てきすとぽい
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第20回 てきすとぽい杯〈夏の24時間耐久〉
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MK-69「最期に聞く声」
(
muomuo
)
投稿時刻 : 2014.08.17 12:21
字数 : 1000
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MK-69「最期に聞く声」
muomuo
その墓前には、彼のことを記録したカー
ドが捧げられている。二度と揃えられてはいけない、二葉のカー
ド。一つは、只の人としての。もう一つは
……
。
◆
盲目の知的障害児ピエー
ルは、誰からも愛される笑顔の持ち主だ
っ
た。爛熟しき
っ
た文明社会、穢れき
っ
た現世にあ
っ
て、一身に神の恩寵を受けられるとすれば彼をおいて他にはないと、誰もが確信していた。脳の解明が進んだ現代、知的障害は過去のものとな
っ
ていたが、同時に頽廃の波に飲み込まれぬ者もまたいなくな
っ
ていたからである。視覚、聴覚、四肢をも含む複雑な多重障害ゆえに、ピエー
ルの神経にだけはメスを入れることができなか
っ
た。
彼の器は大きか
っ
た。というより、ある日彼は、大きな大きな器にな
っ
た。
神なき時代の天界で、神の遺産たる「恩寵の宝玉」が魔族に狙われた時のことだ
っ
た。三種の神器を守護する天使の一位、ガステ
ィ
エルが下界に逃げ延びて、宝玉をピエー
ルの体内に隠したのである。僅かでも邪悪な心を持つ人間では恩寵の力が失われてしまい、天使自身の体には取り込んでも隠せない。下界において悪魔の襲撃から宝玉を守り通せる場所は他になく、ガステ
ィ
エルはやむなくピエー
ルに神器を取り込ませたのだ
っ
た。一度でも神の力を発動させると、その力に耐えきれず器のピエー
ルごと崩壊して果てることを知りながら
……
。
けれども、抜き差しならぬ事態はすぐにや
っ
てきた。宝玉を携えた天使が地上に降り立
っ
たという情報を内通する堕天使から得た魔界のプリンスが、せ
っ
かく下界に蔓延している悪意を浄化されては堪らぬと、四種の魔神器から一つを持たせた悪魔を地上にけしかけたというのである。発動されれば世の終わり。悪意の連鎖が連鎖を呼ぶ、阿鼻叫喚の同士討ち地獄と化すであろう。天使ガステ
ィ
エルは、神が戻るその時まで人間を絶やしてはならぬと、ピエー
ルの魂を神に捧げる決意をしたのだ
っ
た。その力によ
っ
て人々が浄化されれば、代わりの器となり得る者も現れるに違いない。問題は何一つない。ただ、愛らしいピエー
ルの笑顔を犠牲にすること以外には
……
。
時は満ちた。最期の一瞬、神の恩寵を得て彼の意識がは
っ
きりする。初めて光が宿
っ
たその瞳は、亡き父と同じ碧眼であ
っ
た。
「君の顔が見えるよ、ガステ
ィ
エル。
……
母さんの顔も見える。妹の顔も見える。
……
ありがとう」
家族は、世界は、初めて彼の声を聴いた。そして美少年は詠唱を始める。涙は見せなか
っ
た。
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