第三回 てきすとぽい杯
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トカゲの尻尾
志菜
投稿時刻 : 2013.03.16 23:41
字数 : 926
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トカゲの尻尾
志菜


「今までの時間を返してとは言わないけど、これからの時間はあんたにはやらないわ」
 そうあいつに言い捨てて一週間が経た。
 分かてた。あいつがどんなにいい加減で、だらしがなくて、嘘つきだてことは。
「付き合うことで、互いにプラスになるような関係になりたいて言てたじない」
「男前でなくても金持ちでなくてもいいから、価値観が一緒の人といるのが一番、じなかたの?」
 昔からの知る友人たちは、あたしが愚痴や泣き言を言うたびに口を揃えて言ていた。
 あんな人だけど、いいところもあるのよ。あの人のいいところは、あたしにしか分らないのがいいのよ。
 相談したくせに、結局そんなぬるいことを言い返してあたしだけど、強がれば強がるほどみじめになていく自分に気がつき、思い切ることにした。
 プライドの方向が間違ていたことに気付いたと言ていいかも。
 朝、目が覚めるたび「もうあいつとは別れたんだ」と思う生活にも、慣れてきた。
 同時に、何をしても楽しくない自分に気付いた。
 買い物に行ても。化粧をしても。美味しいものを食べても。旅行に行こうと思いついても。自由になた時間を勉強や資格取得に当てようと思いついても。映画を見ても。散歩に出ても。友人と会ても。
 人生は所詮暇つぶし。
 そんな言葉が頭に浮かんで、力が抜けてしまう。
 暇つぶしでもいいと思う。楽しければ。やりがいがあれば。
 そう思うそばから、にが笑いが浮かんできて、歩き続けるのもつらくて――
 いそあたしは走り出した。
 あいつの住む駅の匂いも、途中の看板の色褪せ具合も、駆け上がる階段の音も泣き出したいくらいに懐かしくて。
 たた一週間なのに。
 たた一週間だから、今ならまだ間に合う?
 ドアを開けると、薄い布団の掛かたこたつの中で、あいつはヘドフンをしながら雑誌を見ていたけれど、あたしの姿を見て顔を向けた。
 その顔は無表情で、あたしは一瞬、怖くなた。
 今さら、何だよ。そういわれてもおかしくないのが分かているから。
 でもあいつは、にやと笑た。
「人を蜥蜴の尻尾みたいに切るなよな」
 あきれたような、拗ねたような口調がおかしくて、あたしも笑た。
「尻尾切たから、舵もうまく取れなかたし、バランスも悪くなてたわ」
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