、ドクター
・シ
ャ
ンが状況を説明してくれた。
「うー
っ
す。とりあえず、ボクちんたちは平行世界の文明の食生活を研究しているところでー
。急に申し訳ないのだが、協力して欲しいワケー
」
曰く、ここは俺が今まで済んでいた世界の、無数にある平行世界の一つだとか言う話で。
ドクター
・シ
ャ
ンの率いる研究チー
ムは、様々な文明の食生活について研究するため、ひたすら平行世界から知的生命体を移転技術によ
っ
て呼び寄せている。今回はたまたま俺が引き当てられた。
そもそも何故彼らがそんな研究をしているのかというと、彼らの国の、アルゴリズムによ
っ
て未来予知をしているスー
パー
コンピ
ュ
ー
ター
が、1000年後に人類が滅亡するという結論を導き出した。そこに至る細かい経緯はわからないが、どうも彼らの現在の食生活に問題がある可能性が浮上した。そこで滅亡の未来を回避するため、あらゆる生命体や文明の食生活について研究しているとかなんとか、この世界の生命体については全て調べ終えたので、今はひたすら平行世界から食事中の生命体を呼び出しているとか
……
「何度も失敗した末に、ようやく私たちと同じような二足歩行の知的生命体を見つけることができた! どうか、君の世界の食べ物について話を聞かせて欲しい。これはものすごく臭うのだが、なんという物なのだ?!」
せめてそれがカレー
とか肉じ
ゃ
がとか、最悪もう牛乳とか白いご飯とか味噌汁でも良い、そういう物であ
っ
たなら、その後の展開が違
っ
ていたかもしれない。俺は食べ慣れない上にやたらと長
っ
たらしい給食の献立の正式名称など正確に記憶できていなか
っ
た。
***
迷路のような研究都市を歩き回り、ようやくたどり着いた地下の、大きな自動ドアの前に立つ。ウ
ィ
ー
ンという音と共に開いた先に広がるのは、多分学校の教室二つ分ぐらいの広さはあるのではないかと思われるが、謎の機械がひしめき合
っ
ているせいで随分と狭く圧迫感のある部屋だ。ここではいつもシ
ェ
リー
を含めた数人の研究員が忙しそうに作業をしているのだが、今日はドクター
・シ
ャ
ン一人だ
っ
た。
「うー
っ
す、ハルトちん。こんなところに来るなんて珍しいに
ゃ
あ」
「すみません俺、シ
ェ
リー
を探してるんですけど
……
」
「シ
ェ
リー
ちんならさ
っ
きお手紙のようなものをボクちんに手渡してきたのだがー
。ボクちんは一日5行以上書ける人は許さないのでー
。追い返したのだー
」
このドクター
・シ
ャ
ンというのはいつも人を煙に巻くような要領を得ないことばかり言うのだ。
「ええと
……
どこへ行
っ
たか知りませんか?」
「どこへ行
っ
たかは知らないがー
。そのうちまたハルトちんに会いに来ると思うのでー
。とりあえずハルトちんはここに座
っ
てボクちんと飲めばいいのだー
」